パック選び
「1200Ptか。正直微妙だな・・・」
「タッグファイトで勝って、賞金貰って微妙って、負けた人が浮かばれないよ・・・」
「死んだわけじゃねぇんだから、んな物騒なこと言うなよ。つぅか、お前もお前だぞ」
「ユリハ!なんですけど!何で名前を覚えてないんですかねレッドワーフ君!?」
目をひん剥いて、――フードで見えないがおそらくそうなってるであろう、表情をするのは、妨害に妨害を重ねて相手選手を完膚なきまでに叩き潰した女性、ユリハだ。
今は何故か意気投合してしまったレッドワーフと共にカードショップを訪れている。
レッドワーフはパックを選びながら横に居る、やけに馴れ馴れしいユリハに言う。
「妨害展開して最終的には全員突撃。先攻ワンキルの僕より性質が悪い。―――だが、動きの封じ込めは良かった。紙版と比べればずっと遅いが、それでもまぁVRはカードパワーが傾かないようにしているから、まだましな方だ。でも、恐怖心植えこみ過ぎだぞ。過剰過ぎるぞアレは」
レッドワーフの言う”アレ”とは、アベルのダメージ効果、威人の三個の妨害、灰人の妨害の事だ。
相手の行動範囲を狭めて、不安を促し、冷静な判断力を失わせる。先攻10ダメージを出したレッドワーフよりもずっと、性質が悪いと言えるだろう。
だがそれでもレッドワーフは軽く称賛を送った。
だがユリハはお気に召さないようで、まるで分かったかのように口ずさむ。
「分かってるよ。妨害を軽く立てて、そこから先に踏み込んだものに手札・墓地・デッキ・異界から誘発していく。分かってるよぉ」
「分かってねぇだろ。だったらお前はお前で、もっとすごい事が出来たんじゃねぇの?ワールドカードから連鎖していくゲーム開始直後にゲームを終わらせる、”あんなデッキ”とかよ・・・」
「紙版と同じ動きを求められても困る・・・。出来ないってことは、無いだろうけど確率だよそれ」
困り顔のユリハに淡々と現実的な話を持ち込んでくるレッドワーフ。そこまで話が通じるのに初対面なのが不思議なくらいだ。
「ってか、なんでお前そんな僕の事気かけるんだよ・・・。今日で初対面だぞ?現実だったらお前、壺とか聖典とか変な契約書書かせてくる奴だぞ?」
「だ・か・ら!こうしてレッドワーフ君に最も合うパックを探してあげてるんじゃん!」
「じゃぁ僕じゃなくて、パックを見ろ」
割と女子に対しても辛辣な感想を投げつけるレッドワーフに、ユリハは「うぇぇ」と変な声を漏らす。
それから仕方なしと言わんばかりの顔でパックを覗き込む。
「レッドワーフ君って、何のデッキを作りたいわけ?魔法使い?」
「妨害型魔法使い」
「妨害、・・・ねぇ。妨害の出る確率低いよ?少なくとも、レッドワーフ君初心者なんだからパックで”妨害”出るなんて、レッドワーフ君に隕石突っ込む確率より低いよ!?」
「気にすんな。多分お前に彼氏ができる可能性の方が低い。・・・・ま、出る確率はあるってことだ。0じゃない」
困惑の声を出すユリハにレッドワーフはそっけなく答える。
セツラやカグヤに比べれば幾分か、自分から喋っているためまだ女子への対応の仕方がしっかりしてるのはそうだが、内容がクソだった。
その芯のこもった毒舌。だがそれでもユリハにはあまりダメージはない。
「ポジティヴシンキングだ!腹立つぁ~~!!」
「感情が籠ってねぇんだよなぁ。その時点で腹立ってねぇのが見て分かる」
パックの裏表紙、何が出るかのおおまかなカード詳細に眼を通し、違うと分かった瞬間にパックのタグを元に戻して、別のを取る。
現在のパックの種類は合計で123種類なわけだが、レッドワーフは既に70近くのパック数を見ていた。
口元すら見ずに淡々とユリハの台詞が空っぽなのを当てる、その洞察力だけは素直に称賛を送れる。
そんなレッドワーフだが、残りパックを漁っていると、ふと目が止まった。
目に映るのは魔法使いが描かれたような、そんなイラスト。
目先にあるタグは、発売時期が約5年前。画像こそ真新しいものだが、その裏表紙には―――、
「こいつ禁止カードになってんのかよ・・・」
レッドワーフの口端から零れた、消え入りそうな言葉が投げかけられたのはそのパックの裏表紙に描かれた一枚のキャラクターカードだ。
それは、一時代の妨害を創り上げた原点と言えるパックのカードで。
