タッグファイト④
「・・・ドロー」
さっきまでの威勢はどこかへとんずらし、残ったのは胸の内の大部分を占めている恐怖だ。
二対一が二対二となったものの、此方は改訂前からの古参だ。勿論大会にも出場し、それなりの箔と受賞経験がある。対して相手は初心者プレイヤー二人だ。ワールドカードと妨害を使う正体不明の”初心者”はさておき、一人は完全に初心者プレイヤーだ。アバター名を決めるところをしっかり目撃しているのだから、それは間違いない。
だが今の状況はどうだろうか。
週間トップキング大会の優勝者ともなったテリオは先攻ワンキルで見る影なく消し飛ばされ、状況は完全に逆転した。
初心者とは思えないようなコンボをキメて、特大10ダメージと過剰1ダメージを創り上げた彼を”初心者”と評するのにはいささか無理がある。
「紙版UWの使い手でも、この世界で望みどおりに動くのには時間がかかるってのに――」
それは自分自身に向けられた経験だ。
紙版、つまりはVRでない世界で彼はUWの大会の常連だった。動体視力の良さを生かして、デッキシャッフルで好きな欲しいカードを山札の一番上に載せられるほどには。
それでもって展開力も高く、VRTCG”UW”でもやっていける自信があった。
しかし現実は甘くなく、電子世界でシャッフルされるデッキトップを予測することはできず、VRでのカードパワーは紙版程狂ってなく、更には見た事のないカードと効果のオンパレード。
結果は明白、現実と同じ位動けるまでにかなりの時間を要した。
そんな過去あってこそ、その震える声の先に居る彼は異質だった。
「なんだ?アイツは初心者だ。だとしたらプレイ時間なんてまだ数時間程度・・・・」
まさか二つ以上のアバターを持っているとか―――。
頭の隅から声高々に主張する意見に納得しかけ―――、すぐに首を振った。
この世界で二つ以上のアバターは持てない。
UWの運営機関が作ったルールだ。
マイナンバー一つにつき、一つのアバターだ。例外はない。
一瞬、彼がアバターを二つ以上持った存在で、強キャラ感を演出している可能性は非常に高い。
だがそれは運営のルールが泣ければの話。
実際はかなり可能性が低い。
「チートの可能性は低いな・・・・」
チートは存在するが、使った直後に自動監視システムによって強制ログアウト。アバター自体が五万の乱数で組まれた自動拘束システムによって使用が不可能になる。
故に、彼がチートを使用している可能性はない。
なら、この強さは一体何なのか――――。
疑問は膨れてばかりで手が止まる。
流石に制限時間突破でゲームオーバーは格好良くない。
「切っておく手札は、切るしかない・・・・・!!」
後攻のテリオが居なくなった今、残った先攻は自分自身。
それは分かっているのだろう、手札から三枚のカードを引き抜いた。
「俺は手札から『古代兵装・守護者【参式】』、『古代兵装・制圧者【参式】』を召喚し、『盤上の帝王の王冠』を装備する」
Text――――――――
『古代兵装・守護者【参式】』
種族:古代兵装
コスト:MP2 P:7000
特殊効果:①自身が”古代兵装”のアイテムを装備している間、このカードは相手のカードの効果で破壊されない。
②タンク
――――――――――
Text――――――――
『古代兵装・制圧者【参式】』
種族:古代兵装
コスト:MP1 P:6000
特殊効果:このカードの攻撃で相手にダメージを与えた時、相手の場に居る”P:5000”以下のキャラ一枚を破壊する。
―――――――――――
Text――――――――
『盤上の帝王の王冠』
種族:古代兵装 武器
コスト:無し P:0
特殊効果:①このカードは相手のカードの効果で破壊されず、手札に戻されない。
②自身の場に居る”古代兵装”は相手のカードの効果で効果を無効化されず、P+3000する。
――――――――――
