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第7話目覚め③
黒炎が、静かに揺らめいていた。
「……派手にやったな」
背後から、低く響く声。
黒炎の主は振り返らず、淡々と答える。
「燃やした。それだけだ」
一瞬の沈黙。
「お前、目撃者に逃げられたらしいな」
舌打ちが、闇に落ちる。
「………」
「次は……お前が燃えるか?」
黒炎の主は、ゆっくりと腕を下ろす。
フードの男の額には汗が滲む。
「……冗談だ、笑えよ」
外套の隙間から、手首の内側が覗いた。
そこに刻まれているのは
円と、歪んだ光条。
《黒い太陽の刻印》
「だが……」
黒炎が、再び燃え上がる。
闇が歪み、熱が夜を侵食する。
「次はないぞ」
「……わかっている」
黒炎の主は、鼻で笑った。
夜が、すべてを覆う。
路地に残ったのは、焦げた空気と
燃え続ける黒炎。
それは、災厄が目を覚ました合図だった。
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