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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「天才というのは、いつだって孤独でいたがる」
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第26話「虚空を掴む」

 *


「事件解決とならず、か」


 深い溜息が道端の外気に溶けていく。独る私にそれらが優しくしてくれる筈も無く、一陣の風は心をも打ち付けるかのようだった。秋の空は冷気を連れてくる。日中は、未だ暑い日も多いと言うのに朝と夜だけは薄ら寒い。二の腕を摩る私を嘲笑うかのように、夜風は強く吹き続けていた。


 歩み慣れた帰路を辿り、只管、脳漿を巡らせる。けれども事件の犯人など分からず、濃霧を練り歩いているかのようだった。


 被害者の血縁者を洗ってみたものの、進展はなし。候補に挙がった者達は既にアリバイがあるし、そもそも工藤家に恨まれるような人間はいなかった。

 夫の昭雄さんは朗らかで人当たりも良く、妻の楓さんも近所で評判の美人妻だったらしい。冷ややかな容姿と違い、人懐っこい彼女は近所の人間とも密に付き合っていたようだ。彼女を惜しむ声は後を絶たず、聞き込みの最中、涙を流す人もいた。子供達も元気に挨拶をする良い子達だったそうで、親の人柄もあり工藤家の人間を恨む人間はいないんじゃないか、と皆口を揃えていた。

 家族間も仲が良く、昭雄さんはウォーキングが趣味。奥さんは料理好きで、最近はフレーバーウォーターにハマっていたとか。子供達は趣味など無かったようだが、外で遊ぶのが好きで、よく公園で目撃されていた。


 元々、人との距離が無いも同然だったようで、よく人を招いてはもてなしていたようだ。故に工藤家に車が泊まっていても誰も気にしない。事件前夜に車の目撃証言はないが、来客がいたようだ、という証言もなかった。


「つまり車を持たない人間。ならば持ち去った凶器を隣町のゴミ捨て場に捨てるのは分かる。自分のところに捨てると疑われる……疑われたら困る、それと車で移動する距離ではない。更に工藤家に入り込んでも違和感がない人間。ということは近所の人間と言うことになる。でも……」


 アリバイ、トリック、犯人……いくら考えようとも犯人像が浮かんでこない。殺してしまうのなら、前の日の夜に殺してしまっても良かった筈だ。衝動的な犯行でないことは火を見るよりも明らかである。故に犯人が何を考えていたのか全く分からなかった。


「朝じゃないとダメな理由……」


「随分と仕事熱心だね」


「狼谷君!? なんで!?」


「帰り道がコッチなの」


「嘘でしょ!? 反対方向じゃない!?」


 住所が割れていることすら頭にないのだろうか。そんな私の思考を見抜いたらしい彼は舌打ちを繰り出すと、深い呼気を吐き出していた。


「明日香に頼んだ届け物は貰った?」


「え? ええ。ありがとう」


「血液、ちゃんと一致したでしょ?」


「そうね。でも……」


「動機、でしょ」


「なんでもかんでもお見通しなのね。お爺ちゃんから聞いたの?」


「顔に書いてる」


 揶揄なのか、比喩なのか。彼の紡ぐ言の葉は相変わらず空言のように聞こえる。本心すらも覆い隠してしまう嘘に、私は胸裏で眉を顰めた。


「これはアンタにあげる」


 唐突に紙袋を押し付けられ、反射的に受け取る。中身はビニール袋に覆われており、何なのか見当も付かなかった。


「え? コレ何?」


「中身見たいなら手袋付けなよ」


「てことは証拠品!? 凶器の外に何が!?」


「あの日は雨が降っていた」


「う、うん?」


「察しの悪い人だな。それウィンドブレーカー」


「え?」


 紙袋を指差されるも、何が言いたいのかサッパリ分からない。彼が謎解きをしてくれてるのだろうことは分かったのだが、言葉の意味が何一つ咀嚼出来なかった。


「はぁ……家もう少しでしょ? 入れて」


「人様の家にお邪魔する態度じゃないよね?」


「分かってんの? アンタは事件の真実を聞きたいんでしょ? つまり乞う立場にあるのは……」


「どうぞこちらです……!」


 彼の言葉を遮り、ヒールの音を響かせる。黙って背を付いてくる様は子犬のようで、少しばかり可愛らしく思えた。

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