15
次の日、セシルは1人でランチを取る為に人がいない所を探して歩いていた。
今日はポリーヌに見付かる前にと急いで歩いていたので、わざとではなく人にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
自然と自分の口から出た謝罪の言葉に、セシルは少し感動した。一応自分は謝罪の言葉を忘れた訳では無かったらしい。
ところが、ぶつかったその人物を見て、セシルは直ぐに後悔した。
確か名前はオレリーだったか。
いつも地味な色の服ばかり着ているので、以前のセシルはよくその服装をバカにして悪点稼ぎをしていた。
流行りの服を着られない可哀想な令嬢。眼鏡と三つ編みという髪型といい、実に地味な女生徒だった。
そのオレリーは今、セシルとぶつかったことで落としてしまった教科書やノートを拾い、おそらくランチが入っているのだろう紙袋の中身を確認してとても残念そうにしていた。
「あの、ごめんなさい?」
あまりにもオレリーが残念そうに紙袋を見ているのでセシルはもう一度謝った。
「ランチのクッキーが粉々になってしまったじゃない。まあ、仕方ないからもういいけど」
怒っているようではなくオレリーは淡々と言った。
紙袋の中身はどうやらクッキーだったらしい。そしてそれはおやつではなくランチだという。
「クッキーがランチなの!?あの、それならこれ食べて?」
セシルはクッキーがランチだったことに驚いて自分のランチをオレリーに差し出した。
今日もジラン子爵家の料理人お手製ソースのサンドイッチだったが、今日はいつもより量が多かった。
昨日、アンリにサンドイッチを食べられて、完食されたことに料理人が感動して量を増やされたのだ。
せっかく作って貰ったのに残してばかりだったことは申し訳なく思っていたが、だからといって今日の分が増やされるのは予想外だった。
食べきる自信が無かったセシルは、オレリーに押し付けるようにランチの袋を渡した。
実は毎日同じサンドイッチだったのでちょっと飽きていたのもあって、セシルにとっては丁度良かった。
セシルにサンドイッチには未練はなかった。
「貴女のランチが無くなるけどいいの?」
そう言いながらもオレリーはしっかりと受け取った。やはりクッキーだけではお腹が空くのだろう。
「私は、大丈夫だから」
セシルはオレリーに自分が悪口だらけのセシル・ジランだとばれる前に離れようとしたのだが、どうやらオレリーはセシルに気付いてしまったようだ。
「あら、貴女、ちゃんと校則を守る気になったのね」
オレリーの言葉は直ぐに理解が出来なかった。
少し考えて服装のことを言っているのだと気付く。
そういえば校則では学園での服装は華美なものは避けるように、となっていた。流行りの濃い色の服装は校則を守れていないことになるのだろう。
オレリーは流行りの服が着られない可哀想な令嬢なのではなく、校則を守って地味な服を着ていた真面目な生徒だったということだろうか。
自分の意思で地味な服装をしている生徒がいるとは思っていなかった視野の狭いセシルは、目から鱗が落ちた気分だった。
流行りの服を着ていない生徒達を散々バカにしてきたというのに。
学園の校則に基づけば明らかに悪いのはセシルだった。今までその事に気付いていなかったのだ。
「あの、怒っていない?」
セシルはつい訊いてしまった。
「こんな小さな事で怒る程私は暇人じゃないわ。怒るのってお腹が空くし。そんなことでお腹空かすなんてバカみたいじゃない?じゃあ私はもう行くわね。この本早く読んでしまいたいから。これ、ありがとう」
オレリーはそう言うと忙しそうに去って行った。
それでもお弁当のお礼もちゃんと言ってくれた。
オレリーに『暇人』と言われてセシルは思った。
悪点稼ぎをする者というのは『暇人』だから悪点稼ぎをする時間があるのでないのかと。
きっとオレリーのように自分の為に時間を使う人は悪点稼ぎをするような時間などないのだ。
セシルはオレリーに今日ぶつかったことを怒っていないか訊いた、というよりは今までのセシルの行いを怒っていないかと訊いたつもりだった。
オレリーの答えはどれを答えたのかは分からないけれど、オレリーの様子からセシルに対して悪感情はないように感じた。
(お腹が空く………か。なんだか分からないような、でも、分かるような気もするわ)
お腹が空くのかはちゃんとは分からなかったが、何かが空くような気がするのは分かるかもしれない、とセシルは思った。
セシルは今まで悪点稼ぎをしてきた人には嫌われていると思っていたが、オレリーのようにそうでもない人がいることを知った。




