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東京魔法戦線 〜人に魔法を撃てない魔術師の成長録〜  作者: いぬぬわん
第1章

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第8話 父の形見


⸻


自宅に着くと陽翔は疲れ切った体をソファに

沈めるように横たわった。


戦闘で受けた打撲や擦過傷の痛みがまだ残っている。深く息をつきながらそのまましばらく眠りに落ちた。



夕方を過ぎ、夜になったころ──

家の玄関の扉が開く音が聞こえる。


「「ただいまー!!」」


その声に、陽翔はぼんやりと目を開ける。

そこには、義母の赤月 琴音の姿があった。



ウェーブのかかった黒髪のボブ。

40代とは思えない若々しい美貌に

赤月家特有の真っ黒い瞳が

陽翔の怪我を見てぎょっと光った。


「……陽翔、あなた!どうしたの、その傷は!」


義妹の赤月 雫もすぐに駆け寄る。

ストレートの黒髪ボブで母譲りの体型。

思春期特有のツンとした表情で、

陽翔の顔を見ると少し口を尖らせた。


「……また無茶したの?……お兄ちゃん……」


琴音は眉をひそめ、鋭い目で陽翔を見つめる。


「なにがあったの?説明しなさい!」


陽翔は少し息をつき、

痛む体を押さえながら経緯を話し始めた。

謎の男が現れたこと、先輩が助けてくれたこと、自分は何もできなかったこと……。

言葉を選びながらも、正直に一つずつ説明する。


雫も横でじっと聞き入り、

琴音も静かに頷きながら聞いていた。


話が一通り終わると、陽翔は拳を握りしめ、

決意を込めて言った。


「……だから、俺は強くなりたい…………!」


琴音はその言葉を聞き、少し驚いた表情を見せる。


「……そう。強くなる、ね……」


そしてしばらく陽翔の顔をじっと見つめ、

静かに頷くと、琴音は軽く「ちょっと待ってて」

と言い、席を立った。


数分後──

琴音が戻ってくると……

手に持っていたのは一振の刀だった。


その姿に、陽翔の目が一瞬見開かれる。


──それは、赤月家の家宝、名刀赫月。(あかつき)


赤月家の当主が手にしてきた刀であり、

当主になる時に前当主から新当主に送られるもの。


最後は生前の父が使っていた刀。


「……それは……」


琴音は刀を静かに陽翔の前に差し出す。



「陽翔……あなたが本当に強くなると決めたなら

この刀を使いなさい」


陽翔は、赤く淡く光る刀身から目を離せずにいた。


琴音は一歩近づき、そっと声をかけた。


「……陽翔」


その声音には、厳しさよりも、

隠しきれない不安が滲んでいた。


「強くなりたいって言葉……

その覚悟が本物なのは分かるわ。でもね……」


琴音は一度視線を伏せ、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「貴方に何かあったら……

私は、天国の兄さん達に顔向けできない……」


陽翔の胸が、きゅっと締めつけられる。


「……わかってる」


思わずそう漏らすと、琴音は首を振った。


「ただ……無茶だけはしないで。お願いよ、陽翔」


心配そうにする琴音だが、瞳には温かさを感じる。


「本来であれば当主になるときに

前当主から受け取るもの。

でも……貴方には、受け継ぐ資格がある」


その言葉に、陽翔の脳裏に過去のトラウマが蘇る。

人を殺す可能性のある力。


かつて、それを恐れ、握ることすら拒んだ自分。

もし刀を振るえば、守れるかもしれない。

だが人を殺めてしまうかもしれない。


「……俺、〝あの時〟から……刀を使えませんでした」


陽翔は正直に告げる。


「人を殺すかもしれない力を……

持つのが、怖くて……」


琴音は驚いた表情を見せるが、

すぐに優しく微笑んだ。


「それは……貴方が、優しい証よ」


陽翔は赫月を、両手で受け取る。

赤い光が、まるで呼応するように脈打った。


「……もう逃げない」


声は震えていたが、視線は真っ直ぐだった。


「今日の痛みも、悔しさも……

全部背負って、俺は強くなります」


琴音は静かに頷く。


「ええ……。赫月は貴方を拒まない」


少し離れた場所で雫が腕を組み、

ぷいっと顔を背けながら呟く。


「……ほんと、無茶ばっかしないでよ。バカ兄……」


陽翔は小さく笑い、赫月の重みを胸に刻む。


それは、力の象徴であり、

同時に“守る覚悟”そのものだった。




────────




夜、家の中は静まり返っていた。

陽翔は布団の上で目を閉じたまま、

胸の奥の焦燥と悔しさを抑えられず、眠れずにいた。


そっと立ち上がり、赫月を手に取る。


赤く淡く光る刀身が、薄暗い部屋でゆらりと揺れ、

まるで息をしているかのようだった。

掌に伝わる微かな振動に、

胸の奥の熱がじんわりと広がる。


「……よし……」


陽翔は庭に出てゆっくりと刀を振り上げる。

最初はぎこちなく、腕の動きも鈍い。

幼い頃、父に刀を教えて貰っていた日々が蘇る。



一振り一振りに意識を集中させ、赫月の重み、

微かな振動、刃先に込められた力を

手首から腕、肩に伝わる感覚まで丁寧に確かめる。


刀を振るたびに、赤い光が刃身からふわりと溢れ、

空気を切るたびにゆらりと軌跡を描く。


ただその光の軌跡に自分の動きを重ね、

赫月と自分の呼吸を合わせていく。


「……これが……赫月の感触……」


幼い自分が父の赫月を見たときの

畏怖を思い出しながら、恐怖心を力に変えていく。

過去の自分の弱さ、逃げていた時間も、

すべて今の練習の糧にする。


何度も何度も素振りを繰り返すうちに、

赤い光の軌跡が手元の空間に幾重にも残る。

刀と自分がひとつになったような感覚──

それは初めて味わう、心地よい手応えだった。


「…………よし!」


陽翔は深く息を吸い、赫月を握る手を固くする。



「赤月流、居合────」


刀を鞘に戻し、足を広げ重心を下げる。

そして鞘の中で魔力を溜める。



「────千切(チギリ)!!」



空気を切る音とともに、腕や肩に残る微かな衝撃が、力を振るう感覚を実感させる。

振り抜かれた一振りは、

子供の頃とは比べ物にならないほどの

威力と速度を誇っていた。


「……体は覚えるてるもんだな……」


かつて父に唯一、教えてもらった技。

過去の練習の日々を思い返し空を見上げる。


「……絶対に強くなる……!守るために……!」


夜の静寂の中、赤く揺れる赫月の光が、

陽翔の決意を静かに照らしていた。






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