減りゆく未来の刻限
現代から帰還した信長様。
しかし、未来の万能の箱にまさかの「低電力モード」が……!?
――ふっと視界が揺れたかと思うと、眼前に広がっていたのは、絢爛豪華な金箔の装飾が施された見慣れた空間――天正十年の夏、すでに堂々とそびえ立つ安土城の天主であった。
「う……うむ? ここは……」
織田信長が周囲を見回すと、傍らには先ほどと変わらず、山のような献上品(お菓子や衣類、紙幣)を抱えた森蘭丸が立っていた。
「上様! 元の時代……我が安土へ戻ってまいりました!」
「おお、戻ったか! 蘭丸、見よ! この壮麗な安土城の天主こそ、我が覇道の結晶ぞ!」
信長は漆塗りの格子窓から眼下に広がる城下町を眺め、フッと不敵な笑みを浮かべた。
そう、今の時代は天正十年五月。天下統一は目前であり、この安土城を中心に織田家の栄華はまさに絶頂期を迎えていた。
――しかし、今の信長の心に「天下統一」の二文字は微塵もなかった。
「ふははは! 秀吉や家康め、今は調子に乗っているが良い! 未来において我が安土を『のどかな田舎』に貶めた罪、万死に値する! わしはこの安土を、東京も大阪も蹴散らす正真正銘『世界一のメガシティ』に変えてみせるぞ!」
信長は燃え上がるような対抗心を胸に、蘭丸に命じた。
「蘭丸! 先ほど未来の領民から授かった、あの平たい献上品……『すまほ』をこちらへ出せ!」
「ははっ! こちらにございます!」
蘭丸が恭しく差し出したスマホの画面を、二人は食い入るように覗き込む。
そこには、あのテレビクルーが残していった『新番組・全国メガシティロケスケジュール』の文字と、東京の摩天楼や大阪の大商業街の写真が鮮明に映し出されていた。
「ぬう……何度見ても恐ろしい高楼の数々じゃ。よし蘭丸、まずは筆と紙を持ってまいれ! この未来の絵図面をすべて和紙に書き写し、職人どもに下図として――」
信長が指示を出していた、その時であった。
ピピッ、と軽い電子音が鳴り、画面の端に小さな文字が浮かび上がった。
『バッテリー残量:12%。低電力モードに切り替えます』
「……ぬ? なんだこの見慣れぬ文字は?」
「上様! 画面の端にある謎の数字が……先ほどまで『サンジューハチ』とあったものが、『ジュウニ』に減っております!」
「なに……!?」
二人が困惑している間にも、数値は『11%』『10%』と刻一刻と減っていく。
さらに、画面の明るさがすーッと暗くなり、色合いがモノトーンめいた渋い光へと変わった。
「な、なんということだ……! この未来の鏡、刻限が近づくと光が奪われ、色まで褪せていくのか!?」
「上様! 画面が……画面が暗くなっております! このままでは未来の知恵が消えてしまいます!」
「ぬああああっ! 蘭丸、急げ! 筆だ! 墨だ! この東京のからくり絵図を今すぐ書き写すのだ!!」
信長と蘭丸は前代未聞の大パニックに陥り、高級な和紙を広げて必死にスケッチを始めた。
「う、上様! この『旧・江戸』の絵図、線が細かすぎて墨がにじんで写しきれません!」
「ええい、絵などどうでもよい! 『たかいビル』『ちかがい』と文字で書き留めよ! ああっ、画面が……画面が消える――っ!!」
プチッ。
虚しくも、スマホの画面はパタリと真っ黒に暗転し、二度と光ることはなくなった。
「うおおおおおのぉおぉっ……!!」
静まり返る豪華絢爛な天主の一室。
手元に残されたのは、墨汁が飛び散りミミズがのたくったような乱雑な手書きのメモと、ただの黒い板と化したスマホのみであった。
「お、落ちつかれよ上様……! 未来の知識の端切れは、この蘭丸が何とか書き留めました……!」
「だ、戯けたことを言うな蘭丸! このような書き殴りメモだけで、どうやって家康や秀吉を超える都を作れというのだ! そもそもなぜ奴らの街があそこまで栄えたのか、肝心の理由が分からんではないか!!」
信長は頭を抱え、ただの板と化したスマホを力任せに握りしめた。
「くそっ……動け! 動くのだ未来の鏡よ! 稲妻の力でも宿っておるのか知らんが、再び光ってみせろぉっ!」
信長が怨念を込めてスマホを掲げ、現代へ再び行くことを強く願ったその時――。
ぐにゃりと、周囲の空間が再び歪み始めた。
「ぬ……!? この感覚は……!」
「上様! またあの光が――っ!?」
二人の姿は、まばゆい光とともに、またしても戦国時代から掻き消えていくのであった。
第二話をお読みいただきありがとうございました!
まさかの「低電力モード」発動からの液晶暗転に、必死で墨まみれになりながらメモを取る信長様と蘭丸でした。
バッテリーという現代の魔力の前には、天下の覇王もなすすべなしです。
そして、知識の続きと充電を求めて、再び現代へひとっ飛び!?
次回、現代のテレビクルーと再会し、ついに「本能寺の変」の歴史的真実を知ってしまう……!?
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