第三章 地上への誘い ~地上の風~
息を切らせて地上へ出ると、ものすごい風が押し寄せてきた。実際にはそんなに強くはなかったのだろうけれど、さえぎるもののないところへ出たばかりのあたしには、呼吸もできないくらいの風圧を感じ、思わず目を閉じた。都市を吹く風はこんなに強くない。ほとんど無風状態なのだ。
あたしは顔を背けて正面から吹いてくる風を避けた。少し気を抜くと体を後ろへ飛ばしてしまいそうな風は、あたしの耳元をごうごうと音をたてながら通り過ぎていく。足元の草は何かのリズムを刻んでいるかのように音をたてている。
やがて風圧に慣れてきたあたしは、そろそろと眼を開けると、顔の向きを変えていった。風があたしの横をすり抜けざま頬を撫ぜ、髪を後ろへ流していった。それを快いと感じる。
ハンドライトを前に向けた。頼りない光が照らすなかには、風になびく細長い草が揺れているだけだ。
「どうですか、感想は?」
足元で〝獏〟の声がした。あたしは、うっとりと答えた。
「すてき……最高よ。あたし、地上ってもっとごちゃごちゃして、どんよりして、いろんなものがおいてあるけど何にもないんだと思ってた。こんなにすっきりしてるなんて思わなかった……」
「以前はそんな感じでしたよ」
人間ならさしずめ肩をすくめるような調子で、〝獏〟が説明してくれた。
「荒廃した地上を捨てて全ての生命を連れて人間が地下に潜ったときには、使い棄てた物や手に負えなくなった物があちこちに置き去りにされていました。でも、生きているものはすべて自浄作用を持ってますからね。人間達が知らないうちに地球は自分で自分をきれいにしたんですよ。ずいぶん長い時間───それこそ気の遠くなるような時間をかけてね」
「生きてるものって……地球は生きてるの?」
「もちろんですよ。死んでしまった星の上に他の生物が生きていけるはずがないじゃありませんか」
「そう……かな」
「そうです。生命力って思いもかけないくらい強いものなんです。表面上は死んでしまったように見えても、埋み火みたいにずっと深いところで微かに燃えているんです。その微かな埋み火を再び燃え上がらせるのは、生き物の生きようとする力です。人間が地下──地球の胎内──に潜り込んでしまってから、地球は自分でその埋み火を起こしたのです。そして再び蘇ったんです、不死鳥のように。わかりますか?」
妙に熱っぽい口調で〝獏〟が話した。それは否定できない迫力を持っていて、あたしはそれに気圧されたような格好で頷いた。
「ところで、いつまでそうしているつもりなんですか?」
「?」
「座ってもらえませんか? 首が疲れるんですが」
〝獏〟がそう言いだしたのは、多分照れ隠しだろう。ちょっとぶっきらぼうに聞こえる言い方に変だなと思って、ライトを向けたらくるっと体の向きを変えた。
「うん、そうだね」
そんな様子がおかしくて、あたしは声に出さずに笑って〝獏〟の側に腰を下ろした。
構成がヘタクソです。すみません(泣)。




