三人の会話
「光を見て、勝軍地蔵から目に毒針が刺さった、なんて言われたでしょ。そのあとずっと真っ暗なの。目を開けてるつもりなのに何も見えない。だから失明したんだな、って思ったのよ」
「目は見えなくても、声はわかるでしょ?」晴美さんが言う。
「それが確かに晴美や信子の声だったのよ。不自由してないかとか、大学には上手く言っておくからとか、イントネーションが福井弁と富山弁そのままだったわ」
「そんなことある?それで前田さんには何て言われて気を許したのよ」
「だってあなたたちは電話してくるだけだし、頼れるのは前田さんだけ。とっても優しい声でね、視力が戻らなかくても一生そばにいますから、なんて言われたら、そりゃあハイどうぞってなるわ」
「ハイどうぞって、女の武器を簡単に渡しちゃ駄目よ」と信子さん。
「もうまったく!ゆかりは緩すぎるのよ。だから男運が悪いって話になるんだよ」晴美さんが呆れ顔で言う。
「なんでそんな簡単に騙されるかなあ。頭はいいはずなんだけどなあ」
「わかってる!わかってますって。私は一生、男運が悪いままなのよ。それにしても・・・」
「何よ。前田さんのこと?職場が家の前だから、今後も顔合わせることあるよね。格好悪いよね、お互い」
「前田さんのことじゃないのよ。康平くんに聞いたのよ、私の初恋の人の今」
「あら?誰のこと」
「中学の時の友だち。打ち明けないまま別れちゃったんだけどね」ゆかりは恥しそうにうつむいて言う。
「ふーん。で?」
「彼の今の恋人、男性なんだって」
「そこから?男運の悪いのってそこからなの?こりゃどう慰めていいやら」
晴美さん、そう言うと信子さんと目を合わせ、そのうちプーッと吹き出した。
「私の付き合った四人、全部まともじゃないってことね」
ゆかりはがくりと肩を落とした。
「あら。同性愛って異常なの?」と晴美さん。
「そうね、私が間違えた。男子を好きな男子を好きになった私が馬鹿なんだ。これからはちゃんと聞きます。女性に興味ありますか?他にもいろいろ聞かなくちゃ。セクハラは絶対にしないと誓えますか?二股三股かけないって誓えますか?変態プレイは求めないって誓えますか?」
「男子には無理だわ。私がパートナーになってあげようか」晴美さんがニタッと笑い顔で言った。
「へえ、晴美って同性愛に理解あるのね」
信子さんの言葉にゆかりと晴美さんはじっと見つめあった。
それに気づいた信子さん、
「あれ?どうかした?」ときょとん顔。
ゆかりは首を振った。
「ううん。何でもない。私だって理解はあるけど、康平くんが私のこと好きなんだって。わりとイケメンよ、でもまだ高校一年生なの」
「待つしかないね。彼が大人になるのをね」晴美さんが笑顔で応えた。
「ところで勝軍地蔵のこと、知らない?」
「黒川茂子さんて、愛宕坂の家に住んでたお婆ちゃん。その人のとこにいるわ。坂井町の老人ホームにいるわ」




