愛しかない
「永見右衛門はこうして悪霊となったのじゃ、十三人の与力を引き連れて」
「可哀想過ぎるじゃないの!永見右衛門て人」と晴美さんが言った。
「そうじゃのう。悪霊といっても半分くらいは酷い目にあった怨みからそうなったのが多いんだぞ」
「でもそんな昔からずっと町をウロついてるわけじゃないんでしょう?なぜ、今なんですか」と、信子さんが聞いた。
「良い質問じゃ。永見右衛門の霊はこれまで御泉水邸に何か起きると地面の中からあらわれるのだ。で、一年ほど悪さをして回って、それに飽きるとまた御泉水邸の土中に還ってゆく。アメリカ軍の空襲で焼夷弾が落とされた時、福井大震災の時、その度に彼らはあらわれ、そして還っていった」
「で、今はなんで?」
「永見家取り潰しのあと、御泉水邸は養浩館と名を変え、松平家の別邸として使われた。福井空襲、大地震のあと、養浩館のあたりは未整備のまま放ったらかしにされていたのだが、最近、観光用にと養浩館を新しく、美しい日本庭園に手直ししておるのじゃ。養浩館の隣に資料館なども造って、何でも今年中にオープンするとか。永見右衛門の霊があらわれたのは、新しく庭を作り直しているからなのだ」
「じゃあ、このままだと」
「観光客は酷い目に会うじゃろうな」
「酷い目にって、どんな目に遭うのかな?」と晴美さんがつぶやいた。
「右衛門も与力たちも、女を知らんまま若くして死んだ。だから奴らは女に関心があるのだ」
「うーんと、それって・・・」
ゆかりは探るような目を継体天皇に向けた。
「うむ。女子は恥ずかしい目に遭うことになる」
「死んじゃうとか、そんなんじゃないのね」
ゆかりは安心した声でつぶやいた。
しかし晴美さんと信子さんの冷たい視線を感じて、
「でも何とかしないと。ねえ?」
「それで、何をしたらいいんですか」晴美さんが継体天皇に聞いた。
「夜、町をぶらついて、奴らがあらわれるのを待つしかないのう。誰に取り憑いてるか、わからないし」
「一人、心当たりがあります」と信子さんが言った。
継体天皇は信子さんに顔を向けた。
「侍の格好をした霊を見たのじゃな。どのようななりをしておった?」
「大きな身体、ギョロリとした目、蛇みたいな細くて長い舌をペロリ」
「目玉孫左衛門じゃ。そやつと話したことは?あることないこと好き放題に人を辱めるようなことを話す大ボラ吹きなのじゃが」
晴美さんと信子さんは目を輝かせてゆかりの顔を見た。
「人を辱めるようなことを話す大ボラ吹き!」
「あることないこと言う!」
ゆかりは中野光男のことを思い出し、恨めしい表情を見せて唸った。
「なかのみつお〜!」




