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愛宕坂の勝軍地蔵  作者: テッドオフ
20/31

プロム

・・・・・・

喉の奥まで入れるんだぜ。そうそう、全部含んでくれ。全部口の中にいれちまってくれ。ほら左手が遊んでるぜ。へへへ、桃、お前、やっぱりド助平だな。

・・・・・・

・・・・・・


 ・・・・・

 もうやめ!・・・て。

 ハッと目が覚めた。


 中野光男・・・。嫌な夢だった。意識が戻ったけれど、相変わらず見えるものは何もない、これって目覚めたことになるのかしら。

 そんなことはどうでもいい。やけにリアルな夢だった。まだ心臓がドキドキしている。乳首はビンビンだしあそこは凄く濡れている。私はマゾの気なんかないと思っていたんだけど、今はよくわからない。

 ところで前田さんは?帰ったかしら。


「前田さん」私は声に出してみた。

「はい。ここにいますよ」

 隣の部屋から声がした。


「今、何時ですか」

「六時、五分ですね。あの、隣には勝軍地蔵少年も座ってるんですけど」

「勝軍地蔵も?あんた私の中にいたんじゃ」

「遠慮してたんじゃないの。むつみごとってのをしてたでしょ」

「あ」

「嘘だよ。身体に色欲が充満すると、居場所がなくなって追い出されるのさ。別に興味も関心もないことだから、いたって何も感じないけどな」

「そうだったの。まあ私も全然気にしなかったけど」

「その度胸の良さはお前の長所ってやつだな。ところでお兄さん。この通り俺が付いてるんだから、気にせず帰ったほうがいいぜ。今日も仕事があるんだろ?」


「はい。桃園さん、僕はいったん帰ります。それと、もちろん大学はお休みしますよね」

「そうね、そんな気にはなれないもの」

「昼休みに戻ります。下でお弁当買って来ますから」

 そう言うと既に用意できていたらしく、立ち上がるとすぐに階段を降り、表玄関を開けて石段を駆け降りていく足音が聞こえた。


「さてと。とにかく俺がずっといるから、トイレ行くなりシャワー浴びるなり、したいことを言ってくれよな。学校だって行けるんだぜ。俺がついてるんだから」


「ありがとう。私、また失敗しちゃったね」

「うん?何のこと」

「私、無鉄砲なところがあるの。それに昨日の夜のことも。前田さんのことは嫌いじゃないよ。どっちかって言うと好き。でも男女の関係を持つほど親密には、まだなってないはず」

「いいじゃんか。恋なんかしょせん勘違いなんだから」

「欠点の多い人間ね、私って」

「人を好きになるってのは、その人に欠点があるからなんだぜ。駄目な人だから好きになるんだ。欠点のない人なんかひとつも可愛くないじゃんか」


「私が可愛いのは欠点のせいか。だったらしょうがないね」

「お前のそういうとこ、好きだぜ」

「トイレ!」と私は立ち上がった。

「わかった。ガイドしてやるから。その前にひと言。お前、丸裸だからな。そのへん、気をつけたほうがいいぜ」



・・・・・・

ラインもメールも駄目だと思ったから電話した。学校にはうまく話しておくからね。

ごはんは前田さんと食べるのか。今度の恋人はいい人だといいけど。まあイケメンじゃないからね。

・・・・・・

・・・・・・



 その日の午前中はずっと、勝軍地蔵に聞きながら家の中、店の中を歩き回った。見えていたときには気づかなかったものがいっぱい障害物として存在していた。途中、信子さんからお見舞い電話が一件。


 昼になって、前田さんが弁当をふたつ抱えてやってきたので、一階の居間で食べた。

 食事の最中に、今度は信子さんから電話がかかってきた。


「不自由してない?前田さん、優しそうな人だから言うけどこの際、甘えちゃいなさいよ。そこでじっとしてると、そのうち良くなるわよ。良くなるっていうのは、ハッピーになるってこと」


 ハッピーになる?信子さんも晴美さんと同じことを言う。


「お友だちからですか?」と前田さん。

「ええ。朝も電話があって。昨日一緒にいた二人からです」

「仲のいい三人ですね。なら心配しますよね。目が見えないなんて、そりゃ最高に不自由に思うもの。何でもしますから、僕にも言ってくださいね。そうだ、僕の電話番号、ケータイに登録しようと思うけど、かけられますかね」

「どうだろ?勝軍地蔵に聞きながらなら、出来るんじゃないかな。登録して」

「わかりました。ところで大阪のご家族には連絡した?」


 私は首を振った。

「心配かけたくないの。真っ青な顔して飛んで来ると思うし」

 本当は連絡しても「あ、そう。気をつけなきゃ駄目よ」なんて言われるだけで、来てくれたりしないんじゃないかと、そっちを心配してるんだけど。


「本当に治るといいですね。でも、もし視力が戻らなかったら、その、僕と一緒に暮らしてくれる、んでしたっけ。怒らないで欲しいんだけど、僕は桃園さんとずっとこうしていたいんです。だって昨日の事故がなかったら、きっとこういう関係にはならなかったし」


「あら、そうでもなかったかも」と私は言った。

「初めて会ったときから、感じのいい人だって思ってたんです。私こそ迷惑かけて申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。その、昨日の夜のことも、私からお願いしたことだし」


「桃園さん、ひとつ言いたいことがありまして」

「はい?どうぞ何でも話してください」

「僕、昼から有給で休み取ったんです」

「え?」

 それってどういう・・・。

「昨日は突然のことで焦ってしまって、上手くいきませんでした。だから、その、桃園さんが良ければの話しなんですが・・・」


 もう一度私を抱きたい、ということみたい。私も望むところだよ。何故か昨日の夜から性欲が収まらないの。


「少年、悪いけどまたしばらくそのへんに行っててちょうだい」と、顔を天井に向けて呼びかけた。

 返事はなかったけれど、私は立ち上がって玄関に出て鍵をかけた。


「前田さん。シャワーどうする?先に浴びる?後にする?それとも洗いっこする?」




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