第10話 夜の街に潜む影
街の外れ。
雨夜と澪は、無言で通りを見渡していた。
────数刻前。
商店街の掲示板に貼られた小さな張り紙。
夜に現れ、無差別に人を襲う殺人鬼。
死亡者は既に数名に上る。
月島が張り紙を手に、深刻な表情で呟く。
「皆さん、協力してもらえますか?」
月島が隊員たちに呼びかける。
「「もちろんじゃないですか!」」
返事は即座で、熱意が伝わる。
団長は、街の明かりを見渡しながら静かに言った。
「今日は、雨夜と澪、お前たちに夜間の警備を任せていいか?」
「了解です」
二人は同時に頷いた。
「俺も出ます!」
陽翔が元気に手を挙げる。
雨夜は少し微笑みながら首を振る。
「君は今日はお留守番だよ。気持ちはわかるけど、修行でボロボロだからね。今日は僕と澪に任せて」
陽翔は目を丸くして、少し不満そうに唇を噛む。
それでも、納得せざるを得なかった。
────────
「…ふふっ」
「あら、どうしたの?」
不思議そうに雨夜を見る澪。
「いや、なんでもないよ」
雨夜は陽翔のやる気を思い出し、思わず笑みが溢れていた。
あの子もよく立ち直ったもんだ。
強い子だよ、本当に……。
雨夜は路地を進みながら、澪に視線を向ける。
「今のとこ異常はないね…」
澪が眉をひそめる。
「どうする?」
雨夜は軽く肩をすくめる。
「互いに別々の方向を担当しよう。もし何かあれば、連絡を」
澪は少し考え、やがて小さく頷く。
「じゃ私は北側の路地を回るわ」
「僕は南側を見て回るね」
雨夜は背筋を伸ばし、街の暗がりを確認する。
「異常があれば、すぐ知らせて」
「もちろん、あなたもね」
澪も同じように背筋を伸ばす。
「じゃあまた後でね」
「怪我しないようにねー」
暗い夜の街を、二手に分かれて進む影。
互いの姿は見えなくとも、信頼でつながっている。
風が路地を抜ける度、街の静寂をかき乱す。
まだ影は現れない。
だが二人の視線は常に、潜む危険を探し続けていた。
────────
人通りの少ない裏路地を、雨夜は慎重に歩いていた。
人気はほとんどなく、風だけが壁に反響する。
(……もう少し人のいる場所まで戻ろう)
そう思った瞬間、背後から声がした。
「あれれぇ、お兄さん、こんな所でなにしてるのぉ?」
フードを深く被った、中性的な声。男なのか女なのか判然としない。
雨夜は振り返り、冷静に問いかける。
「君こそ、こんな所で何を?」
だが、フードの人物は答えず、まるで聞こえていないかのように、一人で喋り続ける。
「だめだめだめだよぉ、夜にこんな暗い所にいちゃあ……」
「君こそ危ないよ。人が多い所まで送ろうか?」
雨夜は少し眉をひそめ、警戒する。
────その瞬間だった。
「────だから死んじゃうんだよぉ?」
フードの人物は笑みを浮かべ、体からドロドロとした、異様な魔力を滲ませた。
雨夜の背筋に冷たいものが走る。
「いいおもちゃになるといいなぁ」
フードに隠していた剣を、こちらに向けて抜く。
品定めするかのように、
フードの人物は雨夜を見据えた。
「あんまりはやく壊れないでねぇ?」
この街の闇の影が姿を現した瞬間だった。




