25.それでは皆さまさようなら
死ね、とあまりにも簡単に宣ったルルティリアについて、皆が正気なのか、と血の気を無くしたが彼女は至って正気。まとも。
正常だからこそ、いらないものを全て排除して、新しき体制を築いてしまおうと、そうした。
「だ れ に し よ う か な」
ゆっくり、一人ずつ、ルルティリアの白くて細い指先が、指し示していく。
「……あは」
彼女の獲物に決まったのは、元老院唯一の女性。
「ひ、」
「こんにちは、お久しぶりですわ元老院のおばあ様」
優雅に一礼をし、ルルティリアはにこりと微笑みかけるが、そこには親愛の情など一切なかった。昔は、そう、おばあちゃま、と可愛らしく微笑みかけてくれていて――。
「さようなら、またいつか会えたら……どこかでお会いいたしましょう」
とん、とルルティリアが地面を蹴る。
ああ、何という成長具合か。どこか嬉しく、どこか恐ろしく――そして。
「――ぁ」
気が付けば、ルルティリアは彼女の眼前に迫り、そのまま腕を突き出してきて、ぞぶ、と躊躇なく腹を貫いた。
「るる、てぃり、あ、ひめ」
「はい、おばあ様」
「……ばあや、は……うれしく……」
思います、とか細い声で呟いたその女性は、ぱちん、と光が弾けて逝った。
血は出たけれど、ヒトと異なっている彼らは、残らないのだ。だから、血が出たかと思えば、ざぁっと黒い灰のように変化して、あっという間に消えていってしまう。
かき集めようとしても、残らないし、残すこともできない。
「……うーん……呆気なかったですわねぇ……。こんなものですの?」
じぃ、と女性が消滅していく瞬間を眺めていたルルティリアは、完全に消えたことを確認し、ぐるりと振り返る。
目に宿っている光は剣呑そのもので、ぎらぎらと他の面々を捕えた。
「おま、え」
「まぁ、とっても不敬」
そして、またルルティリアは跳ぶ。
距離がないかのように移動してみせ、そしてターゲットに定めた長髪の男性の肩に手を置いたかと思えば、そのまま肩に置いた手にぐ、と体重をかける。
「ぐ、ぅ!」
「うふふ、わたくしとぉっても大きくなりましたでしょう?おじい様たち」
にこにこと、何でもないかの様に微笑みながらもルルティリアは容赦などしない。
あは、と笑ったかと思えば重力魔法を展開し、男性を地面に倒れ込ませたのだ。ぐしゃり、と潰れてしまいそうになりながらも、どうにか耐えているが、ルルティリアは手を緩めることはない。
手を抜けばルルティリアが殺されるのかどうか、と問われればそういうわけではないのだ。別に殺される心配をルルティリアはしていないし、殺されてやるつもりなんか毛頭ないから笑っている。
そして、今。現時点で潰されそうになっている彼は、気付いているのかいないのか。
ルルティリアは浮いている状態で、ぐぐぐ、と彼に重力をかけている。ちなみに遥か昔、ルルティリアが同じ術を父だったモノにかけた時に『ははは、ルルティリアは重たいと知られたくないのだろうか』とからかったところ、ブチ切れさせてしまった、というお茶目では片付かない過去があったりするが、それは今はどうでも良いこと。
「ねぇ、答えて?おじい様、わたくし……」
ぐしゃ、という音と光が弾けることがほぼ同時。
「強くなったかしら……って……。ざぁんねん、答えられないかぁ」
何事もなかったかのようにふわりと着地をしたルルティリアは、子供のように頬を膨らませている。
「ルル、手加減はしてやらないのかい?」
「まぁギル様ったら!そんなことをすれば元老院のおじい様たちに失礼にあたりますもの!手加減一切不要……ですわよね?」
ギルライハに向けて話すときは、とても穏やかに。
だが、『ですわよね?』と念を押す際に元老院の残りの方を振り向いて話すときは、とても冷たい目で。
「……ばけ、もの」
「失礼ですわよ、おじい様ったら♪」
にこ、と口元だけで微笑んで、そして今度はゆっくりと声の主の方に歩いていくルルティリア。次の獲物は長い髪を三つ編みにしている、元老院の中でも比較的若いとされるモノのところ。