魔法陣を通して場に出たのは、それぞれ青白いプラチナ色の結晶が創り上げた動く芸術だ。ところどころを金色の箔と歯車が付いているが、動力源らしきものは見当たらず、魔法と紙一重な技術だ。
大盾を構え、守ることに特化したような結晶の鎧兵士。
メイスを掲げ、片手に本を持った結晶の神官。
そしてヨシハタの頭上に結晶の、――それもキャラの身体とは全く違う、白銀の透き通ったプラチナを基盤に金とも銀とも見て取れる金属の装飾の付いた、文字通りの”王”としての証が現れる。
どうやら古代兵装、そのテーマ元はチェスのようだ。
テーマの背景物語に黒い悪意を平然と盛り込んでくるのが、UWのカードゲームのヤバいところだが、このテーマには一体どんな悪意が隠されているのか。
「攻げk・・・・いや、出来ねぇッ!」
一瞬攻撃指令を出そうとしたが、その手は空を彷徨ったままだ。
それもそのはず。
なぜなら、
「頭いいねぇ、悪くない判断だ。ここで踏みとどまった方が、まだ長生きできるってもんだよ」
その純粋な称賛。その声の主の所有する『傀人』だ。
奴の特殊効果によって、攻撃が跳ね返る可能性がある。タッグファイトでは『自身』の対象を別の味方に移すことも可能。それ故に彼を狙っても同じ結果が帰ってくる。――というか、ユリハならやりかねなかった。そんな気配がしたのだ。
「手札を増やすカードは、・・・・・同じだ使えねぇ・・・!」
彼の手札にはチェスの技でもある『サクリファイス』というドローカードがある。だがしかし、手札を増やしてしまえば逆に今度は『威人』の妨害効果を喰らう訳でもあって―――。
「今の状態で2ダメージは痛すぎる・・・・」
それにユリハのLPが2も増えることになるのは痛手中の痛手だ。カードを引くことが生命線ともいえるこの戦場に置いて、カードを引くと同時に命が削れることは最早相手に戦争させないのと同義。問題なのは損をすると同時に物理的な得も生まれることだ。
精神的に相手が損して得した気分になるのは、人の性だしどうしようもない。作者の友人がまさにそれの権化。だがしかし、相手が損して自分が物理的に得をするのは如何なものか。
「精神的にもダメージとか、やめてくれよ。物理的に損する俺が追尾で精神ダメージ受けるとか、前世に何をしたんだってレベルで報われねぇ・・・・」
ヨシハタの台詞が苦鳴を吐き出す。
口が笑っていても心が笑っていないのである。
チェスをテーマにした古代兵装。その戦略性はその魔法の使い方だ。魔法使いデッキに似ている部分はあるが、違うところは魔法使いの魔法のように自己完結していない点だ。
古代兵装のキャラによって戦略性がグンと上がる、そういうデッキだ。
型にはまれば魔法使いデッキなんざやすやすと踏み潰せる。
――――型にはまれば、の話だが。
「ぐっ、くッ!・・・・・・ターンエンドだ。クソッタレ」
絞り出したその声は悲壮感がにじみ出ていた。
だが、それを受け流してくれるほど戦場は甘くない。弱音を吐く者に捧ぐ情など、それこそ夢物語だ。
「『威人』の効果発動。―――ビショップを破壊」
理不尽なまでに鋭い、暗器の刃が可愛らしい女子から想像もつかない速度で投げられる。
『―――――――』
何を叫んだ、言ったのかは分からない。分かるのは、黒いブレスを吐き、その息吹を受けた『古代兵装・制圧者【参式】』が見る影もなくドロドロに溶けだしていく現状だけだ。
「――――くッ!」
こうなることは分かっていた。だが、攻撃で1ダメージを負い、更に破壊されるよりは、ただ破壊される方がずっといい。
だがしかし、ヨシハタの表情は苦痛そのものだ。
本来であれば、テリオの忍者デッキによるリソース稼ぎで盤面を整えて、潤沢な手札と忍者の特殊効果で勝利する流れだった。―――それを一気に叩き潰されたのだ。
「それじゃ、ボクのターンだ。ドロー!」
ヨシハタの陰る声とは裏腹に、ユリハの可愛らしい声が戦場を舞った。




