タッグファイト⑤
「ボクのターン、ドロー!」
自動山札からカードを引き抜き、手札に加えるユリハ。状況は完全逆転状態。こちらが優勢だ。
しかし、手を抜く必要性はないと、そう彼女は思っている。その証拠に、また一つの妨害を立てるのだから。
「ボクは手札から『灰人』を召喚。それでもって、もう一回『黒の反旗』を発動する」
戦場に投げ込んだカード上に魔法陣が出現し、そこからまた一人の黒い人が現れる。
全身がブレる、――粉だ。それも、まるで何かの燃えカスのような粉を全身に纏った、あるいは粉そのもので―――。
『―――――』
Text――――――――
『灰人』
種族:人 闇
コスト:無し P:3000
特殊効果:相手が墓地からキャラを特殊召喚したとき、そのカードを破壊する。
――――――――――
無言、というより言葉が分からないその”かいじん”はその見た目とパワーに比べて、性能が圧倒的に高い、威人と同じ妨害だ。
パワーこそ低いため攻撃済み状態であれば攻撃による破壊は可能だし、効果破壊キャラだの魔法だのを使えば簡単に処理が出来る。
だがそれでも、場の空気の流れを変えるのが妨害だ。
昔はこんな妨害が平気な面して環境を占領していたのだから恐ろしい事この上ない。
「――――くッ!」
唇を強く噛んだのはヨシハタだ。
墓地と手札を多用して自身の望む形へと攻守を入れ替えることのできる古代兵装には、墓地を制限されるカードは対極、否、天敵に他ならない。
おそらくは最初の引きの時点で、もう既に負けは決定していたかもしれない。
奥歯を噛みながら、自身の相方を先攻ワンショットを決めたレッドワーフ、そして自分の行動を制限してくるユリハに忌々しいものを見る視線を投げつける。
だが、
「MP+1、LP+1、2ドロー!・・・来たぁぁぁあああぁぁああああぁああああ!!!」
「やっとか。待ちくたびれた。さっさと完封してくれるか、ターンを僕に渡せ。今の手札なら、あのLPを削り切ることだって可能だ」
ヨシハタの睨みなんて外の外、ユリハは『黒の反旗』のドロー効果で渾身のドローを繰り出していた。
直後に快哉が鳴り響き、それを冷たい視線でレッドワーフが見ている光景にヨシハタの死線すらも入る余地はなく―――、
「ボクはLP3を支払い、『禁術の大門』を発動するよ!」
彼女がそう口にした瞬間、カードが光の粒子となって消えうせ―――、
代わりに彼女の真上、――はるか上空から規模が桁違いの魔法陣。そう見える程の暗雲が渦巻いていて。
Text――――――――
『禁術の大門』
種族:召喚
コスト:LP3
特殊効果:自身のデッキからコストにMPを5以上必要とするキャラ一枚を、コストを無視して召喚する。
――――――――――
「はぁッッッ!!!??」
驚きの声を上げたのは誰でもない、ヨシハタだ。
重いライフコストの代わりに発動できる効果がえぐすぎるのだ。
禁術の大門。禁忌にして禁断、正に触れてはならない領域の魔術。使用者は、そのあらゆる世界と媒介する門を作るためには居の血すらも削ることとなる。
だが、それで顕現した怪物は必ずしも削った命以上の価値を示してくれる。
それこそまさに―――、
「デッキから召喚するのは、『再臨の大邪龍 アベルニア・アベル』!」
暗雲が形どった魔法陣、シフルの時とは違い門の色は彷徨う黒い雲の色だ。
そこから現れたるのは全身を禍々しい黒い鱗で覆った黒い龍。
胸に赤い球体を埋め込み、その煮えたぎる怒りを凝縮しきれなかった球体から伸びた赤い線は身体中を駆け巡っている。
背中には五つの魔法陣が有り、まるで黒い翼を出しているかのように憎悪の瘴気が際限なく溢れ出ており、その瘴気を発散し続けてもなお、黒く猛々しく捻じ曲がった角を持つ漆黒の四つ眼が見る世界は晴れることがない闇で塗りつぶされていた。
腕も、足も、尻尾も、世界の血肉を抉ったような赤紫のマグマが固まった、そんな色を内側から漏れ出していた。
全てを破壊するまでは、止まらない。
暴走龍の原形。悪意と言うものをよく知っている、そう思わずにはいられない風体。
それが―――再臨の大邪龍 アベルニア・アベルという怪物だ。
Text――――――――
『再臨の大邪龍 アベルニア・アベル』
種族:ドラゴン 神 悪意 闇
コスト:MP5、LP6 P:25000
特殊効果:①このカードは相手のカードの効果で効果を無効化されず、場を離れない。
②相手がカードを引くとき、代わりに場のキャラ一枚を破壊し、相手にダメージ2。このダメージは減らない。
③3回攻撃。
――――――――――
種族に”悪意”を持つ、もの珍しい龍。その激重コストに比例して、その強さは最早狂気の代物だった。
完全耐性に、妨害に、打点要員、圧倒的なパワー。
純粋な戦力としても申し分はない。それこそ、大抵のキャラでは足元にすら及ばない攻撃力は脅威そのもの。攻撃済み状態でなければこの邪龍でも攻撃できないにしても、あまりにも障害が出来過ぎるのだ。・・・連携攻撃でも及ばないだろう。
