第2話 暴黒の獅子 ②
「赤月陽翔……です」
「へぇ、あの赤月……」
視線は静かだが、どこか重みがある。赤月家の名を知っているらしい。
「どうやら、ウチのオーナーがお世話になったみたいだね。重ねて礼を言わせてくれ。ありがとう」
近衛の口調は淡々としているが、確かに感謝の意が込められていた。
「いえ、むしろこちらこそ、デザートまで頂いてありがとうございます」
少し照れながら返す。
だが、仮にもここはあまり良くない噂のあるクランだ。
長居はしたくない。
「じゃあ俺はそろそろ、この辺で……」
立ち上がろうとしたその時、月島が手を挙げた。
「待ってください! 待ってください! 陽翔さん、よかったらウチのクランに入りませんか!?」
「いやいや、そもそも俺、人に向けて魔法が打てないんですよ。クランに入るなんて無理です」
内心、「ニート」と言うと面倒になるので、そこは伏せておく。
それでも月島は、目をキラキラ輝かせて笑う。
「陽翔さんなら大丈夫です! 魔法を使わなくても充分強いじゃないですか!」
近衛が首をかしげる。
「人に向けて打てないってのは……?」
「ちょっと色々ありまして」
話したくないことは軽く濁す。
「……そうか」
近衛は何も聞かず、すぐに引いた。察してくれたのかもしれない。
だが月島は諦めない。
「でも、陽翔さん、体術すごーく強いんですよ! ぜったいウチの戦力になってくれます!!」
彼女の瞳は希望に満ち、信じきった光を放っていた。
近衛が俺に視線を向ける。
「なら、ちょっと手合わせしてみるか」
「えっ……」
慌てて声が出る。
「いや、俺なんて使い物になりませんって! 魔法も打てませんし、ニートだし────あっ」
思わず勢いに任せて口に出してしまった。
それなら問題ない、と笑う近衛と月島。
近衛は立ち上がり、軽く俺の腕を掴む。
「いいから来い」
抵抗は無駄だと悟り、俺は彼の後をついて行く。
「トレーニングルームがあるから、そこでやろう。そこは団員しか入れない。仮パスを作るから、ここにサインくれ」
差し出された紙に、慌てつつも従ってサインを書く。
近衛は確認して頷く。
「よし、いいぞ。はいれ」
「えっ、そんな早く仮パスってできるんですか!?」
驚く俺に、近衛は軽く笑みを浮かべる。
「いいから、いいから」
そう言われ、俺たちはトレーニングルームへと入っていった。
中に踏み込むと、これから始まる手合わせに、胸の奥がざわつき、逃げだしたくてたまらない気持ちでいっぱいだった。




