表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人に向けて魔法が撃てない俺はニートになろうとしたら底辺クランに入団させられました  作者: いぬぬわん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/48

第22話 同級生

ラウンジの空気が、微妙に固まっていた。


赤い長髪の少女は何事もなかったかのように

背筋を伸ばし、月島の前に立っている。


「突然失礼します」

不知火しらぬい家の姫華ひめかと申します」


声は落ち着いていて、礼儀正しい。

昔と同じ、完璧な“名家の長女”の顔。


(……変わってねぇな)


いや、正確には。


(“俺の前では”変わってなかっただけか)


「今日は、暴黒の獅子の団長さんに用があって来ました」


姫華はそう言って、軽く一礼する。


「……団長は今、外出中だよ」

月島が柔らかく答える。


「そうですか」

「では、出直します」


姫華はそう告げ、軽く一礼する。

その動きだけで、何も無駄がないことが分かる。

無駄に食い下がらないところも、昔のままだ。


────なのに。


「……」


その視線だけは、はっきりと俺を捉えていた。

逃げ場のない感覚。

胸の奥が、じわりと重くなる。


「知り合いか?」

烈が小声で聞いてくる。


「……同級生、でした」


それだけ答えるのが精一杯だった。


姫華は、俺から目を離さないまま

ふっと口角を上げる。


「久しぶりね」

「随分……雰囲気、変わったじゃない」


その声と視線に、嫌な記憶がざわりと蘇る。

────


木刀同士がぶつかる音。


何度打ち合っても、食らいついてくる赤い影。


『…………俺の勝ちだ……!』

『……そんな……私が負けた…………?』


負けたことがなかった彼女の目に、

初めて浮かんだ“悔しさ”。


そして勝ったはずの俺に向けられた、執着。


『もっと強くなって』

『逃げないで』


────


「……陽翔?」


呼ばれて、はっと現実に戻る。


姫華が、少し首を傾げていた。


「聞いてる?」

「……クランに入れたのね」


「……ああ」


短く答える。


それ以上、会話を続けたくなかった。


「ふーん」


姫華は一歩、近づいてくる。

無意識に、俺は半歩下がった。


その動きを、彼女は見逃さない。


「……まだ、避けるのね」


低い声。

昔、試合前によく聞いたトーン。


「別に」


「ふふ」


姫華は小さく笑った。


「変わったと思ったのは気のせいかしら」


胸の奥を、指で押されたみたいに息が詰まる。


「魔法」

「まだ、撃てないんでしょ?」


その一言で、空気が冷えた。

陽翔が言葉を失った、その瞬間。


「ちょっと、あんた」


低く、鋭い声。

千景が一歩前に出る。

その背中の気迫だけで、ラウンジの空気が締まる。


「それ、今言う必要ある?」

「随分と無神経なお嬢様ね?」


腕を組み、はっきりと姫華を睨む。


「ここが何処かわかってる?仲間を侮辱するなら……」

「お嬢様であれ、容赦しないわよ」


ラウンジに、ピリッとした緊張が走る。


姫華は一瞬だけ目を細め、

けれど、すぐに肩をすくめた。


「事実を言っただけですが」


「……事実でも」

千景が一歩、踏み込む。


「言い方ってものがあるでしょうが」


その時。


「大丈夫です」


陽翔の声だった。


自分でも驚くほど、落ち着いていた。


「……陽翔?」


千景が振り返る。


「気にしてません」

「それ、分かっててここにいますから」


姫華を見る。

真正面から。


「魔法が撃てないのは事実」

「でも、‘’強さ‘’は人それぞれですから」


一瞬の沈黙。


姫華の口元が、わずかに歪んだ。


「……へぇ」


興味を持ったような、昔と同じ目。


千景は、陽翔を一度だけ横目で見る。


(……ふん)


何も言わず、一歩下がった。


守る必要はない。

もう、自分で立っている。


「……ふふ」

姫華が小さく笑う。


「やっぱり……変わったわね」

「前は、もっと分かりやすく逃げてた」


「逃げてたんじゃねぇ、避けてたんだ」


短く、はっきり。


その言葉に、

千景の口元がほんの一瞬だけ緩んだ。


「……そう」


姫華はくるりと踵を返し、扉に向かう。


「用件は、改めて話すわ」

「団長がいる時に」


ドアノブに手をかけたところで、振り返る。


「それと…………」


一瞬だけ、昔の“ライバルの目”になる。


「今度は」

「逃げないでね」


ドアが閉まる。


コン、と静かな音。


しばらく、誰も何も言わなかった。


「……」


俺は、ゆっくり息を吐く。


(来やがった……)


過去だと思っていたものが、

まだ、現在進行形だったと突きつけられた。


暴黒の獅子に、

不知火姫華が来た。


それが、何を意味するのか。


(……めんどくせぇ)


心の底から、そう思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