記録戦争④
『ドローするわ』
自動山札からカードを引き抜きつつ、MPを回復させるエンデュミオン。その瞳には興醒めの雰囲気が漂っており、扇で隠した口元には笑いの一欠片も残っていない。
完全に幕引きの準備をする目だ。
『少しは成長したかと期待した妾が馬鹿だったのよな。庶民だからこそ出来る芸当と言うのがあるのかと思っていたが・・・・』
『・・・・』
『妾は『迷宮 スケルトン』を召喚するわ』
戦場に魔法陣が浮かび上がり、全身骨の剣士がその穢れ無き白き身姿を現した。
ボロボロの戦士の服に、強く握られたさび付いた剣。元は剣士だったのではないかと、そう思ってしまうそんな風貌、今は廃れたがなおその身から残り香として漂ってくるのは強者のそれだ。
Text―――――――
『迷宮 スケルトン』
種族:迷宮
コスト:無し P:4000
特殊効果 このカードが出た時、デッキから『迷宮 スケルトン』を1枚特殊召喚する。
―――――――――
『コカッカッカッカッカ』
『特殊効果でデッキから更に三体の『迷宮 スケルトン』を特殊召喚しますわ』
エンデュミオンの効果宣言によって、更に三体のスケルトンが魔法陣から飛び出してくる。どれもこれも打点要員としてはいいかもしれないが、少なくとも攻撃力を重んじるならもっと良いキャラは居る。
だとしたらこのキャラ達は何のために居るのか。
その答えはすぐに明かされた。
『時にお前、妾が『可能性の再構築』を使ったときにハンターズギルドだったかの信念を語ったではないか?』
『・・・そうだな』
『その時妾が捨てたカードの中にはな。お前が言っている”全く関係の無いカード”もあった訳だが、別にそれだけだったと言う事ではないのよ』
『と言うと・・・?』
『『蘇生魔導士 オルタノート』の効果発動』
『んなッッ!!?』
エンデュミオンが扇をぴしゃりと畳み、天へと掲げる。
傲岸不遜がここまで似合う女などそういない。
圧倒的なまでの”自分中心”オーラが際限なく溢れ出しているのだ。永眠させてやりたい。
そして発動したのは蘇生魔導士の蘇生効果だ。LP1を支払えば墓地からキャラ1枚を蘇生できる優れもの。1ターンに一度だけと言うが、その展開力の引きがねとなるカードなのだからその制限があってもなお強いことに変わりはない。
『妾ははオルタノートの効果により、墓地から『貪欲の魔王 イーラゲート』を召喚する』
『―――ッッ!!』
エンデュミオンの口から放たれた衝撃的な言葉には、流石のエンジも固まった。驚きが口にでも突っ込まれたかのように、エンジはその口をあんぐりと開けたままでいる。
迷宮魔王。
そのデッキのコンセプトが今まさに明らかになった。
自ら手札を捨てさせつつ、オルタノートで墓地蘇生するデッキだ。
正直、とてもそのクソみたいな性格のせいでそこまで深くは読み取れなかったが、それも含めてのエンデュミオンの強さと言うのは奥が深いのだろう。ま、そんな事ないが。
エンデュミオンが召喚する魔王は、その強大な力と共にかなり多大な犠牲を要する、正に貪食の魔王だ。
魔法陣が幾重も描かれ、その光が自身の場のキャラすらもむしばんでいる状況に、エンデュミオンは満面の笑みで贄を糧に魔王を召喚する。
味方のキャラだろうと慈悲はない。全ては彼女が相手に”見せつける”為の手段に過ぎないのだから。
『ぽぎょぎょぎょぎょ・・・・』
『コカッカッカッカ・・・』
『ウゴオオオオオオッッ・・・・』
『す、吸い込まれる・・・・!く、喰われる・・・・!』
それぞれのキャラが断末魔を残しながら、まるで喉奥へと吸い込まれ、咀嚼されるようにその魔法陣の中へ消えていった。
そしてそれと入れ替わるように現れる影が一つ。
