初めての戦争④
『どうする私、どうする・・・・ッ!!』
必死に攻撃から身を守る手段を模索するカグヤ。
盤面の戦力はあっても次のターンまで持ちこたえるためのライフポイントはたったの1。少なくとも、客観的に見てもカグヤの敗北は決まったようなものだ。
だが、不思議なことにカグヤの表情は諦めていない、生き汚い人の目だった。
そんな初戦で諦めない意地を見せたカグヤに天啓が舞い降りた。
――まるで、カードゲームに愛されている様に。
『私の手札には魔法はあるけれど、どれも防御寄りじゃないし・・・何かないのッ!?この状況を打破できるカードは・・・・。―――――ん?』
「んんんんんんんんんんんんんんッッッ!!!??」
唸り声を出しながらカグヤは自身の場に居る冒険者の王と、自身の手札にある”とある魔法カード”を見比べる。
そして、何か決心がついたかのように冒険者の王を見て問う。
「冒険者の王、私、このカードを使いたいのだけれど・・・。良いかな?」
『・・・・・・・』
回答は沈黙。
戦争中、何かのアクションを起こすときに限りキャラは声を発するシステム上、カグヤの問いには無言が返ってくる。
だが、冒険者の王の目はまっすぐと、迫りくるメイザースの魔法攻撃に向けられていた。
「・・・冒険者の王・・・・ッ!」
その眼を見て、カグヤは何を思ったのだろうか。
息を吸って吐き、決心の着いた顔で手札の魔法カードを発動した。
「対抗魔法『イベント! 愛する者の為』を発動!」
「何ッ!?」
手札を切って発動したのは、戦争前にカグヤがスペシャルパックで引いたカードで――。
Text――――――
『イベント! 愛する者の為』
種族:破壊 ダメージ
コスト:無し
特殊効果:対抗:自身がキャラの攻撃でダメージを受ける、もしくは自身の場のキャラが破壊される時、代わりに自身の場のキャラを破壊するか、自身がダメージを受ける。
――――――――
最終兵器にして、カグヤの誇る逆転の為の切り札。それを引くための可能性を凝縮したカード。
それが今、カグヤの手によって発動したのだ。
「私は、場にいる冒険者の王を代わりに破壊する!――ゴメン、冒険者の王・・・私の為に利用して・・・・・」
カグヤが目を瞑り、今にも泣きそうな表情で冒険者の王に謝罪をする。
合わせる顔もない。自分の選択で、自身の場の仲間を破壊し生き延びるのだから。
VRと言えど、カグヤの中には良心があった。
その自虐混じりの嘆きが聞こえたのかそうでないのか定かではないが、冒険者の王は大剣を抜き、メイザースの魔法の渦の前に悠然と立った。
今からカグヤの為の肉壁となると言うのに、まるで物怖じしないその威風堂々とした背中にカグヤは余計自身の心の呵責を感じた。
だが、そんな悲壮感を漂わせるカグヤに声が掛けられた。
『顔を、上げよ』
「!?」
まったく予期していない掛け声にカグヤが驚いて前を見る。
その眼には微動だにせず、魔法の渦を前に立つ冒険者の王の姿があった。
『我々を司る主が、泣くのではない。主の為に散って行った同胞に申し訳が立たぬ』
「・・・」
そう重々しい声で呟いた冒険者の王は大剣を横に構えて、更に言う。
『我が剣は何の為にあるッ!?―――主を守り、敵を屠る為にある!!』
ビリビリと、空気が振動する。
『我が力は何の為にあるッ!?―――主に、次の可能性を託す為にある!!』
片足を後ろに下げ、遠心力を込めるように踏ん張る。
『主がその魔法を使ったのは保身の為かッ!?―――否、我々を信頼した故の苦汁の判断なのだ!』
「―――――ッッ!!!」
冒険者の王の眼前に魔法の、破壊を司る光の渦が迫り来る。
そして大剣を振りかぶり、その渾身の一撃を渦の中心へと叩きつける。
魔法が力によって粉砕された刹那、冒険者の王がカグヤの方へ振り向く。
『泣きなさんな。我々の後ろで泣かれたら、我々が守る意味が無くなってしまう。―――泣く者は例えその者の選択だとしても良い結果にはならんぞ。―――自分の選択を信じなされ』
瞬間、冒険者の王の顔含めた身体が閃光に呑まれた。
無理やり分断された魔法の力が崩壊を起こし、極光が爆発を引き起こしたのだ。
