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東京魔法戦線 〜人に魔法を撃てない魔術師の成長録〜  作者: いぬぬわん
第2章

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第44話 照れと困惑


夕方の柔らかな光が部屋に差し込んでいた。


「思ったよりも寝すぎたな……」


陽翔はベッドで軽く体を起こし、

ゆっくり目を閉じたまま周囲を見回す。


姫華、烈、千景。

3人の寝顔は静かで、呼吸だけが確認できる。


「……まだ……起きてないか……」


思わず小さく息をつく。


「…ん?」


目を閉じていた千景の肩が、

かすかに揺れた気がした。

風か光か、はたまた自分の錯覚か。

でも、その違和感は確かにそこにあった。


陽翔の視線は自然と、千景の方へ向かう。


「……千景…さん?」


まぶたがゆっくり開き、

まだ状況を理解できずに戸惑う千景の顔が見えた。


「……ん……?」


その瞬間、陽翔の心臓が跳ねる。


「…千景さん!」


不意の反応に陽翔は思わず駆け寄り、抱きしめる。


「陽…翔?…え………?」


まだ頭がはっきりしていない千景は、

状況を理解できず、目を大きく見開く。


徐々に、自分が抱きしめられていることに

気づき、頬が赤く染まった。


「ちょ…ちょっと…!」


照れと困惑で声が震える。

千景は両手で陽翔の腕を軽く押すが、

力は弱く、抱きしめはそっと続く。


陽翔は思わず涙を浮かべる。


「…良かった…本当に…生きてる…!!」


千景はぱちぱちと瞬きをしながら、

自分の腕と体に触れた。


「……私……死んだ…はず……じゃ……?」


自分で口にした言葉に、さらに困惑の色が濃くなる。


陽翔は泣き笑いのような顔で首を振った。


「わからないです……俺も……

でも、こうして生きてる……!」


千景は言葉を失い、視線を彷徨わせる。

ゆっくりと周囲を見渡し、

眠る烈と姫華にも目を留めた。


「……みんなも……?」


陽翔は涙を拭いながら小さく頷いた。


「はい……!」


千景は息を呑み、しばらくその場に固まる。

胸の奥にこみ上げるものを噛みしめるように。


「……そっか……」


かすれた声が漏れた。


その瞬間、2人の声が聞こえたのか扉が開き、

澪、月島、雨夜、近衛が部屋に入ってきた。


陽翔はまだ千景を抱きしめたままの姿勢で、

二人の間に静かな時間が流れる。


澪は軽く息をつき、微笑みながら首を傾げた。


「…あらあら」


月島は目を見開き、驚きの声を漏らす。


「え、2人は……いつの間に……!?」


雨夜は少し肩をすくめ、申し訳なさそうに言った。


「ごめん、邪魔したね」


近衛は静かに笑みを浮かべ、

視線だけで場を制するように言った。


「出直そう」


千景はようやく自分が抱きしめられている状況を

団員に見られ、顔がさらに赤くなる。


「ちょ…これは違います!

