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人に向けて魔法が撃てない俺はニートになろうとしたら底辺クランに入団させられました  作者: いぬぬわん


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第37話 黒雷

雷鳴が、轟いた。


空気を震わせる、低く重い音。

それは自然現象ではない。


黒い雷。


陽翔の身体から噴き上がる雷は、

本来の雷魔法とは明らかに違っていた。


「……魔眼の影響か」


七瀬は、即座に理解する。


「魔力の質が、変わっとる」


色が違うだけではない。

密度が違う。

量が、異常だ。

陽翔の魔力は、〝ギアが1段あがっている〟


「……暴走状態やな」


七瀬は、ため息混じりに呟く。


「せやけど」


掌を掲げる。


「力任せなら、話は別や」


七瀬の魔力が、一気に跳ね上がる。


炎。


圧縮された、鋭い火柱。

姫華の魔法を基にした高出力の攻撃。


「消し飛びや」


放たれた瞬間、

周囲の空気が焼け、熱が爆ぜる。


だが。


火柱が、陽翔に届く前に。


消えた。


爆発もない。

相殺もない。


ただ、

“無かったこと”にされた。


「……あ?」


七瀬の口から、間の抜けた声が漏れる。


次の瞬間。


バチィィィンッ!!!


黒い雷が、正面から叩きつけられた。


「がっ────!?」


衝撃。


身体が吹き飛び、

壁に叩きつけられる。


「……っ、クソ……!」


七瀬は、転がりながら立ち直る。


焦げた服。

痺れる腕。


何発もくらえる物ではないと、体が告げている。


「なんや……今の」


視線を、陽翔へ。

立ってはいるが……意識は、ない。


それでも、

黒雷は止まらない。


「……もしかして俺の魔法」


七瀬は、歯を食いしばる。


「消された?」


理解が、遅れて追いつく。


相殺じゃない。

威力で押し負けたわけでもない。


ただ〝消された〟感覚。


「……なるほどな」


七瀬は、乾いた笑みを浮かべる。


「君の魔眼の能力か……」


「なんかしらの制限はあるんやろうが……」


「魔法そのものを、消す……反則級やな」


次の瞬間。


七瀬が放った二発目の

圧縮した爆破魔法。


また、消える。


直後。


黒雷。


ギリギリ回避が間に合わない。


「……チッ!」


肩をかすめ、

地面を抉る。


爆音。

衝撃波。


七瀬は、息を吐いた。


「……あかん」


笑みは、もうない。


「これは……」


一歩、距離を取る。


「火力勝負とか、そんな話ちゃう……

その土台にすら立たれへん」


暴走しているからこそ、

陽翔は魔力を惜しまない。


消す。

放つ。

消す。

放つ。


理屈は単純。

だが、付き合える人間はいない。


七瀬は、低く呟く。


「こりゃ、無理に触れにいくより……

殺して奪うのが1番確実やな」


黒雷が、再び天を裂く。


陽翔は、何も見ていない。

何も考えていない。


それでも。


戦場は、完全に陽翔のペースなのは

間違いないが……

七瀬も策がない訳では無い。


「……ふぅ」


七瀬は、息を整えつつ、思考を研ぎ澄ます。


これから行うのは〝切り替え〟

魔法を使い、すぐ別の魔法に切り替えて

また使う。


常人であれば、脳や魔力回路に負荷がかかり

〝荒業〟と呼ばれる類のものではあるが、


七瀬の頭脳と天性の魔力操作の才能が

この〝切り替え〟をただの

〝手札〟として使用するまでに至っていた。


「ほな、いくで」


まず土魔法。


地面が隆起し、壁になる。

防御目的ではない。

“視界を切る”ため。


次の瞬間、切り替え。


鉄魔法。


隆起した土の内側から、細い鉄線が走る。

千景の魔法。

数は少ない。

あくまで“目印”。


ここで、また切り替え。


爆破魔法。


烈の魔法。

鉄線に沿って、連鎖するように小規模爆破。


魔眼が反応する。


爆破が、消える。

鉄線も、消える。

土壁ごと、削り取られる。


だが……


「それでええ」


七瀬は、もう次に行っている。


追尾魔法。


爆発の死角から、細く、速いナイフを投げる。


威力は低い。

“消す価値があるかどうか”の境界線。


一瞬、遅れる。


魔眼が、追尾ナイフを消す。


その直後。


火焔魔法。


姫華の炎。

今度は一点集中。

魔眼が消した“直後の位置”へ叩き込む。


轟音。


ここで陽翔の身体が、わずかに後ろへ滑った。


当たってはいないが、消されてもいない。

黒雷で相殺されたのだろう。

だが、その爆風で確かに押し返した。


「……こんだけやってまだ届かんのかい」


七瀬は、短く息を吐く。


火力は単体では負けている。

だが、今の陽翔に戦術はない。


黒雷が、再び走る。


陽翔は、何も見ていない。

だが、身体は動く。