「――――――――ッッッ!!!!」
無理やり魔法を斬り飛ばした代償、そのツケが支払われた。
だが、カグヤの目はもう泣いていなかった。
「冒険者の王の特殊効果②を使う。私はカードを一枚引く」
「――――」
「ドロー!」
レッドワーフが見守る中、澄んだ目をしたカグヤが自動山札からカードを手札に加える。
そして、直後にそのカードの真相が明かされる。
「これは―――ッ!!」
「・・・メイザースの2回攻撃!」
『任されよ!ドーンオブヴィエリエンツ!』
何かに気づき、歓喜とも驚愕とも取れる声を発するカグヤだが、間髪入れずにレッドワーフからの攻撃宣言が下った。
レッドワーフの命により、メイザースの杖から光の渦が破壊を纏ってカグヤに襲い掛かる。
だがここで、カグヤは手札の一枚を切り、天にカードを掲げる。
「待ってたよ!この瞬間をねッ!!」
「―――まさか、引いたのかッ!!?」
レッドワーフの顔が驚愕に染まる。
カグヤはそのまま勢いに任せて、その”切り札”を発動する。
「私は『奇跡と奇蹟の大聖女 シフル』を特殊召喚!!」
魔法陣が展開されたのは床ではなく、天空だった。
白く、そして金色の粒子があふれ出す魔法陣、もとい天門を潜り抜けて一人の聖女が姿を現した。
背中に魔法陣をいくつも展開させ、天使のように純白のローブを着た聖女が戦場に舞い降りた。
Text――――――
『奇跡と奇蹟の大聖女 シフル』
種族:人 冒険者 天使 光
コスト:MP2 P:14000
特殊効果:①自身がゲームに負けるとき、代わりにこのカードを特殊召喚する。このカードが特殊召喚された次の相手のターンまで、自身はゲームに負けず、相手はゲームに勝てない。この効果はゲーム中に1回しか使えない。
②自身の場の”冒険者”全ては効果を無効にされない。
――――――――
「キレイ・・・・・」
URのカードとだけあり、効果も容姿も抜群にカグヤの心を揺らした。
その効果は文字通りの逆転の一手ともなる”敗北回避”。
その力の一端は目の前で顕現した。
『私が居る間は、誰一人として傷つけさせません』
シフルが掌をメイザースの放った魔法に向ける。
瞬間、メイザースの放った光の渦がその存在事消え去った。跡形もなく、その空間事ごっそりと無くなったかのように。
これには流石のレッドワーフも驚いている。
「ダメージを受けると負ける。だからダメージを受けないのか・・・・やられたッ!」
悔しそうに奥歯を噛みしめるレッドワーフ。その心情は計り知れないが、少なくとも待っているのは破滅と言うのは理解しているようだ。
レッドワーフは悔しそうな顔をしながら、自身のターンの終了を告げる。
「ターンエンドだ・・・・」
「私のターン!ドロー!!」
俯くレッドワーフと、笑顔のカグヤとで表情が逆転する。
形勢が完全に逆転したのだ。
そしてそのままアタック&ブロックフェイズに突入するカグヤ。
「皆でダイレクトアターックッ!!!」
『行くぞ冒険者!』
『ボクらの後ろには大聖女様がついていらっしゃる!負けるわけがない!!』
『積み重ねられた奇跡の収縮、フォーチュンラプソディー!』
全員突撃の指令が出され、リドー、シン、シフルが同時に動く。
剣と剣、そして虹色のエネルギー砲が光の軌跡を描いて無防備なレッドワーフに直撃する。
「ぐあああああああああッ!!!!!」
レッドワーフ ライフポイント(LP):3→0
必殺の一撃がレッドワーフの身体を抉り、ライフポイントを0にする。
そして、
『戦争が終結しました。戦勝者は『カグヤ』選手です。これにてバトルフィールドの展開を終了し、各自自動山札をデッキに戻します。大戦、お疲れさまでした』
機械音声が響き渡り、カグヤの戦勝が公式的に認められる。
対戦室の景色が元に戻り、顕現していたキャラ達が光の粒子となって消え、自動山札が元の白いデッキケースに変化する。
そんな中、カグヤは感極まって歓喜の声を上げた。
「やった、・・・・。やったあああああああああああああああ!!!!!!!」
こうして、初めての戦争はカグヤの逆転勝利として幕を下ろしたのだった。




