第二話 悪魔の笑顔。
「ふむ。はやり強国は強国の理由があるものだ。」
ナベリウスが目の前に見ているのは、クリーマン皇国の皇都スカニアである。
皇都は活気に溢れ、人が元気よくあちらこちらへと動き回っている。
遠くに見える兵舎の方は兵士の訓練が行われているおり、キリキリと動く様子が見える。
「その様ですね。ここまで見てきたクリーマン皇国の各都市も同じ様に活気はありましたが、ここはそれ以上ですね。オートリア国の国都ブフォーリとは大違いです。」
「自国に力があるからこそ、侵略するのですね。攻めるしかない国ではなさそうですね。」
「そうだな。これは本気で統一を狙っている様だな。」
攻めるしかない国は、自国が疲弊しており、財を手に入れる為に攻める。
そこには余裕が無い。余裕が無いという欠点がある。
余裕がないからこそ、暴挙に出る事もあるが、そんなものはハリボテでしかない。
それを突破されたら、自滅するのだ。
しかし、このクリーマン皇国は豊かな国である事がわかる。
貧民はいるようだが、孤児院はシッカリと機能している様子が伺える。
「良い国だ。統一という欲望さえ出さなければ。」
余裕が有る国なのだろう。多分、50年前よりも自信がある筈だ。
何かしらの、今はまだ出していない戦力があるのだろう。そうナベリウスは感じた。
「やはり、この国にしよう。」
「喧嘩を売る国がお決まりになったのですか?」
「あぁ。その通りだ。」
ニヤリと悪魔の笑顔をしているナベリウスをシャーラとスーザンは見た。
それが、機嫌がいい時の笑顔である事は眷族達にとっては周知の事実である。
他が見たら、夜も眠れぬ顔であろうとも。
「先ずは、敵の顔でも拝みに行くとしようか。」
「ふふふ。それでは面白みに欠けます。どうせなら、準備をシッカリと整えてから、慌てる顔を拝みに行く方が面白いというモノではありませんか?」
「ほぉ。確かにその方が面白いかもしれんな。正々堂々とやる必要も無い。」
「はい。その通りです。」
「良かろう。スーザンの意見を取り入れよう。」
「ありがたき幸せで御座います。」
スーザンの案に直ぐに同意したナベリウス。
ナベリウスに恐ろしい提案をするスーザン。
共に悪人の笑顔である。悪魔の笑顔とはこの事だろう。
「面白うそうですね。では私はナベリウス様に城をご用意致しましょう。折角ですから、悪役らしい城をご用意してみせましょう。」
「それは良いな。期待しているぞ。但し、生贄は要らん。興が削がれるからな。」
「勿論です。死ぬのは戦った者と、支配している者だけです。」
「良かろう。それについては任せる。」
「ありがとうございます。」
冷たい瞳に宿すどす黒い思いは支配者に向かっている様子だ。
邪神と人間族に呼ばれていても、無暗に人間族を殺すはずは無い。神であるのだから。
しかし、『ハデス神様を喜ばせる為に必要な事』には妥協しない。
神を恐れる気持ちもまた、神を強くするからだ。
「では、その事前準備を行うとしよう。」
「「かしこまりました。」」
「スーザンは予定通りにクリーマン皇国の各都市を見て回ってくれ。」
「かしこまりました。」
「シャーラは予定とは違うが、魔物の集まっている場所を探してくれ。数が多い方が良い。クリーマン皇国中の魔力溜まりの情報を集めておいてくれ。」
「かしこまりました。」
「では、早速行動に移します。」
「二人とも頼むぞ。」
「「はっ!」」
シャーラとスーザンはその場でバサリと眷族の証である羽をだすと、飛んで行った。
「では、最終目的地へと向かうとするか。」
独り言の様に呟いたナベリウスの姿は次には上空にあった。
そして、一気に加速してクリーマン皇国の更に南へと向かったのであった。
◇◇◇◆◇◇◇
約束の日。
ヘレン、スーザン、シャーラは予定通りに物事を進めて約束の場所へと戻っていた。
「あら、貴女達も何かをしていたの?」
「ああ。」
「そうよ。」
「残念。二人きりでは無かったのね。」
しごく残念そうな顔になるヘレン。ナベリウスの前では見せない顔だ。
「そうガッカリした顔になるなよ。ヘレンは行きにお姫様抱っこして頂いたのだろ?私達は無かったぞ?」
シャーラがヘレンを窘める。更にスーザンが追撃する。
「本当よ。ランチもご一緒したのでしょ?ズルいわ。」
「うぅ。」
二人の剣幕に押されるヘレンは、壁際まで追い詰められていた。
「おいおい。カワイ子ちゃん達。暇なら俺らに付き合わないか?」
薄情そうな男達が、三人の美女を見つけて近寄って来たのだが、もちろん三人の美女は無視である。そのまま、ヘレンを追撃するスーザンとシャーラの構図は変わらない。
「おいおい。無視するとはイテッ!」
薄情そうな男の一人が文句を言いながらシャーラの肩を触ろうとした瞬間に、薄情そうな男は痛みを感じた。
「イテェじゃ…ない!俺の手が無い!!」
薄情そうな男達と三人の美女の間に転がる手がある。
「おい!何しやがった!!」
手を落とされた男の仲間が武器に手を伸ばしながら威嚇する。
しかし、三人の美女は涼しい顔である。
「何をされたか分からない奴に用は無い。消えな。」
冷たく底冷えするような声を出したのはシャーラだった。
同時に威嚇もしたのだろう。
「「「「ひぃ!」」」」
軽薄そうな男達は尻もちをつく。
「どっかへ行きな!!」
「「「「へいぃ!」」」」
這う這うの体で男達は去っていく。
去っていく男達を見ながら、三人の美女は笑う。
周りの人間たちは遠巻きにして見ているだけだ。
「虫が大きいと面倒だな。それにしても、スーザンは良く私が手首を斬るとわかったね。」
「長い付き合いよ?分かるわよ。」
「血がついては嫌だろうと思ったから、私も協力したんだから。」
「後で、ビックリするだろうね。あははは。」
「でも、アイツ手を忘れって行ったんだけど?」
確かに、三人の美女の前に転がっている手があった。
「「「まぁ、いっか。」」」
三人の美女の意見が一致した。三人の美女は笑う。悪魔の様な顔で。
「待たせたか?」
その場に、ナベリウスが登場した。転移の魔法だろう。
「「「いいえ。」」」
「では、戻ろう。」
「「「はい。」」」
一瞬にして消え去る四人。
周辺の人達は何が起こったのか理解できなかった。
ただ、何かがあったのだろうと予測するだけ。それ以上の追求はしない。
オートリア国の国都ブフォーリには、そんな余裕を持った人間など居ないのだ。
居るのは、日々の生活に追われている者ばかりだった。




