第九話 ヨンケーレ大平原の戦い。 その6
「ほぉ。お前はなかなかやるな。」
その声は上空から聞こえてくる。
マリエン大佐は上空をみた。そこには、騎士の格好をした女が居た。蝙蝠の様な翼を持っている。
「お前は?!こいつらのボスか?」
「そうとも言うな。私はナリ―タ。行くぞ!」
ナリ―タは上空から一気にマリエン大佐を目掛けて飛び込んでくる。
利き手には黒い剣を持っていた。その剣はブラッド・ソード。
ナベリウスが持っていた剣と同じ名を持つその剣は呪いの魔剣として有名だ。この世界には同じ名前の魔剣は33本あるが、その内の22本はナベリウスとその眷属が所有している。ナベリウスにとっては只の一振りでしかない剣ではあるが、眷族にとっては眷族である証でもある。ブラッド・ソードは総称であり、それぞれに名前があるのだが、世の中にはそれは伝わっていない。ブラッド・ソードはある刀鍛冶が生み出した刀の種類の名前だ。
そのブラッド・ソードという名前になった刀は全て呪いが掛かっている魔剣であり刀身は黒い。魔力を帯びる事で血の様な赤いラインが入る。これらが、ブラッド・ソードと総称される呪いの魔剣の共通する部分である。
そのブラッド・ソードの一撃を自身の剣で受け止めよと判断したマリエン大佐は、危機感を感じ後方へと飛び避けた。
その際に被っていた兜の端にブラッド・ソード斬撃が届いた。
その斬撃にそって兜はスッパリと切れていた。兜は鋼で出来ており、かなりの強度を持っていたのにも関わらず切られたのだ。
剣で受け止めていたら、そのまま体ごと斬られていたに違いない。
「ふむ。判断も悪くない。」
一度その場で立ち止まったナリ―タは笑顔になっていた。
「久しぶりの剣闘になりそうですね。」
空間が歪んだ。その空間に手を突っ込んだナリ―タは一振りの剣を引っ張り出した。
その剣をマリエン大佐の目の前に投げた。
「その剣をお前にやろう。その剣はグラッチェという名の魔剣だ。少なくとも、お前が持っている剣よりは優れている。その剣であれば、少しはまともな戦いが出来るだろう。」
グラッチェとは、以前の騎士時代にナリ―タが使っていた剣であり、褒賞として時の王に頂いた剣でもある。物凄い剣で有る訳では無いが、それなりに由緒ある剣であり、ブラッド・ソードとも互角とは言わないまでも、それなりに戦える魔剣である。
自身の持つ剣では戦えない事を充分に理解したマリエン大佐は、素直にこの剣を拾った。
そして、鞘から抜き刀身は見て、感嘆した。
「ほぉ。素晴らしい剣だ。ありがたく頂戴しよう。だが、死ぬのはお前だ。」
ギラリと光るマリエン大佐の眼は鋭くなっていた。
二人による攻防がスタートする。
上段に切りかけた剣を中段から受け止めて、そのまま中段から突きへと流れる。
その突きを宰相の動きで躱し、その動きのまま下段から斬り上げる。その下段からの攻撃を躱してから、中段から横に薙ぐ。
それらの一連の攻防は、演武の様だ。
途中には魔物や兵士による邪魔をお互いに切り伏せたり、利用したりしての攻防が続く。
何合のもの打ち合いをした二人。
気がつけば、二人の周りは血の海となっていた。
「やるな。」
「・・・。」
ナリ―タはマリエン大佐を認めていた。
お互いに剣技は互角であったのだ。同じ魔剣同士という事もあり、一方的な斬り合いになっては居なかった。
しかし、ナリータは平然としているのに対して、マリエン大佐は肩で息をしていた。
無傷なナリ―タと切り傷を多く負ったマリエン大佐。
身体能力の差分ほど、マリエン大佐が受けてしまう。
「いいだろう。ここは引いてやろう。仲間を一人でも多く逃がすのだな。」
ナリ―タはそう言うとクルリと背を向ける。
しかし、そこに隙は無かった。そして彼女が本気でない事もこの時のマリエン大佐は感じていた。剣を渡してから、一度も飛んでいないのだ。
ナリ―タが合図を出すと、それまでオーガ等がマリエン大佐の部隊に攻撃をしていたのだが、退いた。
「マリエン大佐!大丈夫ですか?!」
「まぁな。とにかく仲間の救援に向かうぞ!」
「はい!」
その後、マリエン大佐の隊は魔物の混成軍から攻撃を受ける事はなく、負傷者の救助をする事が出来たのだった。
「ナリ―タか。何処かで聞いた名前だ。それにこのグラッチェという名の魔剣も。」
マリエン大佐はそう呟いた。
◇◇◇◆◇◇◇
「気がついたか?」
ドミニク公爵の傷を回復させたシャリーが俺の元へ来た。
ここは、バンホール火山の中腹にある洞窟。元は火竜の住処だったようだ。さっき迄は魔物が蠢く洞窟であったが、全て支配下に置いた。【魔獣支配】とは便利なチートスキルだ。バンホール火山にある『火竜の住処』という名前の洞窟の様だ。
元、ドラゴンの住処というだけあって、だだっ広いだけかと思ったのだが、どうも、その後住み着いた魔物達の中にゴブリンが居た様で、そこそこに改造されていた。坑道の様な複雑さは無い。ただし、入口は大きい。ドラゴンが出入りするには丁度良かったのだろう。
俺は小部屋をいくつか造らせた。魔法による改造構築だ。
その一つの部屋を、寝起きが出来る様にし、あの青毛馬と一緒に入れておいた。
その部屋へと俺は向かう。
「ナベリウスだ。お前はドミニク公爵だろう?」
「はい。助けて頂きありがとうございます。ですが、何故、助けて頂けたのでしょうか?」
もう、事前に状況の説明をシャリーがしていてくれたのであろう。ドミニク公爵は落ち着いていた。
「簡単な話だ。ヒラリーが助けてやって欲しいと願ったからだ。馬との主従関係が素晴らしいと。」
「そうでしたか。」
「お前は沢山の部下を失った。これからどうするつもりだ?」
ドミニク公爵は肩を落とした。
しかし、それは一瞬の事だった。
「許しを得れるのであれば、王都へ戻り、再戦する為に動きたい。」
「ここを出るか。それは構わん。好きにするが良い。」
「本当ですか?」
「ああ、お前の人生はお前のモノだ。」
「ありがとうございます。」
こうして、ドミニク公爵とフェリオという名の青毛の馬は開放した。
山の裏手から、街道に抜ける道を教えてやり、ヒラリーに案内させた。
その後、ドミニク公爵は王都ではなく、貴族軍へと合流した。
再編成をおこない。
他方に散っていた公爵直下の兵も合流し、再度の侵攻に備える事となる。
さて、残る一人の者。マドカ・ラングレーはどうしてやろうか?