今のところ陽翔へのダメージは皆無。

だが七瀬は楽しそうに、口角を上げた。


「全く……どないしよか」


七瀬は魔法を繋げて、何が通じて

何がダメなのか模索する。


鉄魔法


床から素早く走る刃。

消える。

即座に、黒雷。


間髪入れず、


火焔魔法。


鉄が消えた直後の空間へ。

火力の高い魔法。

だが、跡形もなく掻き消された。


「……こりゃ難しい話やで」


七瀬は、足元に魔力を流す。


地面が、隆起する。


陽翔の背後。

逃げ場のない位置。


壁というより、

圧殺するための“塊”。


「……この物量はどうや」


消えるはずだった。

七瀬は、そう思っていた。



魔眼が反応し、黒雷が走る。


それが、今までの流れだった。


だが。


土の壁は、

落ちてくる。


消えない。


「……?」


七瀬の眉が、わずかに動く。


壁は、迫る。

陽翔の頭上まで、あと数メートル。


まだ、消えない。


「……は?」


七瀬の思考が、一瞬止まる。


次の瞬間。


陽翔の身体が、

ほんの僅かに、傾いた。


視線が、

上を向く。


土の塊は潰れる寸前で“消された〟


爆発はない。

粉砕もない。


間一髪。


七瀬は、息を呑んだ。


「……遅い」


小さく、呟く。


「遅すぎる」


七瀬の脳が、

一気に回り始める。


「……最初から反応しとらん」


思考を研ぎ澄ます。

今までの魔法は陽翔の基本的に

〝正面〟から打って即消されていた。


だが今の背後からの魔法は陽翔が上を向き

〝視認〟後に消された。


つまり……。


「────見えた瞬間に、消しとる」


七瀬は、ゆっくりと笑った。


「なるほどな……」


確信。


「見えてるもんしか、消されへん」


もう一度。


今度は、爆発。


烈の魔法。

だが、起点をずらす。


視界の端。

死角。


——爆ぜる。


黒雷が走る。

遅い。


爆風が、

陽翔の足元を、確かに揺らした。


「ビンゴや」


七瀬は、肩をすくめた。


「視界に入った魔法は即消去」


「入らんもんは——」


黒雷が、荒れ狂う。


だが、

もう七瀬の表情に焦りはない。


「ワンテンポ遅れる」


陽翔は、こちらを見ていない。

意識は、ない。


それでも、

魔眼は“反応”している。


自動迎撃。


だが自動だからこそ、

視覚外に意識を置けない。


「……暴走状態やからこそやな」


七瀬は、低く呟く。


「冷静やったら、もっと厄介や」


魔法を、繋ぐ。


鉄。

火。

土。

爆。


意図せず生まれる“ズレ”。


だがそのズレは、

もう偶然じゃない。


七瀬は、

陽翔の“見えない場所”を、

自然に戦場へ組み込み始めていた。



────────────



視認外から攻撃する。

理屈は分かった。


だが……。


「……あかん」


七瀬は、小さく舌打ちした。


「切り替えやと、間に合わん」


一瞬の判断。

一瞬の遅れ。


その隙を、黒雷が喰いに来る。


七瀬は、ふぅ……と一つ、息を吐いた。


肩の力を抜く。


「こりゃ……」


視線を上げ、笑う。


「〝奥の手〟見せるしかあらへんなぁ」


黒雷が走る中、

七瀬の声だけが、やけに静かだった。


「僕はな」


歩きながら、語る。


「奥の手は、使わん方がええ思う派やねん」


炎が、右手に灯る。


だが、まだ撃たない。


「使った瞬間、それはもう“奥”やのーて」


左手が、ゆっくりと上がる。


「ただの“手札”になってまう」


爆破の魔力が、左手に集まる。


「敵さんにバレる思たら」


炎が揺れる。

爆圧が、空間を軋ませる。


「ゾッとして、よー使えへん」


陽翔の黒雷が、間髪入れずに襲いかかる。


七瀬は、足を止めた。


「……でもな」


笑う。


「流石に、使わしてもらうで」


右手に、炎。

左手に、爆破。


同時。


空間が、二重に歪んだ。


「同時に使えへんって、言うたやん」


七瀬は、はっきりと言い切った。


「堪忍な」


一瞬の間。


「〝アレ〟────嘘や」


炎が、走る。

爆発が、重なる。


切り替えじゃない。

連携でもない。


同時展開。


魔眼が、反応する。

だが——


見る。

消す。

間に合わない。


黒雷が走る前に、

爆圧が空間を押し潰し、

炎が逃げ道を焼き塞ぐ。


七瀬は、確信する。


「……これで」


「やっと、同じ土俵やな」


意識のない陽翔が、

初めて、まともに後ずさった。


魔眼は暴走している。

だが、

初めて“処理が追いつかない”状況が生まれる。


七瀬は、もう笑わなかった。


「さぁ」


炎と爆圧を纏いながら。

低く、淡々と。


「ここからが、本番や」


——戦いは、ようやく。


“対等な形”に、なり始めていた。






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