タッグファイト①
カグヤがダンジョンクエストで原始人に成り上がっていた頃、とある一人の少年がチンピラに絡まれていた。
「あのさぁ、お前みたいな目の死んだ奴がセツラさんと仲良く歩くたぁどういうことだ?」
「お前初心者プレイヤーだろ?そんな奴がどうしてセツラさんと関係を持ってるんだよ!」
「・・・・・後輩だが、問題でも?」
「後輩いいい?嘘はやめろよ。セツラさんのあの顔、あんな笑顔なんて絶対近しい奴にしかないぞ!」
「なにか関係があるんじゃないのか!?おいどうなんだ!!?」
半分焦り、半分怒りのチンピラ、――セツラ大ファンは最早言いがかりにも等しい理由でレッドワーフを詰問していた。
鼻息が荒ぶっており、今にも火ィ吹きそうだ。
そんな半分中毒者ともいえる、そんなファンに対してレッドワーフの反応はと言うと、割と冷淡だった。
「ウゼェしつこい学校の先輩だ。関係性は先輩後輩。僕はどっちかってっと、被害者なんだぜ?」
セツラが見ているところでも見てないところでも関係ない。言う事をちゃんと言う。
コレがレッドワーフだ。
だが、その反応の仕方は大ファンの中毒者にとっては感情の劇物であることに、なんら変わりは無かった。
「きっさまッ!!我らがセツラさんを侮辱する発言んんん!!許せないッ!!!」
「二度とUWに顔を出せないようにトラウマ必至の戦争を見せてやる!!」
この世界で問題を起こすと急遽強制ログアウト、下手すれば器物損壊で国に訴えられてしまう可能性すらあり得るこの世界では、喧嘩は全てUWによる戦争で解決するように勧められている。
だからこそセツラファンの二人はレッドワーフに対戦状を突きつけたのだ。
勿論、あくまでも戦争は強制じゃない。暴力行為はシステムのプロテクトで阻まれるため、戦争を受けなくてもなんら問題は無いのだ。
つまりは煽り放題、と言う事だ。ここが噂の無法地帯ですかね?
だがレッドワーフはその挑戦状をなんの不満も漏らさずに受け取ったのだ。
「分かった、受けようその戦争」
「はっはー!今更撤回しても遅いからな!!対戦室の予約は済んでいる。さっさと行くぞ!!」
「二対一だなんてよくもまぁぬけぬけと受けやがってこのクソガキ。負けたらセツラさんの悪口を言うのは止めてもらうぜ!!」
「でも君らを倒せば1000Ptを獲得できるんだろう?負けても200Pt。まぁ割に合ってるな」
そんな余裕をぶっこくレッドワーフにセツラファンの二人のボルテージが更に上がる音がした。というか、顔が赤くなっていくのが見て取れる。
だがしかし、レッドワーフと言えどニ対一の戦争と言うのは流石に負け確定戦ではなかろうか。
1000Ptに目がくらむのは分からなくもないが、今の状態のレッドワーフに勝ち目はない。
そう、”今”の状態では―――、だ。
なら、鬼札を一人混ぜるのはどうだろうか。
「二対一だって?それじゃぁボクも混ぜてよ」
その言葉にセツラファン二人、そしてレッドワーフが声の主を見る。
対戦室直行エレベータ、その隣の壁に背を預けている一人の女子が居る。
「あぁ?」
「なんだお前?」
セツラファン二人が壁に背を預けている女子、全身を何かゴテゴテした不気味なアクセサリーで覆い、真っ黒なフードを被った人物に何者なのかを問いかける。
そんな半分喧嘩腰の質問にその女子は軽く首を振る。
「ボクは何者でもないよ。ただ、ちょっと見過ごせないだけ」
フードの隙間から見えるその蒼い眼光が三人、いやセツラファン二人を見据える。
レッドワーフがそんな女子に問いかけた。
「君は「内緒」・・・・そうか」
何かを言おうとするもその口が次の言葉を言う前に女子が言葉を挟む。レッドワーフはこれ以上の質問は無駄と踏み、別の質問に移った。
「手伝ってくれるのかい?」
「うん。ちょうどボクも”初心者”プレイヤーだしぃ?タッグファイトなんてあまりやったことないし、丁度いいかなぁーってだけ」
レッドワーフに近づき、参戦の理由を話す女子。どうにもこうにも、レッドワーフは何かその女子に違和感を覚えずにはいられなかった、―――が。
「混ざるってんなら、もっと容赦はしねぇッ!!」
「さっさと対戦室行くぞ!――二人まとめて叩き潰してやる」
セツラファンの二人が戦争を早くするようにせかしてきたのだ。
レッドワーフはここで一端その女子への違和感を置き去りにして返事を返す。
「おー怖」
「やったるぜーい!」
