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「お姉様!」
セシルがロゼッタと第2王子のことを考えていると、妹のリアが声を掛けてきた。
「リア?学園で声を掛けてくるなんて珍しいわね」
「お姉様の体調が良くなさそうだから心配したのよ。今日の私の授業はもう終わりなの。お姉様も選択授業には無理に出る必要はないのでしょう?お顔色も良くないみたいだし、一緒に帰りましょう?」
リアはセシルの腕に自身の腕を絡ませてきた。
(まるで仲良し姉妹みたい)
セシルはリアを複雑な気持ちで見た。
セシルが悪点稼ぎをしている時は自分は他人だと言いたげに近寄っても来なかったのに。
「でも、お母様が」
「お母様なら今日は出掛けているから大丈夫よ。昨日伯爵夫人にお茶会に呼ばれた、って喜んでいたもの」
昨日、セシルが早く帰ったことはアナイスが話を合わせてくれたので母親にはバレていなかった。なので何も言われなかったが、バレた時はお説教があるので面倒だ。
母親がいないのなら早く帰ってもいいだろうかとセシルの心が揺らぐ。
正直、体調は良いとは言い難いし、帰れるものなら帰りたい。
「リア?」
その時、聞こえてきた声にセシルは驚いてビクッと体を震わせた。
これではまるで怯えているみたいだ。
そして腕を掴まれているリアにはその異変に気付かれてしまっただろう。
「丁度良かった。どこに」
声を掛けてきたエミールは不自然に言葉を止めた。
エミールはとっくにどこかに行ったと思っていたが、まだ近くに居たらしい。
「エミール兄様?どうかされたの?」
エミールは、セシルとリアの方を見て驚いた顔をしている。
(婚約解消したい私と新たに婚約を望むリアが一緒にいるからではないわよね?)
セシルは不安そうな顔でエミールを見た。
エミールを諦める覚悟をしてもやはり辛いものは辛い。
「セシル………?その服は………?」
どうやらエミールの驚きの理由はセシルの服装にあったらしい。
セシルが昨日まで着ていた派手な色の服は姉のアナイスに奪われてしまったので、今日は久し振りに薄い緑色のワンピースを着て、化粧も控え目にしている。
そういえば今日は昨日に比べて絡まれることがなかった。
もしかして服装のお陰なのだろうか、とセシルは気付いた。
まさか、服装が違うだけで気付かれなかったということなのか。
「お姉様にはやっぱり淡い色の方が似合うわよね!お化粧も派手じゃない方がいいわ。ね、エミール兄様もそう思うでしょう?」
リアが言うと、エミールもやっといつもの調子を取り戻してきたらしい。いつものように穏やかな笑顔を向けてくる。
「そうだね。セシルは清楚な服の方が似合うと思う。でも、どうしていきなり?」
エミールは言いながらもセシルの方に手を伸ばそうとしてきた。
リアがエミールのその手を遠慮なく叩き落とした。
セシルがリアの行動に驚いていると、リアはエミールからセシルを遠ざけるようにセシルに抱き付いた。
「エミール兄様、触れるのは約束違反ですわ」
エミールは困ったようにリアの方を見た。
「リア、少し厳しすぎると思うんだが」
「約束は約束ですわ。ちゃんと守って下さいませ。でないとお父様に言いつけますわ」
リアの言う約束が何か分からずセシルは首を傾げた。
「約束は、守る。だから、セシルと2人で話をさせてくれないか」
エミールの言葉にセシルはドキッとした。
まさか、婚約解消の話ではないのだろうか。
「お姉様は体調が良くないので、今日はもう帰ります。だから、また後日にして下さいませ」
リアの言葉にエミールが心配そうな顔になる。
「体調が?セシル、大丈夫なのか?それなら馬車まで送ろう」
そう言って差し出されたエミールの手はリアによってまた叩き落とされた。
「約束ですので」
リアのお許しが出なかったので、エミールは馬車まで見送るだけにした。
セシルの横はリアによってがっちりガードされていた。
(リアがエミール様を好きなら私とエミール様の接触を邪魔している、ということなのだと思うけど、それにしても約束って何かしら?それに、リアのエミール様に対する対応が厳し過ぎる気がするわ)
「リア、約束って何のことなの?」
セシルがリアに聞くと、リアは明らかに視線をそらした。
「お父様が決めた簡単な婚約者としての約束事よ。お父様ってちょっと面倒臭い人だから」
セシルは婚約者としての約束事があるなんてことは知らなかった。
父親が決めたというが。
(お父様が?どうして?)
セシルは父親が苦手だ。
家族のことを大切にしているように見えなくもないが、物さえ与えていれば大人しくなって良いと思っているだけではないかと疑っている。
出来れば父親とは関わりたくない。
本当ならエミールと婚約解消する可能性があることも父親に相談するべきだと思っているのだが、出来たら父親とは話したくない気持ちがあるので言い出せないでいる。
「どんな約束事なの?」
どうして婚約者のセシルが知らなくてリアが知っているのかも気になる。
「お姉様はお気になさらないで大丈夫よ。気になるならお父様に聞いてみて」
リアは答える気がないらしい。
父親に直接聞けと言われても、セシルには父親とどのタイミングで話したら良いのかも分からない。
何か欲しい物がある時も父親に言わなければと思うのに、今まで言えた試しがない。
いつもは姉かリアがおねだりしているのに便乗して欲しい物などは手に入れていたので、父親に話し掛けなくても何とかなってきたのだ。
家族なのに変な気もするが、貴族の親子関係などこんなものだろう。
ちなみに母親も得意ではないので、いつもは1人でも喋っている母親の話は聞き流している。




