第五話 ヨンケーレ大平原の戦い。 その2
「ただの突撃だ!怯むな!D5!」
突撃を受けたブルボ将軍は奇を受けた形となるが、流石カーリアン帝国の国軍。
すかさず、騎兵の突撃をいなす陣形と対応を見せる。
徐々にドミニク公爵軍の突撃の勢いは消されそうになる。
「このまま突っ切れ!抜けるぞ!!」
騎兵の突撃は強力だ。
しかし、その威力は両刃となり、勢いがなくなると只の標的となってしまう。
それを熟知しているシュタイア国のドミニク公爵は勢いを消さない様に進路を変更しながら、突き抜ける事を選択する。
止まれば、的だ。相棒のフェリオもそれを理解しているかのように、ドンドンと加速する。
それに送れない様にと、ドミニク公爵の騎兵達は続いて行く。
そして、抜けきった。ブルボ将軍の隊を抜けきった。真横に抜ける感じになった。
ブルボ将軍もイルド将軍と同様に昇格した将軍の一人。長く、テンビー将軍の元で戦った者である。すぐさま、陣形を組み替え、次の突撃に備える形を見せる。
「くっ!流石と言った所か?」
ドミニク公爵は舌を巻く。練度は高い事が直ぐに分かった。
ドミニク公爵は知らないが、今回のテンビー将軍の大将軍への昇格により、テンビー大将軍は、自身の子飼いを一気に軍の中枢に入れた。
それにより、指示系統が統一され、指示が速やかに発揮される様になった。
つまり、テンビー大将軍はずっと、自身の部下を鍛え続けていたのだ。
その為、急に思える人事であっても、今まで以上の効率化を図れている為に今まで以上の戦力となっているのだ。戦は数だけではなく、それを如何に利用するのか?それが大切になっている。もちろん、魔法兵なる部隊もあり、魔法による攻防もある。
純粋な盾ばかりでなく、魔法による支援も入る事でより強固な守備になる。
攻め手に魔法が無ければ、より差は開く。
「敵陣に魔法の障壁が張られた様です!」
「これ以上は痛いだけになるか・・・。」
実際にドミニク公爵が目視で確認出来る程に、強力な魔法障壁が張られた。
これでは、ブルボ将軍を攻めきれない。
「仕方ない!大きく迂回する!」
ドミニク公爵は大きく声を上げた。
大きく旋回すると今度はブルボ将軍の後ろ側へと回り込む。そのまま、そこへ突撃をする構えを見せる。勿論相手もそれを見据えての盾兵の移動だろう。一番手前に盾兵が並ぶのをドミニク公爵は視界にいれた。
そのまま、突撃されると思われた瞬間に左へと流れていく。
そしてその勢いは削られる事なく、今度は、イルド将軍の隊へと突撃した。
警戒を怠っていなかったイルド将軍はキッチリと迎え撃った。
しかし、弓兵は隊の正面に回っていたので、弓の攻撃はドミニク公爵軍には来なかった。
「甘いな!」
しかし、その代わりに魔法による攻撃がドミニク公爵軍に降り注いだ。
魔法障壁を張っていなかったのは、こういう攻撃をする為だったのだ。
「やはりか!」
それが分かっていて突撃をかけたドミニク公爵は、更に勢いをつけた。
火球や氷槍等が飛び交う戦場を真っすぐに突き進む。
それに遅れまいとしてドミニク公爵軍の騎兵も続く。
次々降り注ぐかのような魔法攻撃により、数を減らすドミニク公爵軍の騎兵達。
馬がやられて倒れる者。
騎手がやられて馬だけが走る。
そんな状況が大きく起こるのをドミニク公爵は目の端に捉えていた。
しかし、ドミニク公爵は怯まない。ドミニク公爵軍の騎兵達も怯まない。
覚悟の上の突撃だからである。
【騎士は戦場にて死ぬる者である】
彼らの矜持にはそう書かれているのであろう。
しかし、その覚悟も行為も実らない事が殆どだ。
ドミニク公爵軍の騎兵三千の内突撃が出来たのは半数にも満たない。その数およそ千。
それも、盾兵に憚れて進めない。
ドミニク公爵の周りはもう五百を切る数まで減っていた。
それでも尚、中心地に居るハズの大将・イルド将軍へと向かって行った。
その決死の行為も中心地に近づくにつれ、ドミニク公爵軍の騎兵は更に数を減らす。
「待っておったぞ!」
「大将・イルド将軍か!」
「如何にも。」
「尋常に勝負!」
「甘いわ!」
ドミニク公爵の願いは一騎打ち。
しかし、それには応じないイルド将軍。ここまで勝ちが決まっている状況で応じるハズは無い。冷酷な軍人であるイルド将軍は、ドミニク公爵を鼻で笑う。
「卑怯者!」
「卑怯者?この状況で一騎打ちが出来ると考えるお主こそ、卑怯者であろう。」
弓でドミニク公爵は射られる。
「グハッ!」
右肩に刺さった矢は、鎧を貫通した。ドミニク公爵の右腕はもう動かなくなった。
それを感じたのか、フェリオと呼ばれた青毛の馬は大きく両前足を上げる。
騎手を守ろうというのだろうか?
人は腹を切られると、致命傷になりやすい。
これは馬も同じである。前足を上げるという行為は腹を出す事と同じであり、馬自身にとっても危険な行為だ。
「あの馬は邪魔だ!射殺せ!」
その指示は弓兵に届けられた。
イルド将軍旗下の弓兵は狙いを馬につけた。腹を射抜く。
今のフェリオとドミニク公爵はその場で暴れている様な状況になっている。
ドミニク公爵に止めを刺そうとしても、近づけない。
油断すると、フェリオに踏み殺される。
それを見かねた処置だ。
「もう、ここ迄か!」
ドミニク公爵は最後を覚悟した。
グッと弓兵は力一杯に弓を引く。
何本かの矢が馬を目掛けて飛んでくる。
何とか、剣をフェリオの動きに合わせて、動かない腕に力を入れて矢を弾く。
すると、ドミニク公爵の足に一本、二本と刺さる。
「ぐぅう!」
痛みで意識が飛びそうになる。
「確り狙わんか!!」
イルド将軍の怒声が辺りに響き渡る。
弓兵は次の準備をする。
人・馬共に満身創痍。
そんな時だった。
パチパチパチ。
拍手が聞えた。
「素晴らしい!」
「素晴らしいです!」
賛美の言葉がイルド将軍と、ドミニク公爵の耳に届けられた。
そして、この戦場に似合わないその拍手が聞えて、イルド将軍旗下の兵も動きを止める。
「どこから聞こえているんだ?」
「上だ!空だ!」
何処かの誰かが、気づいて声を上げた。
一斉にその声に従い、上空を見上げる。
そこには、黒い八つの羽を羽ばたかせる男と、蝙蝠の如き羽を羽ばたかせる二人の女が居た。




