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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「天才というのは、いつだって孤独でいたがる」
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第25話「虚仮威かし」

「通常、怨恨の遺体ってのは恨みの対象に対して明らかな特徴が見られる。今回の場合だったら刺し傷が見るからに多い、とかね。でも、今回の事件に関しては、どのご遺体も二十回前後。それも弄ぶかのように一人ずつ殺害している。ここから導き出される答えは?」


「誰か一人が恨まれていたわけじゃなく、家族全員が恨まれていた、ですか?」


「正解だ。花丸をあげよう。つまり、あの猿のやり方じゃ永遠に犯人は見つからないってことだ」


「蟹江君! 猿島警部に連絡をお願い!」


「え? いいけど、それだと陽正の手柄が……」


「いいの。助けて貰ったお礼よ」


 犬養さんの目配せに応えるように開口する。蟹江君は私の言葉に頷くと、すぐさまスマホ片手に退室して行った。


「あ、でも、凶器が見付からないことには……」


 そもそもこれは動機と言えるかどうかも怪しいのだ。早朝に降っていた雨のせいで目撃情報もなければ、今のところ犯人の目星も付いていない。否、今迄に得た情報では意味がないのだ。顎に手を当て思惟していると、袋のかさつくような音が鼓膜を震わせた。


「これ、なーんだ」


「え?」


 犬養さんが私に向かって袋を差し出す。首を傾げつつ受け取ると、彼女は険しい顏で中を見るように指示をした。ポリ袋の中には臙脂に染まった刃物が入っている。それを食い入るように見つめていれば、包丁であることが分かった。


「犯人はランニングをしていた男。これは犯行に使われた凶器らしい」


「い、犬養さん!? これどうなさったんですか!?」


 持ち去られた凶器が見付かったという報告など受けていない。にも関わらず、目の前には血痕がこびり付いた氷刃が在った。尤も、これが、この事件で用いられたものなのかまでは分からない。それでも、このタイミングで彼女が持ち出してくるあたり、そうとしか思えなかった。


「真空が持ってきたんだよ」


「狼谷君が……?」


「ああ。アイツは、こう言ってた。『犯人は、コレを捨てる為に隣町まで足を伸ばした。犯行を早朝にしたのはゴミ回収車に運ばせたかったから。だけど、それをする為には家の中にいなければいけない』」


「だから、お客さんがいた形跡があったのね」


「そう。犯人は顔見知りだ。それも泊まりに行けるほど密な付き合いの」


 食洗器には五人分の皿やマグカップが在った。つまり前夜には客がいたことになる。また、シンクには、まだ洗っていない食器が四人分と、洗い終えた食器が一人分置いてあった。恐らく犯人は被害者家族と共に朝食を摂ったのだ。そして仲良く同じ物を口にしていながら、その後、犯行に及ぶ。油断をしていた一家は、あっさり殺され、犯人は凶器を持ち去りゴミ捨て場に捨て置いた。


「つまり夫婦の血縁者?」


「その線が濃いと思う」


 どうやら今迄、集めた情報は無駄じゃないらしい。私は、この事実を蟹江君に伝える為に扉へ向かって走った。


「犬養さん、ありがとうございます! この凶器の血痕と、被害者らの血痕が一致するか科捜研に回して鑑定して貰います!」


「ああ。陽正」


「はい?」


「頑張って」


「はい!」


 犬養さんは恐らく、私の為にココへ足を運んでくれたのだろう。彼女だって生きづらい世の中を生きてきた筈だ。いつも目を掛けてくれる上司に感謝の念を抱きながら、私は扉を潜り抜け廊下を駆けて行った。

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