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愛宕坂の勝軍地蔵  作者: テッドオフ
24/31

合流

 一方、晴美さんと信子さんも愛宕坂に向かって歩いていた。


「愛宕坂の駄菓子屋さんは知ってるよ。でも今もやってるかどうか。お母さんの友だちの実家だそうだけど、私は会ったことないし。ねえ、行ってお店開いてたとして、私たちそこで何するの?」

「ごめん、付き合わせて悪いと思ってる。でもそこにいけば、きっと何かわかると思うの」


 大学の食堂で男子学生に話しかけられた日の夜、信子さんは精神を集中させて記憶を手繰り寄せ、断片的な風景のスナップショットを呼び起こすことが出来た。そのイメージを晴美さんに口頭で説明すると、愛宕坂から足羽山公園にいたる途上の風景ではないか、という話になった。それで本日、無理を言って晴美さんを誘い出し、愛宕坂の石段を上がっているのだった。


「ええっと、あそこが駄菓子屋さんなんだけど、あれ?やってるのかな、開いてるよ」と晴美さん。


 二人は開いた玄関からそっと中を覗いた。

「ガソリンスタンドの事務所で目玉孫左衛門を昇天させたんや。そこで俺、ひと息ついてしもうてん。外にいた悪霊は仲間が何とかしてくれてるやろ思うとった。そやからそのことを忘れてしもうててん」

 三人の年配の男女を前に、小学生ほどの男の子がタメ口で話しているのが見えた。


(ガソリンスタンドだって)

 信子さんは声にならない声で晴美さんに言うと、晴美さんも同じことを思っていたらしく、うんうんとうなずいた。


 少年の話は続く。

「悪霊と桃園ゆかりが争う音に、俺と彼女の二人の友人があわてて外に出たんやけど、ちょうどその時、悪霊がどばッと顔面の皮膚を輝かせて破裂させてな。その光を浴びた途端、桃園ゆかりは消えてしまったんや」


 顔面。光。破裂・・。桃園ゆかり・・。ゆかり?


「思い出した!」信子さんと晴美さんは同時に声を出した。

「どなた?」と里美さんが首を傾げて聞いてきた。

「桃園ゆかりの友人ってのがこの二人だ」と少年が二人を紹介した。

「あら?あなた丸岡さんちの晴美ちゃんじゃない?」と、里美さん。

 その声に黒川さん、晴美さんの顔を凝視すると、パッと思い出した。

「そうだ。里美の友だちの子だ。ちっちゃい時、何度か来たわよね」

「あー、おばちゃん!それに婆ちゃん!」晴美さんはいろいろと思い出したらしく、二人に駆け寄って手を取り合った。


「なんだか繋がってきたわね」

 信子さんはそうつぶやくと、次に少年に顔を向けた。

「あなたは勝軍地蔵ね。私たち、さっきまで忘れていたの。ゆかりのことも、あなたのことも、それにこの家のことも」


 少年はうなずいた。

「俺たちは嵌められたんや。最初から桃園ゆかりを拐う計画やったんや。それはおそらく俺の力を奪うためや」


「その通り!」と黒川さんが大声で言った。

「精霊は宿主から無理に引き離されると力を失い、やがては消滅してしまう。ショーちゃんに邪魔される前に、消してしまおうという計画だったのよ」


「ゆかりはどこに?まさか殺されたんじゃ・・・」晴美さんがおそるおそる聞いた。


「誰も桃園ゆかりを探さへんように、彼女を知ってるあんたたちや多田里美、竹内のオッチャン、それからボーイフレンド、他にもいるか知らんけど、みんなに彼女の存在そのものを忘れさせるまじないをかけたんや。ということは、彼女はどこかにいる。それも近くに」


 里美さんは少年の言葉に納得出来ずに不満げだ。

「私たちに桃園さんて人を忘れさせるまじないをかけたなんて、信じられないわ。お化けが私の家に来たってこと?私の家と、竹内さんの家と」

「多分な。ガソリンスタンドにいた若い連中はそこでかけられたんちゃうか」

「でもなんでお化けは竹内さんのことまで知ってるのよ」

「あれ?反対だけど、ゆかりの昔の恋人はゆかりのこと、忘れていなかった!」と、晴美さん。


「悪霊が何故、竹内のオッチャンを知ってて、昔の恋人を知らなかったか。何か理由がありそうやな。さて、二人以外はまだ桃園ゆかりのことを思い出せんようやけど、これはひょっとしたら桃園ゆかりが戻ってくるまで、駄目かも知れんで。それと桃園ゆかりがどこにいるか。それが俺にはわからんねん」