「いやだなぁ、ルルティリア姫。わたしはおじい様、という歳ではないよ?」
「生まれ落ちてからの年数でいえば、おじい様ですもの」
二人の会話は、表面上穏やか。
にこにこと微笑み合っているが、一瞬だけ、会話が途切れた刹那。
「……参る」
「どうぞ」
だがしかし、こいつは欠片を持っていない。
先王の欠片の、最後の一つ。それを手に入れればいい。最初も次も、持っていなかった。こいつも持っていない、、となれば……とルルティリアは考えながら伸ばされた手をぱしり、と掴んだ。
「む」
「ねぇ、おじい様。思うんですの」
反対の手を、ルルティリアは己の背後に突き出した。
「卑怯なこと、なさらないでいただきたいんです」
そのまま、鋭い光線がギルライハに迫ろうとしていた別の元老院のモノを貫いた。
貫いた光は、そこから格子状に広がって、すぱん、とみじん切りにするかのようにしてそのモノを霧散させてしまう。
「わたくしのギル様に、何ていうことをなさろうとしたの?」
ぎりぎりと手を掴んだまま、力を込めていく。
「……ぐ」
「……ねぇ……お答えになって」
「ルル、俺ならば先ほどの攻撃は防げたぞ?」
「駄目ですの、ギル様。わたくし小さい頃のお返しをおじい様たちにしないと、気が済まないんですの」
何でもないように話しながら、ぎりぎりと容赦なく力を込めていくルルティリア。込められている方の顔色は、どんどん悪くなっていく。
「まて、やめ」
「それにね、ギル様?」
「何だ?」
「いずれ……わたくしと貴方の間に子を儲けたときの……ええっと、何ていうのかしら。そう、英雄譚のごとく、話して聞かせてあげたいんですの!」
だから、と続けながらとんでもなく力を込めていき、ぐしゃり、とその手首を握り潰してしまいきったのだ。
「あ、ああああああああああああああああああ!」
「駄目ですわ、おじい様。五月蠅いですから、ご注意遊ばして?」
潰してしまった手首の先は、消えていく。すると、ルルティリアの拘束から抜けた状態になってしまったためか、相対しているモノは、がくりと膝をついてしまった。
「まぁ!お膝をつくのは玉座にわたくしが座ってからにしていただきたいので、今はとてもマナーがお悪いですわ!」
まるで小さい子に対して叱るかのようにルルティリアは言い、そして、消えた手首から先を惜しむように『あぁ……』と悲し気に訴えている彼の後頭部を掴んで、顔面から地面に叩きつけた。
「…………っ!」
言葉は出なかったようで、そのままふるふると震え、動かないでいる彼の後頭部を、ルルティリアはゆっくりと足を上げ、ぐしゃ、と踏みつぶした。
「――よもや、ここまでお強くなられているとは」
「そうかしら?」
「だが……」
とても綺麗に微笑んで、拍手をしながらルルティリアを褒めるのは、元老院の中でも長老、と呼ばれている存在。
「姫よ、忘れておらんか?」
「?」
何を忘れているというんだろうか、とルルティリアは首を傾げた。
「お父上の欠片の、最後の一つ。これを手に入れんと姫は完全にはならんだろう?」
「……ええ、まぁ」
どうして長老がこんなことを言っているのだろうか、と考えかけたルルティリアの首元を狙って、斬撃魔法が飛んでくる。
「野蛮な真似をなさるのね、長老のおじい様ったら」
「…………む」
「でもありがとう、とぉっても分かりやすいヒント。ううん、答えを下さって……このルルティリアを甘やかしてくださったのね!」
ああ、やってしまったな、とギルライハは思う。
最後まで隠し通していれば、もしかしたらルルティリアはほんの少しだけ、欠片ほどの温情を与えてくれた可能性だってある。
彼ら元老院のことを尊敬して、一部は崇拝しているモノもいるくらいだというのに。
「判断を誤られた、か。老いには勝てぬ、というところだろうかね。嫌だ嫌だ」
ギルライハの口から出た言葉を、誰が聞いていたかだなんて、分からない。
狙いを定めてしまったルルティリアは、すぅ、と長老の方を向いてしまったから、きっと……もう、誰も残ることはできないことが、確定してしまった。




