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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「天才というのは、いつだって孤独でいたがる」
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第27話「虚実皮膜」

「で!? 事件の真相を教えてちょうだい!」


「対価」


「え?」


「ただで教えるわけないでしょ」


「え、えぇ!? だってこの前は!」


「この前は、ご褒美って言ったじゃん!」


「そんなぁ!?」


 変わり映えのしないワンルームに招き入れ、慌てて珈琲を淹れる。インスタントの安っぽい薫りが充満する室内で、彼は忠犬の如くソファに腰を下ろしていた。いつかの私のように辺りを見渡すようなことはしない。それに対しなんだか申し訳なさを抱えながら、両手に持ったマグカップを彼の前に下ろした。


 私の顔を見上げる様相には嘘の陰りなど見えない。それでも彼が嘘吐きのオオカミ少年だと知り得ている私は構えざるを得なかった。


「な、何が欲しいの!?」


「それ賄賂って言うんだよ」


「だって狼谷君が!」


「いちいち喚き散らさないでくれる?」


 些か子供のように騒ぎ過ぎたようだ。私は反省するように絨毯へ腰を下ろし、珈琲を嚥下した。白い湯気を纏っているそれはまだ熱い。私は静電気のように走る痛みに眉を顰め、舌先を火傷した事実を受け入れた。


「アンタも馬鹿だよね。入れてって言われたからって、普通、男を家の中に入れたりしないでしょ」


「え? だって狼谷君だし」


「アンタが本当に馬鹿だってことは分かった」


 相変わらず口が悪い。何度、人を馬鹿にすれば気が済むのだ。些か腹立たしいが目くじらを立てても仕方あるまい。私は苛立ちを胸の奥深くに沈めると、先を急かすべく口を開くことにした。


「トリックは分かった。でも動機が分からない」


「てことは犯人も?」


「というか、あの人しかいないでしょ。でもトリックとかそれ以前に思考が理解出来ないから自信がないんだよね」


「あの人?」


「声掛けてきたマラソンマン」


「ランニングマンね」


「あ、間違えた」


 悪びれもしない彼が珈琲の入ったマグカップを手に取る。暫し湖面を見つめていたかと思えば口を開いた。


「人が人を殺す時、何を考えてるんだと思う?」


「え?」


「俺はね、やっぱり恨みありきだと思うんだ。勿論、強盗殺人みたいなものは含まないよ。サイコパスも違うと思う。でも普通、人が人を殺すのは恨んでいるからだよね」


「そう、だね」


 何が言いたいのか分からない。それでも〝強盗殺人〟という単語に心がざわついた。彼の両親は強盗殺人で亡くなっている。それを微塵も感じさせない狼谷君が恐ろしく思えた。嘘を吐き慣れた彼が真実を口にしたところで〝本当〟には聞こえないのだろう。それを目の前で突き付けられた気がして胸が締め付けられた。


「遺体の状況とか聞いた話から恨まれていたことは分かる。でも恨まれる理由。殺害動機みたいなものは本人(・・)にも分からないみたいで」


「本人ってのは? 昭雄さん?」


「そう。ココにいるよ」


「あの日、狼谷君が来たのも呼ばれたからなんだよね?」


「そう。その時に犯人はランニングマンだって言われた」


 こうやってね、と指を指され息を呑む。この場に犯人がいるわけでも、何か咎められたわけでもないというのに嫌な汗が噴き出した。


「なんでその時言わなかったの? 任意でいくらでも引っ張れたのに」


「証拠がなかった」


「証拠なんていくらでも……!」


「って言うのは嘘で」


「嘘なの!?」


「当たり前でしょ。本当は持ち去られた凶器でも持って突き出してやるつもりだった」


「なんでそれをやらなかったの!? そしたら事件解決じゃない!?」


 目の前のテーブルを叩き前のめりになる。声を張る私に彼は驚いた様子もなければ、微動だにもしなかった。


「凶器だけでどうするの?」


「被害者のDNAと凶器の血痕が一致すれば!」


「だからさ、一致したところでどうするの? それは凶器だった証拠にはなるけど、あの男が犯人だって証拠にはならない」


「指紋!」


「出なかったでしょ? そもそも、どうやって照合するの? あの男に前科はないだろうし、任意で引っ張ろうにも無理がある。昭雄さんと、あの男はランニングしていて知り合っただけに過ぎないし、殺す理由がない。二人が知り合いだったのを知っている人間はいないし、ただの知り合いを普通殺す? それも滅多刺しになんてしないでしょ」


「それは昭雄さんが?」


「そう。本人に聞いたから間違いない」


「そもそも、どうしてただの顔見知りを家に招いたの?」

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