「ば、――――ばけもの」
世界の代弁者、いや、普通の反応だ。
確かに、今のカードパワーこそ世界各国の会社が総力を挙げてバランスを取っているのに、こんなバケモノが”たったLP3”で出てくるのは余りにも常識破りだ。
そんなヨシハタの驚嘆に、ユリハは絶壁の胸を張りながら満足げに頷く。
「だって改訂前に出てきた、妨害環境の時のカードだよ?当時こそURだったけれど重すぎて誰も使わないから環境ハズレ。その結果、運営から目を付けられずに今でも四枚積みのできちゃうカードだもん!」
「そんなカードが四枚も・・・・!!?」
「ううん、これは私がエトワールから貰ったものだから一枚だけ。当時の私、”悪意”デッキじゃなくって”地獄紋”だったから。使わなくってさ」
押し黙ったヨシハタを見て、ユリハは「ふぅん」と興味なさげにヨシハタの盤面を見渡した。
そして―――、
「手札邪魔だなぁ・・・・」
フードの中から冷たい刃物のような声と共に、一枚のカードを切った。
「『海人』を召喚。お互いカードを2枚引いて、2枚捨てる」
魔法陣から現れたのはまるで漁師のような、銛を持ち、鉢巻と着物を着た黒い人だ。
『――――――――』
Text――――――――
『海人』
種族:人 水
コスト:無し P:2000
特殊効果:このカードが出た時、自身と相手はカードを2枚引き、手札を2枚捨てる。
――――――――――
「ま、待て。それは――――――!!」
目の前に現れたキャラのウィンドウ。それを見て、何かを察したヨシハタが待ったをかける。だがそんな願いが通るはずもなく。
「ガーディアンは効果破壊出来ないんで、4ダメージバーンと手札破壊バーン」
『グゥゥウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!』
アベルの咆哮。それと同時に背中から噴出していた瘴気が、まるで意志を持ったかのように曲がりくねりヨシハタを呑み込む。
「ぐぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ヨシハタ ライフポイント(LP)8→4
タグの数値が半分になり、更には一列に並んでいた光子状の手札も半分になる。
何を捨てたか定かではないが、ユリハは分かりやすく自身の手札を見て顔をしかめた。
「あーやば。『海人』来なかったかぁ・・・。これじゃなぶり殺しになっちゃう」
「言い方・・・」
サラッととんでもないことを口ずさみ、そのままアタック&ブロックフェイズに入るユリハには、流石のレッドワーフも人の心があったようで、悪い言いっぷりを三文字で指摘する。
だが、それで事実が覆るわけもなく、ユリハの指令でアベルに、怪人、魁人、灰人、威人、傀人、海人が動き出す。
『グゥゥウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!』
『『『『『『『――――――――――』』』』』』』
「『古代兵装・守護者【参式】』で攻撃方向の転換!」
無音にプラチナの身体を持つ『古代兵装・守護者【参式】』がヨシハタに背を向ける。だがしかし2、3mの守護者とは違い、アベルは体長15m以上だ。
結果は明瞭で。
「ああああああ―――――ああああ!!!」
金属の接合部分がひしゃげる音がし、守護者が文字通りにぺしゃんことなった。
その圧倒的なまでの差にヨシハタが腰が抜けたようにへたり込む。
災厄は終わっていない。
災厄は、終わってはならない。
大邪龍の咆哮。今度はその口から獄炎の死怨があふれ出し、その奔流がヨシハタに直撃して、
黒き人たちが一斉に群がりヨシハタの姿が絶叫事押しつぶされた。
ヨシハタ ライフポイント(LP)4→3→2→1→0
まるでカウントダウンでもするかのように、ヨシハタのライフポイントのタグの数値が擦り切れていく。
そして最後、0となった時だ。
約束の音声が流れ、景色が元に戻り始める。
『タッグ戦争が終結しました。戦勝者は『レッドワーフ』選手、『ユリハ』選手です。これにてバトルフィールドの展開を終了し、各自自動山札をデッキに戻します。大戦、お疲れさまでした』
『タッグ戦争の戦勝者にはそれぞれ1000Pt、そしてボーナスとして追加200Ptを贈呈します。なお、戦敗者は―――――』
いつも通りの機械音声と共に、レッドワーフとユリハの身体からポン☆という、軽快な音が飛び出た。
それを確認すると、レッドワーフは「ふん」とため息を吐いて、ユリハに頭を下げる。
「手伝ってくれなくてよかったし、勝手に参加しやがってとは思ったけれども、一応礼は言っとく。―――味方してくれて、ありがとう」
その様子を受けたユリハは「うぇッ!?」と不意を突かれたような可愛らしい声を上げて、
「ううん、ボクからもさ」
そう、意味深に笑ったのだった。




