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第三話 血の降る満月。


車のヘッドライトが眩しいのか、仁は目を細める。

ヘッドライトの光は仁の方を照らしたまま、車は山桜組組長の近くに来ると停車した。

眩しすぎる為に、仁には誰が降りてきたのかわからなかったであろうが、人が降りてきたのはシルエットや音などで推測が出来る様な状況である。


「久しぶりですね。アニキ。」


降りてきた一人は、仁に親しげに声をかけた。


「だれだ?」


「やだなぁ~。もう忘れたんですか?つれないなぁ~。俺ですよ。サトシですよ。」


「そんな男は知らないな。で、俺に何の用だ。」


「そんなの決まってるじゃないですか。復讐ですよ~。俺を蹴落とした落とし前をつけてもらう為に来たんですよ。」


事実、サトシという名前に心当たりがなかった仁は興味なさそうな対応である。


「俺には用は無い。もう良いな?帰らせてもらうぞ。」


帰ろうとする仁に届けられたのは別の言葉。


「帰るのは構いませんが、自分のオヤを見殺しにするんですか?」


サトシと名乗る男はニヤニヤした顔でそう告げると、何かをドサッと投げ出す。


「うっ!」


仁は更に目を薄めて、その投げだされたモノを見る。


「なっ!オヤジ!!」


そこには、仁のオヤジ。この世界(ヤクザ)でのオヤジである。

つまり山銅組の先代組長である山銅真輔である。


山銅組は先代である、山銅真輔の祖父が興した組であり、歴史ある組である。

残念ながら、仁の先代組長である山銅真輔に後継ぎはおらず、仁が引き継いだ。

山銅組は昔からある仁義を中心に置いた組であり、先代も先々代も地域の人に愛された組織であった。地元密着型とでもいうのか、そういう組織だ。

仁に組を譲った後はひっそりと暮らしているハズであった。齢80歳を越える老体でもある。それが、目の前に転がされているのだ。


「てめぇ!それでも人の子か?!この糞外道が!」


「俺達の世界に外道とかある訳ないだろ?なぁ?」


「くっくっく。ようやくお前を殺せる時が来たという訳だ。」


うすら笑いを浮かべている山桜組の組長とサトシという男。


「オヤを殺されたくなければ、お前が死を選べば良いだけだ。」


「そうそう。さて、ここで更にドラマチックにいこうじゃないか。おい。タクミ!」


タクミ。そう呼ばれる男が車の運転席から降りてくる。


「もしかして、お前が裏切ったのか?お前のオヤもあった人だと言うのに。」


「オヤジ。すみませんね。今の世の中、全て金なんですよ。古臭い仁義だとか、そんなんじゃ飯は食えませんよ。」


仁は愕然とした顔になる。

まさか、お前が、まさか。そんな言葉が頭の中を駆け巡っているのかもしれない。

もしかすると、自分の見る目が無かったのだと思っているのかもしれない。

仁は体の力を抜いた。


「わかった。その代わり、必ずオヤジは殺さないでくれ。」


「くっくっく。良いだろう。タクミ。お前が最後をキッチリ決めてやれ。」


山桜組の組長がタクミに指示を出すと、タクミは刃渡り日本刀を鞘から抜くとそのまま、仁に向かって駆け寄ってくる。


「オヤジ。俺の出世の為に死んでくれ。」


そう言って仁の胸に突き刺す。

深々と刀は突き刺さり仁の体を貫通する。


「ぐっ!」


「あの世で精々仁義でも何でも好きな事を通せば良い。アンタの女共と名声は俺が全て貰ってやるから、安心して死ねや。」


タクミは、ボソッと仁の耳元で囁くように言った。

そして、足でヤクザキックの要領で仁の体から刀を抜と、仁の体から血が飛び散る。

それでも、仁は倒れず、山桜組の組長を睨みつける。


「やれ。」


山桜組の組長の言葉に反応し、サトシという男は先代である山銅元組長の首に日本刀を差し込んだ。


「あっ!」


山銅元組長の言葉から漏れ出た言葉。それと同時に首筋から血が噴き出した。


「て、てめぇ。や、く、そ、くが・・・。」


ようやく出た言葉も仁の思い通りの言葉にならない。


「ざまぁねぇな。オヤジよ。ぐがっ!」


その様子を見てタクミはイヤらしい笑顔で笑って、仁を罵ろうとして油断していたのだろう。サトシと名乗った男に後ろからバッサリと切られて、肩を失った。


「イテェよ!イテェよ!何で俺が切られるんだ?!」


切られた方をもう片方の手で押さえながら、もがく。


「お前みたいな裏切り者は要らねぇんだとよ。」


「なっ!」


切ったサトシは冷徹な顔で、タクミに言い放つ。


「だから、死ねや。」


「た、助けてくれ!」


「無理だな。」


そう言って、サトシはタクミの首に刀を差し込んだ。

その勢いでその刀は折れた。


そして、その様子を全て見た仁。


「・・・。」


言葉を発する事が出来ずにいた。


「さて、刺されても死なないアンタは流石としか言いようがないな。」


サトシは仁の前に立つと、先ほど迄とは違い薄ら笑いが表情から消えた。


「おい。早く殺せ!」


「わかってますよ。そんなに焦らなくても、ちゃんと死にますよ。こいつは。それがこいつの運命ですからね。」


意味の分からない事を言っているサトシを怪訝な顔で見る山桜組の組長。


「組長もああ言ってるし、アンタも苦しいだろ?直ぐに楽にしてやるよ。」


そう、言いながら、サトシはタクミの刀を拾い上げた。

そしてその刀を思いっ切り仁の首を目掛けて斬りかけた。

仁の体は頭と胴体に分かれた。


「あばよ。また会おうぜ。仁。」


サトシと名乗った男はそう言い残し振り返った。


「よくやった!」


満面の笑みでサトシを迎える山桜組組長の傍まで、サトシは近寄る。


「そうでしょう。報酬の準備は出来てますか?」


「勿論だとも。」


そう言って山桜組組長は部下にアタッシュケースを持ってこさせる。


「ほれ、約束通り10億。ちゃんと入っているぞ。」


「ありがとうございます。」


お礼を言った瞬間に、サトシは持っていた刀で山銅元組長の首を刎ねた。

一瞬の出来事で、誰も止めれなかった。

そして、その勢いのまま無言でその場に居た者達を殺していった。


「お前らにもう用は無いんだよ。」


そう言って惨殺して回ったのだった。


それは、死亡者100名を越えた事件。

いつかの満月の日の怖ろしい事件として記録された。

【血の降る満月】として。


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