表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

第二話 その男、人外の強さを誇る。


「ふぅ。」


仁は一息ついている。

愛用の煙草を一本、口の端に加えて火をつけた。

ジッポと煙草の箱を懐に押し込める様にしまう。

いつもと同じ動作、いつもと同じ物。

いつもと違うのは、手が血まみれになっている事だ。


「まったく、嫌になる。」


狂犬と仁は仲間内から呼ばれている。

しかし、仁にそのつもりは無い。

ただ、噂が勝手に独り歩きをし、名を挙げたい者が挑みかかってくるのは日常茶飯事となっている。

今日も、そうだった。

最近はどうも、一人では勝てないと踏んで、複数で挑みかかってくる。

今日は五人だったか?


その五人は、仁の前で倒れている。

仁は武闘家でもある。

剣道・柔道・空手は子供の時から習っており、中学生の時にはそれぞれ段持ちとなっている。

ただ、仁は大会に縁が無かった。

団体戦で出場する事はあっても個人では出た事が無かった。

団体戦も星取り戦形式のみの出場で勝ち抜き戦形式には出なかった。

公式戦は全戦全勝のみ。なのに優勝経験が無い。

陽の目を見ない事には理由があった。

素行が悪い。のではなく、父の指示だ。そして、それを仁本人もそれを是とした。

目立つ事無く、勝つ。どんなに強い相手とやっても負けない。必ず勝っていた。


「お前達じゃ、俺に敵わないって事が分からないのかね?」


そう呟く仁は、どこか悲しそうな顔になる。

それは強すぎるが為の孤独なのか。それとも別の何かなのか?


「おうおう。今日も派手にやってんなぁ~。兄弟。」


仁はその声を聴いた瞬間に一瞬だけ険しい顔をした。

しかし、声の主に振り向く時には、平時の顔に戻っていた。


「なんだ。兄弟か。で、何か俺にようかい?いつもより大勢で。」


そこには、山桜組の組長が居た。

でっぷりと太った体を揺らして笑顔で立っていた。

その両脇から後ろには、沢山の組員らしき者が立っている。


「そろそろ、良い返事を聞きたくてな。」


「何の話だ?」


「とぼけるんじゃねぇ!オヤジを馬鹿にしてんのか!!」


側に立っている木偶の坊みたいな奴がいきり立って吠える。

それを、抑える様に山桜組の組長は更に笑顔になって、仁に言う。


「なぁ、兄弟。もう時代は変わったんだ。義理や人情だけじゃ食っていけない時代になったんだ。もう少し考えようや。」


「変わったねぇ~。変えたの間違いじゃないのか?」


「くっくっく。流石に鋭いなぁ~。やっぱりお前は目障りだわ。」


関東の巨大組織。【仁友律会】の傘下の組長同士である山桜組と山銅組。

この山桜組の組長は金を稼ぐ事でのし上がってきた男である。

上納金を沢山本部の仁友律会に多く納める事で名を上げた。

先代はそれでも一定以上の評価はしなかった。しかし代が替わり現在の会長は上納金優先主義であり、上納金を誰よりも多く納める山桜組長は目を掛けられる存在になった。


そうなると、仁のように、仁義を尊ぶ形の者は淘汰されていくのは自然の摂理である。

しかし、仁は強い。ひたすらに強いのである。なので、手を焼かされているのは幹部達である。また、名前も売れている事から、組から追い出す事も出来ずにいた。


「犬と呼ばれるほどに嗅覚が鋭いな。わはは。」


周りの者が山桜組長に同調し、いやらしい笑顔で声を出して笑う。


「まぁ、好きなように言えばいいさ。何度も言ってるが、俺のシマには手を出すな。それさえ守れば、他の事は目を瞑ってやる。」


「俺はなぁ。お前が目障りなんだよ。お前が居る限り、会はまだまだ認めたがらねぇからな。」


「じゃあ、どうするんだ?」


「お前に死んで貰うしかないだろうが?」


山桜組組長が右手を上げるとサッと組員たちが広がる。ざっと見、100人を越える数だ。


「お前らが何人束になって来ても、俺には勝てねぇよ。」


仁は身構える事なく、余裕の表情で自然体である。


「うっせぇ!」


組員の一人が仁に飛び掛かる。


「やっちまえ!!」


それが合図となり、組員全員が飛び掛かる。


「死ねや!」


「くたばれ!」


仁はヤレヤレといった様子を見せた。

最初の一人が仁に近づいた。その組員を右のストレート。つまり空手の正拳突きでぶっ飛ばすと、ドン!という音と共に後ろに居た組員ごとその先へ数メートルぶっ飛ばす。

それを見た他の組員の足が止まる。


「嘘だろ?」

「本当に人間なのかよ?」


「おいおい、どうした?俺を殺すんじゃなかったのか?」


煽る仁。動揺を隠せない山桜組の組員達。


「来ないんなら。帰らせてもらうぜ?連れが待ってるからな。」


仁はそう言うと、ツカツカとある方向へと歩き出す。

その様子を見た組員達は馬鹿にされたと思ったのか、また勢いを取り戻したかのように、静寂を破り、仁へと殺到する。


それを手前に来た者から順に仁は攻撃を加える。

目の前に来た組員を先ほどと同じく正拳突きで飛ばして次に近づいた後ろの組員には後ろ廻し蹴りを浴びせて横にぶっ飛ばす。次に近づいた一人を背負い投げで逆から来ている男へと投げ飛ばす。常に仁を中心として円の範囲の一定距離に近づいて来た者から飛ばされていく様は正にマンガのようだ。


それを見ている山桜組組長には現実身を与えなかった事だろう。

幻想か何かを見させられていると思ったに違いない。


あっという間に、仁を中心にしてまわりは呻き声を上げて倒れる山桜組の組員で埋め尽くされた。


「もう良いか?」


仁に睨まれた山桜組組長は、鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔になっている。

噂は聞いた事はあったかもしれないが、実際に見たのは初めてであろう。


返事を寄越さない山桜組組長をそのまま放置して、仁は去ろうとする。


「ま、待てよ。兄弟。」


ようやく頭が起動したのか、山桜組の組長が待ったをかける。

顔は若干青ざめた様な顔になっているが、まだイヤらしい目は健在だった。


「まさか、ここまでとは思わなかったが、こうなっては仕方ない。連れて来い。」


山桜組の組長がそう言うと、車が敷地内へ入って来る。

車はスモークが貼られているのか、中が見えない。周りの暗さも影響しているのかもしれない。

不穏な空気感が辺りを包んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