――――口が五個に割れる強大な顎、それを支える強靭な蛇の身体。魔王と呼ぶにはいささか神話要素の強すぎるモンスター、全てを喰らうその顎は歌の『世界蛇』を想起させるほどに巨大で、その奥に底は無いと思い知らされる。
魔法陣からはその顎のみが地上の戦場に突き出した。
Text―――――――
『貪欲の魔王 イーラゲート』
種族:魔王 神
コスト:自身の場のキャラ10枚を墓地に置く。 P:30000
特殊効果:このカードは墓地以外から出せず、このカードが出た時、自身の場にこのカードだけしかなければ、以下の効果を発動する(発動順序は問わない)。
①相手の手札、場のカードの数が合計10以下になるように好きに選んで墓地に送る。
②相手のLPが11以上あれば、相手に10ダメージを与える。
③このカードの打撃力は10となり、『タンク』の効果を受けない。
――――――――――
『・・・魔王か』
『何を当たり前のことを言っておるのよな?遂に頭がバグったとでも言って、許しを乞うかね?』
『冗談じゃねぇッ!対抗魔法『聖域の恩寵』を発動s』
『対抗魔法『大魔王の権限』』
エンジが怒りを露わにし、手札から対『ダンジョン・エクスプロード』用のカードとして保存していた『聖域の恩寵』を発動する。―――直後として、エンデュミオンが返しの対抗魔法『大魔王の権限』を発動した。
Text―――――――
『大魔王の権限』
種族:魔王
コスト:無し
特殊効果:対抗:このターン中、自身の場の”魔王”の効果が発動する時、相手はそれに対抗出来ない。
―――――――――
渾身の抵抗を見せるも圧倒的な力の前に塵と化すエンジの魔法。
どこまでも人を絶望に落とすことが得意なようで、その手法には一切の躊躇いがない。人を馬鹿にしているのではなく、獲物を狩るにも全力を尽くすタイプの人であれば、間違いなく強者の器なのだが実際はその逆だ。
『イーラゲートの効果②を発動し、奴にダメージ10を与える』
エンデュミオンのダメージ宣言時だ。
その号令と共に、イーラゲートの姿が地面から消える。
『――――消えた・・・?――――わぐッッ!!?』
突然の戦場に訪れる沈黙に一瞬、エンジの瞳孔が開かれ―――、
彼の足元から魔法陣と共に円型に口を広げたイーラゲートが彼の身体を丸ごと持っていった。
突然の浮遊感と口内の粘っこい生物的嫌悪感の肉質に挟まれて目を回している間に、イーラゲートがエンジの身体を吐き出した。不味かったらしい。
エンジ ライフポイント(LP):12→2
もうどうり打ってその身体を立ち上がらせるエンジが、その膝を立てると目の前の状況に今度は口すらもパッカリと開けた。
そこには崩壊している『神なる聖域』、そして『聖域の守護龍』”だった”ものが人型の”何か”と共にイーラゲートに咀嚼されている阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。
『なん、・・・・・だと・・・・』
『皮肉よね。迷宮魔王なのに”魔王”を出したのがまさかこれが初めてだなんて・・・』
わなわなと震えるエンジに対して、エンデュミオンは肩の力を抜いて、やれやれと息を吐く。
そして、――だ。
『・・・・期待外れね。やっぱり。―――イーラゲートで攻撃』
価値なしと判断したか、エンデュミオンによってエンジの捕食が確定される。
畳んだ扇の先で膝を着いたエンジを指名して、イーラゲートに”餌”を与える。
『せいぜい、良い叫び声を上げなさいな』
クイッと、扇を軽く持ち上げた直後だ。
魔法陣からイーラゲートの全身が顕現する。
『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!』
飛び跳ねる魚のように、空中を泳ぐ質量を持った暴食が彼の身体を地面ごと呑み込んだのだった。




