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東京魔法戦線 〜人に魔法を撃てない魔術師の成長録〜  作者: いぬぬわん
第1章

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第33話 壊れていく心

陽翔は、考えるより先に駆け出していた。


「烈さん!!」


膝が床に落ちた音が、やけに大きく響く。


烈の体を支えた瞬間、

手のひらに、ぬるりとした感触が広がった。


「……っ」


赤い。


ありえない量の血が、

指の隙間から、止めどなく溢れてくる。


「くそ……っ」


背中。

刺し貫かれた場所から、

血が、呼吸に合わせて溢れ出している。


「止まれ……!」


陽翔は、必死に押さえた。


両手で。

体重をかけて。


「止まれよ……!!」


声が、震える。


「なんで……っ」


押さえても、押さえても、

血は止まらない。


「止まれって言ってんだろ……!!」


手が、真っ赤に染まる。


指の間から零れる血が、

床に落ちて、広がっていく。


(……多すぎる)


頭の奥が、冷たくなる。


「烈さん……!!」


呼びかけても、返事はない。


烈の体が、わずかに揺れた。


「……陽……翔……」


かすれた声。


それだけで、

胸が、潰れそうになる。


「喋るな!!」


思わず、怒鳴っていた。


「今は……今はいいから……!」


何が正解かなんて、分からない。

ただ、止めたい。

止まってほしい。


「死ぬな……」


声が、裏返る。


「頼むから……死なないでくれ……!」


血は、止まらない。


陽翔の手は、

もう何をしているのかすら分からなくなっていた。


視界の端で、

千景が、こちらを見ている。


涙を流しながら、

必死に、首を振っている。


(……助けられない)


(俺のせいで……)


歯を噛みしめても、

震えは止まらない。


「くそ……っ」


何もできない。

止められない。


烈の血が、

陽翔の腕を伝って、床へ落ちていく。


その音が、

やけに、はっきりと聞こえた。


絶望は、

もう言葉じゃなかった。


手の中で、

確かに感じてしまった“現実”だった。



陽翔は、動けなかった。

両手は烈を支えようとするも、血で滑り、力が空回りする。

心臓が張り裂けそうで、息がつまる。


「……くそ……っ、くそっ……!」


叫びたい。

叫んで烈を助けたい。

だが、千景に手を伸ばすことは許されない。

その現実が、胸を押し潰す。


千景の瞳。


その中に、必死の拒絶と、涙が混ざる。

声にならない叫びが、陽翔の心を突き刺す。


「烈さん……お願い、死なないで……!」


血で赤く染まる背中を支え、必死に声を振り絞る。

それでも、状況は変わらない。

七瀬の冷たい笑みだけが、確実に迫ってくる。


「……くそ……っ……!」


拳を握りしめ、全身を震わせる。

全てを抱えきれず、世界そのものが重く、冷たく感じられた。

誰も、救えない。

誰も、助けられない。


七瀬は、そんな陽翔を見下ろし、淡々と口を開いた。


「……なんや、開眼せぇへんのかいな」


陽翔の胸が、強く締め付けられる。

目の前で倒れる烈、拘束された千景。

そして、七瀬の視線が自分に向いている。


「せやなぁ……次は、どないしようか……」


七瀬はゆっくりと姫華の方へ視線を移す。

その一歩一歩が、まるで時間を引き伸ばすかのように重く、恐ろしく感じられた。


「ヒメちゃん動かんとってな」


七瀬は、指を鳴らした。


金属音が、空気を裂く。


姫華の身体を、鉄の魔法が絡め取る。

腕、脚、胴──逃げ場を奪うように、ぴたりと固定される。


「ええ子や」


声は、相変わらず軽い。


七瀬の指がひと鳴らしされると

千景の口元だけが光に包まれた。


金属製の拘束は残ったまま、唇だけが動く。


「七瀬ぇぇぇぇぇ!!!!!

お前は……!……お前だけは絶対に殺す!!」


千景の怒りが七瀬にぶつけられられ陽翔の胸が

一瞬で締め付けられる。

駆け寄りたい衝動を抑えながら、思わず声を返す。


「千景さん……俺……!」


その瞬間、千景の目に涙が光る。

そして、かすれた声で、さらに続けた。


「ごめん……私のせいで……」


陽翔の手が、自然と震える。

胸の奥から怒りと絶望が押し寄せる。


七瀬は二人を見比べて、満足そうに頷いた。


「ほな、次の説明しとこか」


陽翔の背筋が、ひやりと冷える。


七瀬の掌に、鉄のナイフが浮かび上がった。

鋭いが、どこか“雑”な形状。


「これな、一発では死なん」


淡々とした口調。


「当たっても即死はせぇへん。

数発じゃ、まぁ死なんやろな」


陽翔の喉が、鳴る。


「せやけどな」


ナイフが、二人に狙いを定める。


「何十発も食らったら、さすがにまずい」


にやり、と七瀬が笑う。


「出血もするし、痛いし、動けん身体やと……まぁ、じわじわ来るわな」


姫華の顔が、強張る。

千景は、唇を噛みしめている。


「でや」


七瀬は陽翔を見る。


「今から、同時に投げる」


左右に分かれる軌道。

距離的に、陽翔が割って入れるのは一人だけ。


「助けた方は、今回は無傷や」


「助けへんかった方は……一本、もらう」


一拍。


「それを、何回も繰り返す。片方死ぬまで」


空気が、完全に止まる。


姫華が叫ぶ。


「千景を助けて!!」


ほぼ同時に、千景が声を振り絞る。


「姫華を……! 私は、大丈夫だから!」


七瀬は楽しそうに肩をすくめた。


「ええ子らやなぁ」


そして、陽翔を真っ直ぐ見据える。


「ほな、陽翔くん」


「今回は、どっちを選ぶ?」


逃げ場のない問い。

一度きりじゃない。

何度も突きつけられる選択。


魔眼は、まだ開かない。

けれど──心は、確実に壊されていく。




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