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第八話 ヨンケーレ大平原の戦い。 その5


ヨンケーレ大平原の戦いは、思わぬ者による介入により事態は一変した。

ケロベロスの集団が、戦場を駆け巡り、荒らして回った。

人間どもは見た事が無い魔物の集団により、圧倒的な数の有利を利用できず、されるがまま蹂躙されていた。防戦するのがやっとの中、指揮官が不在のイルド将軍の本体は壊滅した。


ブルボ将軍は、自軍を纏めるのに苦慮し、対戦していたシュタイア公国の貴族軍への追撃を諦めた。逆サイドに展開していたメイセ将軍も同様だった。後詰を指揮していたイオラ将軍は状況の把握に忙しくしていた。状況の把握が出来る迄は軍を動かせない。判断材料が無いからだ。


「くそ!一体どうなっている?」


大きな火球がイルド将軍の本体と、イオラ将軍の後詰軍との間に落とされた事も遅れる事態となっていた。


「報告します!イルド将軍本隊は壊滅。イルド将軍も戦死したと思われます。」


「なに!相手はシュタイア公国なのか?」


「わかりません!しかし、イルド将軍の本体が壊滅する前に、敵方のドミニク公爵軍が突撃をしていたとの情報が入っております!」


「ぬぬぬ。ドミニク公爵軍に高名な魔法使いでも居たのか?」


「いえ。事前情報ではあり得ません。」


ほぼ、このヨンケーレ大平原での戦いは勝ちが見えていた。

その為に、イルド将軍の本体は動き、相手方の本体と思えるドミニク公爵軍に向かって行ったのだ。つまり、この状況はあり得ない状況。想定外の事なのだ。


「では、大規模な火計の罠が張り巡らされていたのか?」


「いいえ。それも考えられません。構築した形跡もありません。それにあれほど大きな火球が罠であれば、それ相応の魔法使いが必要です。シュタイア公国にはその様な者が居る情報はありません。」


断言する者は、イオラ将軍の直属の部下でイオラ将軍の腹心であるマリエン大佐である。

それに同意を示すのは、バード中佐。


「このような戦上手が居れば、少なくともカーリアン皇帝陛下の情報網にて私達にも情報がもたらされる筈です。」


バード中佐の言う事はもっともである。

ラムタラが率いる情報収集を専門とする部署はラムタラ自身を知らない者でもカーリアン帝国内の者であれば知っているほど、有名な情報収集機関であり、他国に追従を許さない程に、情報戦にも強い。そこの機関がもたらす情報の精度は99パーセントである。1パーセントは誤差レベルの事だ。

それだけ信頼される機関がある事で、カーリアン帝国は緻密な戦略を駆使する事で、大陸最強を謳っている。


「では、この状況をどう見る?」


「イレギュラーが発生したと見る方が良いでしょう。」


冷静なマリエン大佐は答えた。


「では、どうする?」


「ここには四万の兵がおります。隊を分けて将軍は一旦国境付近まで退却して頂きたい。私に一万の兵を預けてください。私が戦場を見てまいります。そして仲間の退却を手伝ってきます。」


「ふむ。無事な兵を無暗に減らさないという訳か。」


「はい。尚且つ前線の助けれるであろう者達も助ける方法です。」


イオラ将軍は手を顎に考察する。


「良かろう。マリエン大佐の進言通りにしよう。」


「ありがとうございます。」

「では、マリエン大佐は一万の兵を預ける。救助隊を組織せよ。バード中佐には五千の兵をを預ける。この陣に待機してマリエン大佐を助けよ。」


「かしこまりました。」


「他の者は、急ぎ退却準備だ!」


「「「はっ!」」」


他の将校が出て行く中、二人を呼び止めたイオラ将軍。


「決して死ぬな!」


「「はっ!」」


そう言い残し、イオラ将軍も退却の準備に向かった。

残された、マリエン大佐とバード中佐は、この後の事を話し合ったのだった。



◇◇◇◆◇◇◇



「行くぞ!」


それから、直ぐに、編成された一万の兵はマリエン大佐の号令により出発した。

バード中佐は五千の兵で陣を固めた。のこり二万五千の兵はイオラ将軍と共に、国境を目指し退却を始めた。


マリエン大佐はじっくりと周りを確認しながらの進軍となった。時折、戦場から逃げかえってくる兵達に陣迄引け、バード中佐に指示を仰げと伝えながらの進軍はゆっくりと戦場へと向かう事になった。


斥候も時間をおいて放ち、随時もたらされる情報を確認しながら進軍を続ける。


「何?魔物の軍団?!それは獣の様な魔物では無いのか?」


「違います。ほとんどが、オークやゴブリンでした。」


新たな情報を受けて、流石のマリエン大佐も動揺した。

ゴブリンやオークの軍団。

軍団的行動をする時には、必ずその種の王が出てきている。

ゴブリンキングやオークキングがその例だ。

しかし、それらが混成された軍など聞いた事が無い。

あるのは、その昔、大魔王と呼ばれた存在が、魔物達を率いていたという昔ばなしだ。


「馬鹿な?!もしや伝説の大魔王が復活したのか?」


魔王はこの世界にも居る。

魔族の王と言われている存在だ。エンデ魔王国の王。ヨリトモ魔王がその人物である。

統一皇帝:リン・M・ジャポネスの腹心であり、二代目となる予定だったのが、エスクダートと呼ばれた魔族だった。かれの子孫を自称する一族が、エンデ魔王国の魔王だ。


では、大魔王とは何か?

それは今やお伽話となっているが、魔物とよばれる者達の王の事であり、大魔王はそれぞれの魔物の一族の王達をも従えた存在であったという。

魔物を操り、人族からこの世界の覇権を奪おうとしたと伝えられている。

その大魔王を退けて、世界の希望となったのが、統一皇帝:リン・M・ジャポネスだ。

彼女はその後に、世界統一を成した。

彼女が治めていた時代は、戦争や紛争がこの世界から排除された唯一の時代だとされている。


大魔王はこの世界の覇権を狙っている。

しかし、これは創作された話では無いか?

本当は世界の覇権を競って敗れた人族では無いか?

そういう説もあるのだ。魔物は資源の一部に過ぎない。動物と同じである。

そう言う学者もいるのだ。


そんな伝説的な、魔物混成軍によりカーリアン帝国の侵攻軍が窮地に追いやられている。


「そんな、馬鹿な?!」


信じられなくても仕方がない事であろう。

しかし、そんな信じられない状況をマリエン大佐は目撃する事になってしまう。

魔物混成軍が彼らに気づいて攻め寄せてしまうのだ。

その数は五千。しかし、オーガやサイクロプス等の混成軍の中でも強い種族によって編成された五千だった。


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