あんたもいい加減離れなさいっ!」


陽翔は千景から手を放し、照れたように頭をかく。


「…あ、すいません…つい」


千景は両手で陽翔の腕を軽く叩き、

顔を赤らめながら小さくため息をつく。


「…もう…!」


月島が興奮気味に前に出てきて、

眉をぴくぴくさせながら訊ねる。


「んでんで…いつから?」


陽翔と千景は同時に目を見合わせ、

思わず声をあげた。


「は?」


月島は両手を広げ、ぐっと身を乗り出す。


「だーかーらー!いつから2人は付き合ってるの?」


二人はさらに顔を真っ赤にして叫ぶ。


「はぁぁぁ!?」


陽翔は両手をばたつかせながら、

どう説明すればいいかわからず言い訳を重ねる。


「なんでそんな事になってるんですか!?」


澪は壁際でくすりと笑い、

からかうような声を投げた。


「でもアナタ達、いま抱き合ってたじゃない」


陽翔は顔を手で覆い、言葉がしどろもどろになる。


「いや…今のはその、なんと言いますか…」


その様子を見た近衛、雨夜、澪、月島が

一斉に笑い出す。


部屋に明るい笑い声が響き、

陽翔は何故、皆が笑っているのかわからない。


澪は肩をすくめ、微笑みながら言った。


「冗談よ、冗談っ」


月島は陽翔の目を覗き込み、にっこり笑う。


「わかってるよ、

千景の目が覚めて嬉しかったんだよね!」


雨夜は軽く陽翔の肩を叩き、柔らかく笑った。


「ごめんね、陽翔くん、つい……ね」


近衛は静かに頷きながら、

でも口元には笑みを残して言った。


「ウチは恋愛禁止じゃないから安心しろ」


陽翔と千景は揃って思わず叫ぶ。


「まだ言うか!!」


部屋には笑い声と微かな温かさが満ち、

緊張と照れが混ざった空気の中で、

ようやく一息つける瞬間が訪れた。



月島が突然顔を輝かせて言った。


「あ、そうだ! 私、りんごを剥いてくる!」


陽翔は呆れ混じりに眉をひそめる。


「え…また?」


慌ただしい足音を残し、

月島は部屋を駆け出していった。


澪は千景に視線を向け、穏やかに尋ねた。


「千景、体調はどう?」


千景は少し俯きながら答える。


「体は重いけど…痛みとかはないわ」


澪は頷き、優しく微笑む。


「きっと、数日寝たきりだったから、

体が固まってるのね。暫くすれば元に戻ると思うわ」


千景は小さく息を吐き、

少し安心した表情を浮かべた。


「そう…ありがとう」


近衛が少しだけ、真面目に言う。


「また無茶したようだな」


千景は視線を落とし、弱々しく頭を下げる。


「…すいません」


近衛は穏やかに言葉を返す。


「いや…責めるつもりはない。

だが…命は大切にしてくれ」


雨夜も静かに頷き、千景に視線を向ける。


「そうだよ、心配したんだから」


申し訳なさそうに2人に頭を下げる。

千景の瞳に不安が垣間見える。


「あの…私…なんで生きてるんですか…?」


雨夜は少し言葉を詰まらせる。


「…それは…」


近衛が間を置いて、静かに答えた。


「それに関しては、全員が起きた後、

きっちり説明する」


千景は小さく頷く。


「わかり……ました」


────────


その後、皆で談笑。


それぞれの事情を気にしながらも、

少しずつ日常の温度に戻ろうとしていた。


やがて月島も、近衛も、雨夜も、

それぞれ部屋を出ていき、

陽翔と千景は二人きりになった。


千景は少し身を正し、

真剣な表情で陽翔に視線を向ける。


「ちょっと…いい?」


陽翔も力強く頷く。


「俺も…話したい事があるんです」


千景は小さく息をつき、覚悟を決めるように頷く。


「……そう」


陽翔は視線を落とし、言葉を選ぶように続けた。


「ただ、ちょっと上手く言葉に纏めれないんで……

後でもいいですか?」


千景は少し微笑み、穏やかに答えた。


「それなら私も同じ時でいいわ。

そうね…夜話しましょう」


「わかりました」


微かな沈黙の後、千景は軽く目を閉じる。


「少し…寝るわ」


「おやすみなさい」


陽翔は小さく微笑み、視線を外し、自分も横になる。


少しすると千景の静かな寝息が聞こえてきた。


「暇…だな。シャワーでも浴びるか」


陽翔は立ち上がり、

部屋を出てビル内のシャワー室へ向かう。


温かいシャワーの水が肩を伝い、

体中の疲れを洗い流していく。


陽翔は指先で髪を梳きながら、

頭の中を整理する。


千景に、あの時選ばせてしまったことへの後悔。

生きていてくれたことへの安堵と、

謝罪の気持ちが入り混じり、頭の中で絡み合う。


「俺…どうやって、

ちゃんと伝えればいいんだろう…」


言葉がまだ形にならない。


でも、夜になったら、必ず伝えよう。


シャワーの水音に混じって、

心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。

温かい水に濡れた体と、重くも決意に満ちた心。


陽翔は深呼吸をひとつして、ゆっくりと目を閉じた。


「……あー全然まとまんねぇ」


シャワーを終えて服に着替え、窓の外を見やると、

日差しはすでに傾き、

ビルの窓に赤みを帯びた光が差し込んでいた。


「もうこんな時間か……」


少しの間、窓際に立ち、

夕焼けの色が染める街並みを見つめる。


風がカーテンを揺らし、

部屋の空気がひんやりとして、

昨日までの喧騒とは違う静けさに包まれる。



「夜になったら、ちゃんと話さないと…」


感謝も、謝罪も、後悔も、決意も全部。


それを伝えるために、

今はこの静かな時間を胸に刻む。


夕日の光が部屋の隅まで届き、影が長く伸びる。


陽翔は一度だけ肩を伸ばし、深く息を吐いた。

夕暮れの空気に触れながら、心を落ち着け、

夜に訪れる千景との時間に備えるのだった。




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