タッグファイト②
「まずはボクの先攻!ドロー!!」
黒フードを被った中背のデュエリスト、――ユリハがくるっと一回転しながら自動山札からカードを引き抜き手札に加える。
滑らかな細い腕に華奢な脚。だがしかしそれでいて強靭な芯がある、そんなドロー。
そして腰を折り前かがみに、これ見よがしに手札を見るユリハに眉唾程のあざとさを感じる。
「んー、これかな?いやここはこっちでいくかな?」
黒フードから顔はよく見えないがしかし、その声の向きは自分自身ではなく、どちらかと言うとレッドワーフの方に投げられた言葉のように思えた。
「・・・・・」
むず痒いような視線を受けるレッドワーフは手札を除いたまま無言だ。その眼が一度たりともユリハを見ることはなく―――、
「現実だと、良いんだけどなぁ・・・」
諦観、というよりはちょっとした切実な願いが籠った吐息を吐き、ユリハは肺に空気を満たす。背を伸ばして気合を全身に込める。
顔までフードで隠した人間の真意は読み取れない。だがなにか空気が変わったのだ。
ユリハからあざとさが抜けたのだろうか、いや、もっと――――。
「ボクは手札から怪人を召喚」
エトワールのような萌え声でも女の子特有の声でもなく、その声は刃物を彷彿とさせるような切れ味を持った声、――いや、刃物と言ってもそれは暗器。目の前に突き出す戦争の道具ではない。完全に裏。戦争の裏側で飛び交う影の絵を纏った不可視の刃だ。
その黒い殺気と共に魔法陣から闇のオーラがあふれ出す。まるで、出してはいけないものが解放に喝采するかのように――。
現れたるは黒いスーツにシルクハット、黒いステッキに手袋と言う、影を擬人化したような黒い人だ。
Text―――――――
『怪人』
人 悪魔 神
コスト:MP1 P:5000
特殊効果:自身の場の”かいじん”は相手のカードの効果で破壊されない。
―――――――――
『――――――――』
無言のまま一礼する怪人。シルクハットをとった頭も黒だった。
黒、―――それは日本でも古来から現代の一部層に渡って”不吉”の象徴とされてきた色の一つだ。何かやましい事があるのか、はたまた何か罪を犯した罪人としての証だろうか。
黒は何か我々でも何か違和感を感じてしまうものだ。その人が決してそんな不審者という訳でもないのに、何故か”怪しい”と無意識的に結論付けている。
そんな黒を全身に纏ったその人は何を考えているのかも分からない、そんなのっぺりとした顔をセツラファンに向ける。
「「ッッ!!?」」
見ただけだ。
何もおかしなことはしていないのに、二人のデュエリストが震えあがる。黒いのっぺらぼうの大人バージョンだと考えればいくらか可愛く見えてくるものだが、本人の感性はどうだろうか。
怪人の黒い顔、それを覗き込んだ先に待っていたのは何だったのか。
考える間もなく、ユリハは次々と盤面を展開する。
「更にボクは『魁人』、そして『傀人』を召喚する」
ギラリと輝る黒く銀色の刃の如く、切れ味の増していくその手札捌き、そしてその刃物のような意志を黒い靄に変えてこの世に姿を現したるは、同じくして黒い人。
一見同じに見えるが、それこそが間違い。彼らは違うものなのだ。
一人は胸に大きな傷を受けた黒い鎧、そしてその身の丈に合わぬほどの大きな黒い剣を持った魁人、そしてもう一人は指から金属質な糸を出している傀人だ。
見た目が違うのではない。見た目”も”違う。
黒いから同じ。それこそ偏見と言うやつだ。彼らのそれは持って生まれた一つの個性。言わば運営に授けられた生きるための技であり、科せられた罪。
そう、”かいじん”のテーマは正に”差別”と言うものだ。
色の違いで引き起こされる恐怖感、拒絶感、それを踏み越えることを他者に要求する人を形どったテーマなのだ!
『―――――――』
『――――――――』
Text――――――
『魁人』
人 戦士
コスト:無し P:8000
特殊効果:このカードは出たターン中、初めにこのカードで攻撃しなければいけない。
――――――――
Text――――――
『傀人』
人 魔法使い
コスト:MP1 P:4000
特殊効果:対抗、相手のカードが自身を攻撃する時、代わりに相手を攻撃する。このカードの効果は一ターンに一度だけ使える。
――――――――
それぞれが黒い人だ。物理的に黒いのだ。何を考えているのかも分からない塗りつぶされた黒い顔、そして何をしゃべっているのか分からない程に読み取れない言葉。
何かを喋っているがどういう意味なのか、はたまた誰に向けられた言葉なのか、発しているかいじん以外分からないのである。
それを聞き我々や対戦相手はどう感じるのだろうか。
気色の悪い黒い身体に、何を言ってるのかさえも分からない言葉。
人は年を重ねる程に弱くなる生き物だ。昔のような純粋な好奇心は無い。アリの巣に水を入れる残虐性もない。どんどん理解できないものを理解しようとせず、使い勝手のいい言葉で勝手に処理しているだけなのだ。
そしてそのツケは”気味の悪い”彼らに払わせる。
「仲間に入りたければ、我々の理解できる言葉をしゃべれ」、「避けられたくなければ、隠し事をやめろ」と、自身の弱みをひたむきに隠す。そして自身の過ちを認めない。全部、”彼ら”のせいとなる。
だが―――、いや、だからこそ彼らかいじんは反旗を翻したのだ!