「誰ならわかるの?継体天皇はどうですか?」と信子さん。

「け、けいたいてんのー?」

 竹内さんが素っ頓狂な声を出して、全員彼に注目。

「いや、ごめん。さっきから何のことやらサッパリやったんやけど、やっと聞いたことある名前が出て、でもなんで継体天皇なのかな〜と・・・」


「竹内さん。こんなことに巻き込んでごめんなさい。よかったらこのまま帰ってもらってもいいわよ」

「いや、自分にまじないがかけられてるんでしょ。このまま帰れませんよ、怖いもの。それに桃ノさんて人が本当にいるのか、興味ありますしな」

「竹内さん、ショーちゃんは継体天皇が遣わした精霊なの。父と子の関係ね。あの娘さんはそのことを知ってるからそう聞いたのよ」と黒川さんが説明すると、やっと理解したようだ。


「誰も帰らないねんな。ほなみんなでお父はんのとこ、行こか」

「お父はんのとこって、ひょっとしたら、上の公園にある銅像ですか?」と里美さんが聞いた。

「そや。それとシゲちゃん、桃園ゆかりが戻るまで、シゲちゃんに取り憑かせてもろてええか?そろそろバタンキューになるわ」

「ああええよ、ええよ。あたしも歳だけど、まだ二日三日のうちは死なんやろで、こん中にいたらええよ」

「ほな、お父はんのとこ着くまで、ひと休みさせてもらうから」

 少年はそう言うと、さっと姿を消した。

 それを見た竹内さんは気を失いかけてふらふらと身体が揺れる。

「ちょっと竹内さん!」

 里美さんが竹内さんの肩を揺すると、ハッと意識を戻した。

「これから継体天皇に会いに行くらしいよ。こんなことで気絶しちゃ駄目」

「もっと怖いものを見ることになるんやね。やっぱり帰りますわ」

「駄目よ。お母さん、背負ってもらわなきゃ」

 その黒川さん、「ショーちゃん、やっと起きたばかりで疲れたやろね。休ましたげるな」

 そう言って胸をポンと叩くと、次に竹内さんに顔を向けた。

「それじゃ山の上まで、頼みますよ」




 竹内さんが黒川さんを再び背負うと、一行は店の外に出た。


「まさかお母さんと足羽山の上まで歩くことになるとは、思いもしなかったわ」

「いいじゃないの。あたしはもう長くないのよ。いい思い出になるじゃない」

「じゃあ、そう思うことにするわ」


 ちょうどそこに橘曙覧資料館からひとりの若い職員が表に出てきて、鉢合わせになった。


「あら久しぶり!前田さん」

 竹内さんの背中から黒川さんが声をかけた。

 前田さんがおどおどと見上げてみれば、懐かしい駄菓子屋のオバチャンの顔だ。

「あー、オバチャン!帰ってきたんですか?」

「そうじゃないの。でも一度戻ってみたくてね」


 信子さんと晴美さんは黙って前田さんの顔を伺っている。


「そうですか。でもお元気そうじゃないですか。もっと元気になって、お店再開してくださいね」

 前田さんはにこやかな顔でそう言うと、周りの人を見回した。


「さてと、ちょっと頼まれごとがあるんで、それじゃまた」

 そう言うと、そそくさと石段を降りていった。


「晴美。気づいた?」

「前田さんでしょ。彼もゆかりのこと、忘れてるみたいね。いいじゃない、ゆかりが戻るまで知らん顔しておこうよ。あの人、鈍臭いから役に立たないだろうし」

「そうじゃないの。あの人、私たちのこと知ってたわ」

「知らないはずよ。だってゆかりのことさえ知らないんだし」

「でも私と目を合わせた時、一瞬たじろぐっての?ひるむっての?目が驚いてたよ」

「それなら私たちの顔を見て、何かを思い出したのかもね。信子が感じたみたいに」


「晴美ちゃん」と里美さんから呼ばれて、前田さんの話は終わりになった。

「はい、お母さんよ」と携帯電話を渡されて、何故一緒に足羽山目指して歩いているかを電話の先の母親に話し始めた。


 二十分ほど歩いて、足羽山公園の中央にある継体天皇像のある低い丘に着いた。

「この上が三段広場っていうのよ。さあ継体天皇に会いに行きましょう!」と黒川さんは元気がいい。

 晴美さんと信子さんは上を見上げた。

「ここから見たら三十段ほどにしか見えないんだけどねえ」

「凄く高かったよね。百段はあったよね」


 その会話が聞こえた里美さん、

「何言ってんの、すぐそこじゃないの。さあ行くわよ」


 里美さんの言うとおりだ、すぐにてっぺんに着いてしまった。

 中央には以前に会った継体天皇が笏谷石の大きな彫像となって鎮座している。


「あれー?」「どーゆーこと?」





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