第六話 ヨンケーレ大平原の戦い。 その3
「何だ?お前たちは?!」
気丈にも、そう質問したのはイルド将軍だった。
スっと俺達は降りた。返事はしない。何者であろうと、こんな戦場に来ているのだ。
動揺するのはわかるが、陳腐な質問に答えるつもりは無い。
「この者達を預からせてもらう。」
俺は要件を伝えた。
「何!そんな事が許される訳は無かろうが!くっ!」
何か吠えているイルド将軍をひと睨みした。
そして、そのまま青毛の馬とその主人らしき者の方へと向かう。
主人の方は、かなり傷は酷いが死にはしないだろう。安静にしていればだが。
そして、馬の方は無傷とは言えないが、上手く急所などは避けている。
この男が馬を愛している証拠だろう。
本来は放置しておくのだが、助けてやってくれとヒラリーが珍しく頼んできたので、助ける為にこうして、ここに来たという訳だ。
「何者だと聞いておる!!」
激怒するイルド将軍。
仕方がないな。少し予定変更だ。煩わしいハエは殺すに限る。
そう思い、私が振り向いた時には、ドスという音が聞えた。
どうやら、ミーシャがイルド将軍の首を落としたらしい。
私の考えを読めるようになってきたか。
「ひぃ!!!」
戦場に響き渡るイルド将軍の周りに居た兵達の悲鳴。
誰の目にも見えなかったのだろう。
気がついたら、イルド将軍の頭が転がり、首から血が噴き出せば、驚きのあまり腰を抜かすかもしれんな。
「煩わしい。殲滅せよ。」
「はっ!」
「は~い。」
ミーシャはそのまま、飛び回り周りの男達の首を狩っていく。
一人、また一人と頭が飛び、血が噴き出す。噴水の如くに飛び散る血。
ヒラリーは、召喚魔法で魔獣を呼び出す。
『呼んだか?ヒラリー?』
「うん。好きに暴れて良いよ。」
『そうか。』
召喚陣から浮かび上がったのは、地獄の番犬ケロベロス。
ほぉ。かなり関係を深めている様だ。
返事をかえしたヒラリーに嬉しそうに笑顔を向けると、GOサインと受け止めて近くにいる兵士に向かって飛び掛かった。一瞬にしてその体は粉砕された。
『これは、面白いな。ヒラリー眷族を呼んでくれんか?』
「わかった。」
すると、召喚陣は一層の輝きを放つとそこから次々にケロベロスが現れる。
その数、100体位か?
大きさは最初のモノよりは小さいが、最初に出てきたケロベロスが大きすぎるのかもしれないな。
「流石に疲れた~。」
とヒラリーは額を拭う仕草をする。
ヒラリーは騎手として一流だ。どうやら、動物な魔獣等と仲良くなる素質があったのかもしれないな。使役契約という召喚魔法が彼女には合ったのだろう。
その素質が、私の眷族へと昇華した時に開花したのかもしれない。
少なくとも、目の前の状況はその結果だろう。
地獄の番犬ケロベロス。
冥界の王ハデス様の使徒の眷族としては似合い過ぎているな。
虐殺の輪は俺を中心にして大きく広がっていく。
徐々に逃げ出している者も居る様だが、何が起こっているのか分からずに、そのまま死ぬ者もいる様だ。
中には、状況を把握して戦おうとする者も居る。
ある意味優秀な者なのだろうが、その者達は、ミーシャの刃によって、粛清されていった。
「おもしろい。」
俺はこの状況を更に、面白くするために、魔法で飾る事を思いついた。
上空に、火の玉を作り始める。
ワザと目につく様にと、ゆっくりと火の玉を大きくしていく。
「た、退却だ!逃げろ!」
「もう、ダメだ!!」
そんな声が聞えた。
絶望に諦める者。少しの希望に縋ろうと、我先に逃げる者。
もやは、統制など無い。
「ミーシャ。」
「はっ!ここに。」
一糸乱れぬ呼吸のままに、俺の前に姿を現す。
「この糞みたいな状況で、統制が取れている所はあるか?」
「はい。あちらの部隊です。マドカ・ラングレーという少佐の率いる部隊です。」
「知り合いか?」
「はい。前に、一度戦場で戦った記憶があります。ナリ―タと互角の戦いをしておりました。あそこに見える、赤髪の者が、マドカ・ラングレーです。」
ミーシャの指す方向に、その者は居た。
確りとした指示を出しているのだろう。周りが壊れているかのように、逃げ惑う中、彼等はヒラリーの呼び出したケロベロス相手に互角と言って良い戦いを繰り広げている。
ケロベロスは魔獣であり、地獄の番犬と呼ばれるほどに、強者だ。
しかし、普通の人間が組織力を持って、対抗すれば、勝てないにしても、負けない戦いは出来る。もちろん、勇者であるとか、冒険者のSクラス以上であれば、倒す事も可能だろう。
しかし、対人戦に特化した軍人である彼らは、この力より組織の力を上げる事に重きを置いている。その組織力でもって対抗する手段がある。彼等はそれを、実践しているという訳だ。
「そうか。死なせるには惜しいな。ミーシャ、ヒラリー。あの者達を俺の前に導け。」
「はっ!」
「かしこまりました。」
俺は火の玉をそのマドカ・ラングレーという者の先へと飛ばした。
着弾したのは、逃げ惑う者達が沢山向かっている場所。
ドゴン!!という音共に火球は地面にぶつかり大きな火柱を上げた。
真っ赤な炎にしたのは、目立つ為だ。
本来なら、青い炎の方が高い温度になるが、今はこれで良い。
骨位は残るだろう。
あまりに高温すぎると塵になってしまう。骨すら残らないでは意味が無い。
死んだ後にも役に立ってもらわねば、ならないからな。
地獄の番犬が映える状況になってきた。
炎が舞うこの場所に、ケロベロスが走り回り、人々は逃げ惑う。
まさに、地獄の絵だな。
ハーデス神もお喜びになろうというものだ。
俺は高らかに笑い声を上げた。
「この、悪魔め!災いの元はお前か!!」
そんな声と共に、俺の前に、赤髪の騎士は現れたのだった。