まったく怖がってない顔で、心にもないような事を言うレッドワーフにやる気満々の声を上げる女子。
こうしてニ対二のタッグ戦争が始まった。
『これからユリハ選手とレッドワーフ選手、ヨシハタ選手とテリオ選手のタッグ戦争を開始します。対象の座標を中心にバトルフィールドを展開、対象者の所有するデッキの自動山札化の申請―――、承諾されました。これより、デュエリストによるタッグ戦争を開始します』
明かされるのはレッドワーフと共に参戦した女子の名前だ。
ユリハと、そう呼ばれている女子は平然とした顔で薄い胸を張ってレッドワーフを見る。
「・・・・なんですかね」
「んふふ、」
「・・・?」
ちょっとした間にレッドワーフが首をかしげる。
ユリハ、そう呼ばれる人物が何を考えているのかが分からないという、そんな顔で。
『ワールドカードの有無を確認。ユリハ選手のワールドカード『生命の樹』が起動します。――戦争の開始準備に変更有り、ユリハ選手、レッドワーフ選手の初期ライフポイントが14から始まります。各選手は『宣言』をしてください』
「「―――ワールドカード、だとッッ!!!??」」
機械的音声がそれを告げた瞬間、セツラファン二人の顔が驚愕一色で染められる。
機械音声が告げた、ユリハの使うカードはワールドカードの初歩である”ルールプラス”と呼ばれる種類のカードだ。所有する人自体があまりいないのもあり、基本的には戦争でそのカードを見ることはほとんどない。
そんな奇跡みたいな戦争をする、そのはずなのにレッドワーフは一周回って不思議なことに全く驚かない。
それどころか―――、
「持久戦に持ち込む気か?それとも、暴走龍って奴使うのか?」
ライフが増えるワールドカードに何かしらの意図があるのではないかと、その使い道をユリハに聞く始末だった。
そんな驚かし甲斐のない男、レッドワーフの質疑にユリハは肩の力を抜いて息を吐く。
「別にぃ、君なら驚いてくれると思っただけ」
「そうか、じゃぁ驚いた」
「心が籠ってねー!!棒読みの極み!―――なら、」
「なら?」
「だー!!」と、地団太を踏み黒フードを揺らすユリハ。だがすぐにスッといつものきっちりとした姿勢に戻ると、人差し指を天に掲げて宣言する。
「古の超人よ、最先端の力を我が物にしたその御姿を現したまえッ!!宣言驚天動地の大かい人!!」
言っただけだ。宣言しただけだ。
それだけの動作、何も驚くところはないはずで―――、
「「デッキが勝手に動いて自動山札と手札になった・・・・だとッ!?」」
特別な仕草もする必要もなければ、デッキを持つ必要すらもない。
それだけなのだ。宣言するだけでその工程全てをすっ飛ばして戦争の出来る状態にしたのだ。
だがこれも―――、
「凄いのか?これ」
レッドワーフ的には”凄い”の琴線には触れていなかった。
これにはユリハも不満顔だ。色々口の中にため込んだシマリスみたいな目をしている。
「このコスチュームの効果なの!最近はコスチュームにも戦争とは深くは関わらないけど、演出がされるようになったんだよ!?凄いと思わないのッ!!?」
「そう言われても、僕は初心者だからよ・・・」
確かに古参のUWのデュエリストなら、それは驚いても不思議ではないことだ。今までは見てくれだけを変えるコスチュームが、急に自動的にデッキを持たずして自動山札と手札に分ける効果を持つのだから。
だがレッドワーフは初心者プレイヤーだ。そんな事言われても分からんのだ。
「まぁ、凄いのは分かった。じゃぁ僕もするかね宣言」
ユリハの怒号に押され、とりあえずの一時しのぎで頷くレッドワーフもまたデッキを取り出して宣言する。
「魔法とは、願いである。魔術とは、やり方である。呪いとは、欲である。―――『宣言』根源の顕現」
まるでピアノを弾くような、滑らかな指使いでデッキを自動山札と手札に分けた。
「あら、良いじゃん!その宣言文句。んふふ、イイねぇ!俄然、燃えて来ちゃった☆」
「僕は勝手にやるよ。バックアップもしなくていい。元々この戦争は僕が始めたんだから」
「そういう訳にも行かない」
「―――ー」
拳をグッと握るユリハにレッドワーフが単独行動をすると宣言する。折角手伝ってくれると言うのに、こいつには感謝ってものが無いのだろうか。
だが、ユリハはユリハでそんなレッドワーフに肩をすくめて言う。
「ボクが手伝いたいのさ。勝手に相手潰すから、その内にやってよ」




