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人に向けて魔法が撃てない俺はニートになろうとしたら底辺クランに入団させられました  作者: いぬぬわん


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第17話 背中

暴黒の獅子・本部ビル。


朝のフロアは、いつもより少し静かだった。

端末の起動音や書類を捲る音だけが、規則正しく響いている。


陽翔は、壁際に用意された自分の席に腰を下ろし、何気なく室内を見渡した。


すぐに、違和感に気づく。


いつもなら、もう席についているはずの二人の姿がない。


胸の奥が、わずかにざわついた。


「……烈さん」


思わず零れた声に、隣で椅子に寄りかかっていた烈が顔を向ける。


「ん?」


「雨夜さんと、澪さん……まだ来てないんですか?」


烈は一瞬だけ天井を見るように黙り込み、すぐに肩をすくめた。


「そういや、まだ来てねぇな」


そのやり取りに、周囲の視線がわずかに集まりかける。


その空気を断ち切るように。


「ちょっといいか」


低く通る声が、室内に響いた。


団長だった。


烈、陽翔、月島に視線を向け、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「昨夜、無差別斬殺事件の犯人は確保された」


その一言で、執務フロアの空気が、目に見えないほど張り詰める。


「対応したのは、雨夜と澪だ」


陽翔は、無意識に背筋を伸ばしていた。


「消耗が大きく、二人には念のため休養を取ってもらっている」


その瞬間、陽翔の手に力が入る。


「……二人共、大丈夫なんですか!?」


思わず声が強くなった。


団長は陽翔を見て、短く、しかし確かな調子で頷く。


「命に別状はない。無事だ」


その言葉に、陽翔は胸の奥に溜まっていた息を、静かに吐き出した。


(よかった……)


だが、安堵は長く続かない。


「なお、確保した犯人、狂歌についてだが」


団長の声音が、わずかに低くなる。


「例の男と同じフードを被っていたという報告を受けた……偶然とは考えにくい」


陽翔の脳裏に、あの“フードの男”の姿がよぎる。


あの男と────繋がっているかもしれない。


「なら、とっととソイツに吐かせねぇとな!」


烈が、拳を軽く握りながら吐き捨てる。


団長はそれを制するように、静かに首を振った。


「焦るな」


そして、断言する。


「明日、俺が直接面談する」

「情報が取れ次第、共有する」


その言葉で、この場の話は終わった。


だが陽翔の胸には、別の感情が残り続けていた。


(雨夜さん……澪さん……)


二人の背中を、昨日は見ていない。

それでも、その“消耗”がどれほどのものだったか。

いつも雨夜に軽くあしらわれているのに、

その雨夜が休養するほど消耗している。



陽翔は、静かに拳を握りしめた。


(……早く追いつかないと)


守られる側でいる時間は、もう終わらせたい。


────────


団長がフロアを後にすると、張りつめていた空気が少しだけ緩んだ。


烈は大きく伸びをし、椅子にもたれかかる。


「しかしまぁ……

雨夜と澪が居ないって変な感じだよな」


陽翔は曖昧に笑う。


「ですね……」


少し間が空く。


陽翔は机の上に視線を落としたまま、ぽつりと呟いた。


「……やっぱり、すごいですよね」

「雨夜さんも、澪さんも」


烈は、その言葉を聞いて一瞬だけ動きを止めた。


「ん?」


「俺、皆に追いつけんのかなって………」


自分でも驚くほど、声が小さかった。


烈は椅子から立ち上がり、数歩歩いて陽翔の前に来る。


そして、わざと軽い調子で言った。


「まっ、1番弱いのは確かだな!」


陽翔は、否定できずに黙る。

その様子を見て、烈の表情が変わった。


笑いが消え、真っ直ぐな目になる。


「なぁ、陽翔」


低い声。


「お前さ」

「あの戦いの後から‘’強さ‘’を求めてるよな」


陽翔が顔を上げる。


「お前が思う強さってなんだ?」

「1人で魔人を倒せるようになる事か?」

「仲間を守れるだけの力があればいいってか?」


烈は自分の拳を見つめ、視線を戻す。


「俺が思う強いってのはな」


「仲間と一緒に立ち続ける事だ」


一歩、近づく。


「仲間が倒れた時に支え続ける事だ」


さらにもう1歩。


「仲間を信頼し頼ることができる事だ」


陽翔をまっすぐに見据える。

今まで見たことのないくらい真剣な顔で、

烈の目には揺るがぬ信念が宿っていた。


「仲間を頼れ信じろ」

「仲間が助けてって来たら、全力で守れ」


この言葉に陽翔の胸が熱くなる。


「追いつく、追いつかないじゃない

みんなで一緒に支え合っていくんだ」


「それが‘’暴黒うちの獅子‘’の強さだ!」


「それに、ここのやつはな」

「お前が守ろうとしても大人しく守らせちゃくれねぇよ」


「むしろ、お前を守ろうとするぜ?」


烈は歯を見せ、笑った。


「立つ時は一緒だ。置いてかねぇし」

「勝手に追い越すなよ?」


陽翔は思わず息を吐く。


「……はい」


心が軽くなった気がした。


烈は満足そうに頷く。


「よし」

「じゃあ今日も訓練だな」


陽翔は苦笑しながら立ち上がる。


「え、烈さんと……?」


ちょっと嫌そうな顔をする陽翔。


「甘えんな」

「強くなりてぇんだろ?いくぞ」


その背中を見つめる。

背中は、まだ遠い。

まだまだ皆に追いつくことは出来てない。

だが確かに前にある。確かに支えてくれる。


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