第十一話 遊覧飛行。
「気持ち良いな。」
『そうであろう。』
魔力を使いながら、風に乗って空を飛ぶ。
漆黒竜ベネボレスに騎乗したナベリウスは風の気持ち良さを感じていた。
特にあてもなく、目的地を決めずに魔物の楽園ナザの上空を飛んでいる。
眼下に広がる自然豊かな大地。
遠くに見える山々。もう少し先へと飛べば、海も見えるだろう。
「なぁ、ベネボレス。お前はこの世界をどう見ているんだ?」
ガンガン戦闘を二人で楽しんだ後、ナベリウスは聞いた。
『ふむ。では見せてやろう。』
こうして、ナベリウスは漆黒竜ベネボレスの騎乗の人となったのである。
ナベリウスも飛行できる。空を飛べるのだが、それとはまた違う感じを受ける。
「このまま、少し旅でもするか?」
『我の姿を見た人間どもは、慌てふためくぞ?』
漆黒竜ベネボレスの言う通り、ドラゴンが街の近くに現れると大騒ぎとなる。
国を挙げての討伐隊が組まれてしまう事もあり得る。
更に、冒険者や腕自慢の者に追われる事にもなり得るだろう。
「街に行かなければ良い。人の居ない地域を旅しよう。」
『ふむ。それは妙案じゃな。じゃが、人化して街に行くのも楽しみなんじゃがの。』
「ははは。それは別の機会にコッソリと楽しめば良いじゃないか。」
『むむむ。その時は付き合ってくれんのか?』
「さぁな。気が向いたら付き合ってやるさ。」
『おっ!約束じゃぞ?!』
「あぁ。気が向いたらな。」
ナベリウスの言葉に気をよくしたのであろうか、漆黒竜ベネボレスは宙返りなどのアクロバット飛行を始めた。
ナベリウスは振り落とされない様に、ロデオをしている気分を堪能した。
少しして、青い色が広がった。
魔物の楽園ナザの東に位置する海である。
海を見て漆黒竜ベネボレスは海面飛行をする事に決めた。
一気に加速して海面まで降下する。海面スレスレまで降下してスレスレを維持しながら飛行する。
「うん?」
『調子に乗り過ぎたかの?』
同じタイミングで感じた様だ。
バカでかい存在感を放つモノが海面を目指して海底から上がってこようとしている。
『今はあんな奴に構いたくはないのう。』
「知り合いか?」
『古い馴染みじゃ。面倒な奴なんじゃ。』
漆黒竜ベネボレスは逃げる様に一気に上昇する。
「逃げるつもりか?」
『うむ。逃げるが勝ちという言葉もあるようじゃからの。』
「くっくっく。それも面白い。逃げよう。」
ナベリウスは魔力を込めた手で漆黒竜ベネボレスに触る。
『おぉ。力が漲るのぉ。』
「飛翔」
『共同作業というわけじゃな。』
先ほどよりも三倍以上のスピードになって離脱を測る。
しかも徐々にではなく、瞬間的にトップスピードに加速する。
もちろん、自身と漆黒竜ベネボレスには風魔法により気流圧を受け流している。
しかし、相手もなかなかのモノのようだ。
ザパ~ンという音と共に、海面から飛び出てくると追いかけてこようとする動きが見える。
「飛行も出来るのか?」
『そうなのじゃ。まぁ我には劣るがのぉ。』
ドンドンとかの存在との距離が出来る。
少し経つと、かの存在は諦めたのか海中へと戻って行った様子が伺えた。
「逃げきったな。」
『いや。アイツがそんなに簡単に諦める奴ではないぞ?』
漆黒竜ベネボレスの言う通りだった。
海底をぐんぐんと近づいてくる存在が感知されたのだ。
『ほらの。アイツは海が庭じゃからの。海流にでも乗って追いつこうとしておるのじゃろう。』
漆黒竜ベネボレスの言う通りの行動なのだろう。
普通であれば見失っておかしくない距離だろうにこちらへ向かって来ている所を見ると索敵能力も高そうだ。
「そうか。追いかけっこはこれ位にするか?」
『戦うのか?アイツと戦うとベトベトになるから嫌なんじゃが。海水の所為じゃろうと思うが。』
「それなら、俺が生活魔法で綺麗にしてやるさ。」
『そうか。では遊んでやるかの。』
「ああ。」
『そうじゃ。驚かせてやりたいから人化しようかの。』
「かまわんぞ。」
一気にスピードを落とした漆黒竜ベネボレスはそのまま、人化する。
ナベリウスは少し離れて、そのまま上空で仁王立ちになる。
≪クロちゃ~ん。遊ぼう~よ。≫
遠くから、声が聞える。
無邪気な声だが、もし近くに人間族の船があれば大変な事になって居るだろう。
高さ100メートルを越える高波が発生してしまっている。
それも一つではない。いくつもの100メートル級の高波が波紋となり広がっていく。
動くだけで、人間にとっては、それは災害だ。
ようやく視界にも見える所まで来た。
「ほぉ。デカいな。」
「そうなのじゃ。アイツは相当にデカいのじゃ。」
≪あれ?クロちゃんだよね?≫
傍まで来るとより大きさが際立つ。
小さな島などは簡単に潰されてしまうだろう大きさの存在だった。
「もう、お前の知っているクロちゃんでは無い。我は漆黒竜ベネボレスじゃ。」
≪クロちゃんじゃない?でも気配は少し変わってるけど、クロちゃんじゃないか?≫
「くっくっく。我は名を得たのじゃ。ただの黒竜から漆黒竜になったのじゃ。」
≪え~。僕に命名をさせてくれなかったのに、誰にさせたんだよ?!≫
「ここにおるナベリウスじゃ。我の友でもある。」
≪こんな奴にさせたの?お前何なんだよ?僕の大切なクロちゃんを誘惑したのか?!≫
無邪気な殺気がナベリウスを襲う。
存在感が大きいだけに、その殺気は波を立たせるほどに大きい。
物質に影響を及ぼす程の大きい気をナベリウスは一身に受ける。
≪へぇ~。僕の殺気を受けても平然としてるなんて、少しはやるようだね。≫
「ほぉ。あれが殺気だったのか?」
≪なに?!強がりやがって。人間の癖に偉そうなんだよ!ムカつくな!!僕は海竜なんだぞ!今なら許しを請うなら見逃してやるから、さっさとクロちゃんを置いてどっかへ行け!≫
さらに大きく威圧を放つ海竜。
その綺麗な青色をした巨体を振るわせていた。