「我々の生まれ」、「我々の言葉」、理解するのは彼らではない。我々なのだ。恨むのは神ではない。この身体にこの世界に産んだ親ではない。真に恨むのは自己的意識で外へと追いやった”奴ら”なのだから。
この身体の色は、言語は、恵みだ。決して不吉なものではない。
理解は彼らがすることだ!我々は我々だ!順応するために理解するのではない!
生まれつき、―――それを理解させるテーマ。偏見、自己的規則、自己感覚、その全てをひっくるめた故の”敵”を自ら自覚させるためのテーマ。そしてその敵を自ら追い出すためのテーマ。
それが、『かいじん』なのだ!
そして、その意志に呼応するかのようにユリハは一枚のカードを手札から発動する。
「そしてボクは手札から魔法『黒の反旗』を発動。効果でボクの場に”かいじん”が三体居るから2枚ドローする。それでもってボクのMPとLPを1回復する」
Text――――――
『黒の反旗』
人 ドロー 回復
コスト:無し
特殊効果:自身の場に”かいじん”が三体居る時、自身のMPとLPをそれぞれ1回復させる。更に、このターン中初めて使う魔法がこのカードであれば、自身はカードを2枚引く。
――――――――
この世界の差別を受けた人々が集い、立ち上げ誓ったのは全身を黒で染め上げた黒い旗。
傀人、怪人、魁人がそれぞれの掌でその旗の柄をしっかりと握りしめ、その大翼を戦場のど真ん中で存在を示す。
彼らの戦場は何処にあるのか。いや言い換えよう。彼らは争ってはいないのだ。。真に争うべきはその確固たる違和感をもう一度巻き起こす黒い旗、それを持った彼らを見ている我々の頭だ。
彼らは普通の、何処にでもいるようなキャラクター、人なのだ。
そう、今こそ我々には革命が必要だ!
違和感こそが火種であり、戦場は頭。古錆びた常識と非常識の大戦争だ。
非常識を常識に。古びた価値観に新しい風を。違和感のインフルエンサーを統べるテーマ。
”かいじん”。その力の一端が世界に振るわれたのだ。
「んーと、ボクのライフが現在15、MPが2、手札が5枚か・・・。なら、更にボクは『威人』を召喚する!」
先攻からの怒涛の召喚数。そんなに出して大丈夫なのかと思われるが、本人は至って期にはしていない。むしろ小声で「まだ足りない」と口ずさんでいた。
Text―――――――
『威人』
種族:人 神 ドラゴン
コスト:MP2 P:8000
特殊効果:①相手がカードの効果で手札が増えるとき、相手にダメージ2し、自身のLP+2。
②相手がカードの効果でキャラを起こしたとき、相手は手札を一枚選んで捨てる。
③相手のターンの終わりに相手の場のカード一枚を選んで破壊する。
―――――――――
飛び出したそのシルエットは悪魔ともドラゴンとも取れる黒い竜人だ。
『―――――』
必要MPからは想像を絶する圧倒的な制圧力。
特殊効果の全てが相手を行動不能に陥らせるためだけに特化した、――正に”妨害”系統のカードだ。
妨害系のカードはそれこそ改訂版のUWではUXとGXの中間に位置するレベルの出にくさを誇る。
”妨害”というテーマではなく、能力故に人が読んだ名称。
相手依存であり、同時に相手が絶対に必要な動作に横やりを突っ込んでくる、居るだけで不愉快を通り越して認識したくないレベルに持ち上げてくるカード。
それがユリハの意志で顕現したのだ。
これには表情筋の死んでいるレッドワーフも目を見開く。
「妨害系、・・・・だが、これでは・・・」
見開いた理由が違った。
セツラファンの思っている驚きとはまた違ったものだ。
「強いカードが出た!」ではなく、「これからどう動くか」と言う意味合いだ。
その証拠に今度はレッドワーフが「まだ・・・」と呟き、ユリハを見る。
ユリハはと言うと、レッドワーフを見ながら叫ぶ。
「だってだって仕方ないじゃん!改訂前と違って粗方の妨害は禁止になったし、昔みたいな妨害で妨害を叩き、妨害を妨害する妨害コンボは出来るけど、それには次に来る新規のSR、URが必要なの!」
今はこれが精いっぱいだと、そう言うユリハにレッドワーフも「それなら仕方ないか」と首肯する。
レッドワーフとユリハ、どちらも初見のはずだがどうにも初対面にしては言葉以外での会話が成り立っているのが不思議でならない。
現実の方面でレッドワーフ、――桜星に友人がいるとは思えないが。
「・・・今はこんなところかなぁ、変に展開して次のターンに動けないってのは格好付かないし、――うん。アタック&ブロックフェイズに入るよ。まずは『魁人』でそっちのジーパンの人に攻撃」
『―――』
「ジーパンの人!?」
無言で振り抜かれる大剣の剣撃、その衝撃が刃の形を取り、まっすぐにジーパンの男”ヨシハタ”に炸裂する。
魁人の剣撃よりも名前を憶えられていないことへの衝撃がさすまじかったようで、別方面のライフポイントも減ったようだ。
「んじゃ、ボクはこれでターンエンド」
ひらひらと手を振りながら、自身のターンの終了を宣言するユリハ。
そして始まるのはレッドワーフのターンだ。