「最初の妨害カードは、『呪術の礎 ニコラス』。言わずもがな、全盛期の妨害環境デッキには必ず4積みされていたカード。エトワール君は、使わなかったけどね。・・・・自分が作り出したテーマなのにね」
聞こえないくらいか細い声で最後を区切ったユリハ。
レッドワーフはそれどころじゃなかったのだから、聞こえてはいない。一瞬、エトワールが作り出したカード、と言うように聞こえたが。
それでも、悔しそうに。
「このパックなら、いけると思ったんだけどなぁ・・・っ」
『呪術の礎 ニコラス』のレア度は恐ろしき、NRだ。6パック買えば1パックには必ずしもと言っていいほどに入っている汎用妨害カード。
だがしかし、今は悪さのし過ぎで禁止カード。限界突破カードに復帰することはなく、一生を降りの中で過ごす事となる。
その事実に、レッドワーフは無言で顔を隠してタグを閲覧済みの場所に戻した。
そんな様子を見ながらユリハは、レッドワーフの見ていないパックの内一つを選んで、手に取る。
「全く、エトワール君はもうちょっとマシなカードを作れなかったのかね?―――でもまぁ、レッドワーフ君の求めている”妨害”の魔法使い出るパックは、教えられるよ。禁止カードはどうしようもないけど」
そう言って、顔を振り向かせるレッドワーフにユリハは出ている口を大きく歪ませたのだった。
『ただ今、日本時間の午後十時を回りました。プレイヤーの皆さんは健康に気を付けてVRTCG”UW”をプレイしてください。繰り返します。―――』
機械音声と共に流れたのは現実の時間の知らせだ。
いくら無意識にと言っても、VRは人を眠った状態で意識を覚醒させている状態だ。眠らずにずっと続けていると、24時間を超えた際に健康の為に強制ログアウトを喰らう事となる。
「マジかー、もう十時か。・・・おれ帰ろっかな。宿題やらんとだし」
「そろそろ帰らないと親にまたキレられそー」
「みんな、帰るわよー!」
「あーもうちょっとしたかったんだけどなぁ・・・・・」
「ダンジョンクエストはまた明日だな」
UWの世界から次々とプレイヤーがログアウトして消えていく。
まばらになった人通りで、とある二人組が居た。
赤を基調とした髪の前部分に一筋の黒を入れた、全身痛々しい中二病コスで彩ったキワモノ男子と、黒フードで顔を隠し、やけに不気味なあ癖をつけている女子だ。
「また男か、ユリハ。いい加減、ナンパは止めたらどうだ」
「そういうシンクもそのファッションやめてよ。眼に毒なんだけど」
お互いに軽口を交わし、シンク―――そう呼ばれる男がハン!と鼻を鳴らす。
「言ってろ。我は断じてこの呪いを解くわけにはいかぬのだ。大災厄、正にそれが我が魂に刻み込まれているのだ。外見の悪さはいくらでも言えば良い!自身の身ではないのだからな・・・」
「台詞は良いんだけど、言う人がなぁ―――!」
「言うな。我とて、器に選ばれるだなんて大役、向いていないと言うことくらい分かっている。――それでも、我が良いとそう言ってくれた人に報わねばならない」
クッと、苦しそうに胸を抑えるシンクにユリハはあきれ顔だ。これで昔の環境を牛耳っていたグループだったのだから恐ろしい事この上ない。
そんなシンクはふと、思い出したかのようにユリハに聞く。
「・・・・そ、そういえば、エトワールは見つかったか?」
「ううん。まだ見つかってないよ」
シンクの質問にユリハは首を振る。だがしかし、そっと唇を緩めると―――、
「でも、居たには、居たんだよ」
「なんだそれは、・・・・哲学か?」
「違うよ。未来の婿様の話」
「―――。・・・・変わった話だ」
何か摑んだものの、確証が得られなかったのか端的に話を切り上げるシンク。
何かが分かったのだが―――。
「まぁ、良いとしよう。我は我で動くことにしよう」
ゆっくりと背もたれにしていた建物から体を離して、その足を踏み出す。
「迷惑はかけちゃだめだからね!」
そのユリハの警告に、シンクはゆるゆると首肯して―――。
「あぁ、安心しろ。我を誰だと心得ている?―――我が名は真紅。エトワールの右腕にして、奴の盟友だ」
「安心できねぇ~~」
「フハハハハハ!我が血の呪いがエトワールを求めている!我は今すぐに此処を離脱すべきだと、確信した。我は此処でさらばだ!また会おう戦友!」
突発的に狂笑し、そのまま人通りを突っ走るシンクを見送るユリハは、頭痛でもするのかこめかみを抑えて―――。
「何とかしなきゃなぁ・・・」
そう独り言を漏らすのだった。




