第十二話 海中遊泳。
「少し遊んでやろう。」
ナベリウスが上空から見下ろして、見下した様に言い放つ。
≪人間風情が!良いだろう。塵にしてやる!!≫
漆黒竜ベネボレスはナベリウスの耳に手をやる。
「ほどほどにしておかねば、壊してしまうぞ?」
ナベリウスは無言で頷く。
それを見た海竜はさらに激昂する。
≪僕のクロちゃんとイチャイチャすんな!!≫
勘違いは増幅された様だ。
ザバン!という音を上げて、海竜が上空へ上がって来た。
≪手加減なんかしてやらないぞ!≫
「つべこべ言わずかかって来い。」
漆黒竜ベネボレスは無言で離れる。
ナベリウスはクイクイと手でもかかって来い。と挑発する。
≪うごぉおおおおおおおおお!≫
海竜は大きな巨体で突進してくる。がそれを片手で押しとどめるナベリウス。
「こんなもんか?」
≪なっ!≫
海竜は驚いた様子を見せる。
渾身の巨体を利用した突進を人間に片手で止められる等は想像していなかったのだろう。
その隙を見逃さず、ナベリウスはブン!と腕を廻して海竜の巨体を上から殴りつける。
ドゴン!という鈍い音を立てて、海竜は海面に叩きつけられた。
巨体が沈む大きなクレーターのように海面が割れる。一拍おいてから海面は海竜の体を覆う様に戻る。それは大きな隕石が落下したかのような現象となり、大きな高波が波紋を広げていく。
「水流操作」
ナベリウスは短い詠唱をして海面に向けて手をかざすと、その先から一気に魔力が流れていくと、海底が見えてくる。海が割れたのだ。
≪水がなくなるううう?!≫
海竜が居る場所を中心に海底が現れる。
海が割れる現象を起こしている。
「こんなもんか?」
「これは、凄いのう。流石ナベリウスじゃ。」
黙って見守っていた漆黒竜ベネボレスは感嘆の声をもらす。
四方を海に囲まれた大きなリングが出来上がったのだ。
リングサイドが海中という、不思議な空間。
「これで、存分に殴り合いが出来るだろ?」
呆けていた海竜は、恐れの感情を抱いた。
ただの人間である筈のモノが神の所業を起こしたのだ。
≪嘘だ?!夢?そうだ夢に違いない!!≫
「馬鹿か?夢な訳が無いだろ?」
ナベリウスはフッと海竜の前に現れるとブンっと海竜を殴りつける。
すると、海竜はそのまま、リングサイドの海中に突っ込むが海竜の体はグンッ!と海面へ投げ出されるかのように上昇し、そのまま投げ出されて、リング内へと戻ってくる。
「面白いしくみじゃな。ナベリウス。我も入って良いか?」
目を輝かせる漆黒竜ベネボレス。
ナベリウスはヤレヤレといった感じになるが許可を出す。
「あるがとう。行くぞ!」
漆黒竜ベネボレスはリングに降り立つと、リングサイドの海中に突っ込む。
海竜と同じ様に体はあっという間に海面へ浮かび上がるとそのまま、ポン!という感じでリング方向へと飛ばされる。
「面白いのじゃ!」
絶叫しながら落ちてくる漆黒竜ベネボレスはそのまま、リング内の海底に着地する。
「これは凄いのじゃ。もう一回!」
漆黒竜ベネボレスは何度かそれを繰り返して遊んでいる。
ナベリウスは闘う気が削がれて、ただ漆黒竜ベネボレスの行動を見ていた。
海竜はその光景を唖然として見ている。
何なのだ?これは?
人間から恐れられる存在である海竜である自分を放置しているこの男は?
クロちゃんはまだ分かる。同列の存在であるドラゴンだ。
しかし、この男は人間だ。人間のハズだ。
「おい。海竜。お主も来い。一緒に楽しもう。」
≪ちょっと。痛いよ。≫
「仕方ないな。【風流操作】」
ナベリウスが魔法を使うと海竜の体はそのまま海底から離れる。後は漆黒竜ベネボレスに引っ張られてそのままリングサイドの海中に入る。
≪ちょ、ちょっと~。≫
海竜は抵抗らしい抵抗も出来ずにそのまま、漆黒竜ベネボレスに繋がれて海面迄上昇させられると、ポン!っとリング内の海底に投げ出される。
≪うわぁぁぁぁぁぁぁ。≫
海竜の巨体は重量がある。その分落下は勢いがある。
その上、心の準備が出来てない。自由落下である。なげだされたまま海底へ着地する事出来ずに打ちつけられそうになる。
「仕方がない。」
ドン。と打ちつけられる事なく。地面ギリギリでふわりと浮かぶ。
「ありがとう。やはり優しい男じゃ。」
友である海竜の様子を漆黒竜ベネボレスは理解していた。なので、感謝を表す。
「気にするな。まぁもう少し優しくしてやれ。」
「そうじゃな。海竜。どうする?まだ一緒に遊ぶか?」
≪・・・うん。遊びたい。≫
ニコッと向日葵のような笑顔を漆黒竜ベネボレスは海竜に向ける。
海竜も様子がウキウキしている感じになった。
その後は、漆黒竜ベネボレスと海竜は一緒に流れる海中を暫く楽しんだ。
その間ナベリウスは、無限収納から椅子や机を引っ張り出して、飲み物を飲んでいた。
≪クロちゃん。≫
「クロちゃんでは無い。漆黒竜ベネボレスじゃ。」
≪じゃあ、ベネちゃん?≫
「まぁ良いじゃろ。なんじゃ?」
≪あの人間は何なの?≫
「ナベリウスか?あれは、わが友であり、我が主じゃ。」
≪それはわかっているよ。そうじゃなくて、人間でしょ?人間がこんな事出来るの?≫
「ああ、その事か。ナベリウスはあのケートスを倒した男じゃ。」
≪嘘?!あのケートスを倒したの?≫
「我の目の前でな。圧勝じゃった。」
≪そんなに強いの?まぁ強いか。≫
「うむ。それに神の使徒でもあるらしいぞ?」
≪神の使徒?≫
「冥王ハデス神様の使徒なのだそうじゃ。ほれ、我にも冥王ハデス神の加護があるじゃろ?」
≪あっ!本当だ。じゃぁ本当なんだ。凄いね。≫
「ふふふ。凄いじゃろ?」
自慢そうな漆黒竜ベネボレスの顔。
それを眩しく見る海竜。
≪もしかして人化も彼のおかげ?≫
「そうじゃ。命名して貰ったら、人化出来る様になったのじゃ。」
≪嘘!?凄い魔力をあの人は持ってるって事?≫
「そうじゃな。」
≪いいなぁ~。その姿なら人間の街に行けるもんね。≫
「ふふふ。そうなのじゃ。人間のご飯はうまいぞ。」
≪僕も行きたいな。≫
「なら、命名をナベリウスに頼むと良い。」
≪そっか。ク・・・ベネちゃんと一緒に彼の仲間になっちゃえばいいのか。≫
「そうじゃよ。」
≪わかった。一緒に頼んでくれる?≫
「もちろんじゃ。二人が仲良くしてくれるのは我も嬉しい。」
≪ありがとう。≫
こうして、海竜はナベリウスに【命名】をお願いして眷族になる。
紺碧竜ディグニファイドが誕生したのである。
ちなみに、人化した姿は少女であった。つまり女の子だったのである。
漆黒竜ベネボレスが少年で、紺碧竜ディグニファイドが少女。
・・・人化とは神秘の塊である。




