第四話 魔物の楽園(モンスターパラダイス)の主。
黒く光る竜鱗。紅く輝く竜眼。
白く大きい竜牙。竜爪は鋭く尖り、竜角は大きく立派である。
ただ、そこに居るだけでしかないのに圧倒的な存在感を放つ黒を越えた漆黒の古竜。
ドラゴンは基本的に食物連鎖の頂点の存在である。
ドラゴンの中でも古竜は上位の存在である。
その上は竜神しか存在しない。
ドラゴンは生体的に翼竜・地竜等の下位種。
成竜・古竜等の上位種。この二つから構成されるのだが、竜と勝手に人間が呼んでいるに過ぎない。下位種と上位種での交配は確認されていないことから、別種であるという学者も存在する。
『待って居ったぞ。小僧。』
「あぁ、俺も楽しみにしていた。」
『さぁ、続きをやろう。』
「良かろう。」
二人は短い会話の後に、上空へと飛び上がる。
「あの、私は・・・。」
ヘレンの言葉は届かなかった。
既に、上空では牽制し合う漆黒竜とナベリウスの姿があった。
◇◇◇◆◇◇◇
ズン!!
地表に何個目かのクレーターが出来た。
今回は竜鱗がそのクレーターの中央に落ちている。
かれこれ半日の間、戦い続けている。
余りにも力が均衡しすぎているのだろう。
休決着がつかずに長く争っている。
死力を尽くした戦いというよりは、競い合うという方が正しいのかもしれない。
武人による、決闘ではなく。
プロレスの様に、お互いの技を見合う様な、演武の様な戦いである。
初めは緊張して見守っていたヘレンも、二人が楽しそうに戦っている様子を見て、馬鹿々々しくなり、今では演武を見ながら食事をしたりしていた。
「そこだ!いけ~!」
等の、声援?を送っていたのも三時間位前までで、今では戦い合う事で起こる音を子守唄代わりに寝始めた。
演武の如き戦いは、リズム感が良いのだろう。
『やはり、面白い。』
「そうだな。」
『我とここまで戦える人間は久しぶりじゃ。』
二人?の会話にお互いを認め合う様な感じを受ける。
事実、お互いはお互いを認めているのであろう。
『邪魔モノが来てしまったか。』
「そのようだ。」
何かの異物を感じた二人?は、同じ方向に視線を向ける。
二人?の周辺は白い霧が掛る。雲の波打つ様な形の雲が空を覆い尽くしている。
『グォーン!』
ひと際大きな雲と雲の隙間から咆哮が聞えた。
雲の隙間から覗く目は、知性が伺えない、狂気に満ちている。
『あれは、ケートス。呪われた空飛ぶ巨大な鯨じゃ。知性の欠片もありはしない。狂った神の落とし子じゃ。おおかた我らの戦いに刺激されて来てしもうたのじゃろ。』
「ただの化け物か。邪魔だな。」
漆黒竜の言葉に頷いたナベリウスはケートスへと体を向ける。
『ここは我に任せておけ、追い払ってくれよう。』
漆黒竜の言葉に首を振るナベリウス。
「いや。俺が滅してくれよう。」
ナベリウスの横の空間が歪むとナベリウスはそこに手を突っ込む。
次の瞬間にはナベリウスの手に剣が握られていた。
『くっくっく。良かろう。見守っておいてやる。』
漆黒竜の言葉がナベリウスの耳に届いた瞬間に、ナベリウスは転移魔法によって、ケートスの眼の前に移動した。
「邪魔だ。」
左手に持った剣をブラッド・ソードに魔力を込めて振るう。
ケートスの眼が傷を負う。瞼を閉じるケートスは痛々しい雄叫びを上げる。悲鳴と言って良いのかもしれない。悲痛な感情の雄叫びは大地を揺るがす。
その音が聞えたであろう周辺の場所から狂った様に出てくる魔物達。
ケートスの雄叫びには発狂を促す効果があるのだろう。
『相変わらず、煩いのぉ~。』
吹き出す血を上げながら雲の中で引っ繰り返る様な動きを見せるケートス。
「獄炎」
ナベリウスは短い詠唱を唱える。
地獄の炎と呼ばれる炎の魔法である。
黒い色をしてメラメラと揺れる小さい炎がケートスへ直撃する。
すると、そこから一気にケートスの体中へと走るかのように広がり、あっという間にケートスの体は黒い炎に包まれた。
言霊。
言魂と書く場合もあるこの文字は、言葉に不思議な力が宿っている。という意味である。
発した言葉通りの結果を現す力があるとされ、古代日本では重要視された力だった。
では、魔法はどうであろうか?
現在では、無詠唱魔法というモノが主流である。
詠唱するよりも早く発動させる事が出来る。魔力とイメージによって現象を起こす力だ。
言葉の力を信じる者にとっては、無詠唱よりも詠唱された方が、より強い現象を起こせるのではないだろうか?
どんなにスリムになってもコンパクトになっても、より現実的には補助がある方が、より良いパフォーマンスを生むのは地球における摂理であろう。もちろん、条件的には他が全て同じである事が重要だ。
つまり、無詠唱を極める事で、詠唱する時と同格までは持っていけるだろう。しかしながら、詠唱した方がより強くなるであろう事は容易く理解できる。
そして、この世界においても≪言霊≫は有効的なモノの様である。
ナベリウスが放った炎の魔法は火の魔法の発展形。
地獄の業火を略している言葉であり≪地獄の業火の如く≫対象が燃え尽きるその時まで燃える魔法だ。しかも、制御が素晴らしく、対象となったモノ以外には火は移らないという特殊な魔法だ。まさにファンタジー。
「ふん。抵抗も出来ないとは。知性が無いと、凶暴な力も無意味だな。」
まさにケートスは暴れ狂う。
炎を消そうと躍起になっているのだろうか?それとも熱過ぎておかしくなっているのであろうか?
『哀れなモノじゃ。』
純粋な力比べであるならば、ケートスはこの世界でも圧倒的存在なのかもしれない。しかし、知性というモノが無い。目の前のケートスは徐々に体を焼失していくだけの存在となり果てた。
最後はその世にその存在の痕跡すら残さず塵となり消え去った。
上位の魔法であっても、より物理的な魔法であれば、抵抗どころか反射させる事が出来たのかもしれない。しかし、相手が悪すぎたのである。この魔法の怖い所とも言えるかもしれない。
『良かろう。お主のその強さに敬意を表し、お主を友とし、お主に従おう。そして我に名を与える栄誉をやろう。』
「良いだろう。では、お前の名はこれより、漆黒竜ベネボレンスだ。」
『承知した。』
ナベリウスはゴッソリと魔力を失った感覚に襲われた。
そして漆黒竜ベネボレンスは力強い光に覆われたのだ。




