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姉のアナイスはその日セシルが着ていた服までわざわざ着替えさせて奪っていった。
これでセシルの持つ服に濃い色の物は全て無くなった。
その後は出掛けていて帰って来た母親と一緒に夕食までの間にお茶をすることになった。
母親とアナイスはよく喋る。基本的に人の話はあまり聞かない。自分の言いたいことだけ言う人達だ。
このお茶の時間で分かったことは、男爵家では通いの使用人が数人しかいないようで、家のことはほとんどアナイスがしているということだ。
そして、貴族の娘として育ってきたはずのアナイスはそのことを苦にはしていないようだった。
(お姉様幸せそう?)
セシルは、アナイスは若さ故に早計な判断をして、嫁いだ家が貧しかった可哀想な人だと心のどこかで思っていた。
なのに今、アナイスはその事に後悔はしていない、ということが分かった。
「人にやってもらうのは楽なんだけどね、自分で出来る事は自分でするのが楽しいのよ」
子育ても自分でほとんどしているというアナイスは家事の苦労など見せず、明るかった。
「自分ですることは楽しいのは分かるけれどもね、やってもらうのに慣れるともう戻れないわね」
母親も姉に同調しているのは、母親も元々はあまり裕福ではない家の出だからなのか。
(お姉様は、元々自分で積極的に動くのが好きな人だったから、家事をすることも向いていたのね)
だからセシルは、何だかとっても安心したのだ。
(お姉様は幸せなのだから、私はもうお姉様のことを悪く言う必要などないのだわ)
別に誰もセシルにアナイスのことを悪く言えとは言っていない。
物事の悪いところを見る癖がついているセシルは、姉の状況の悪いところしか今まで見ていなかった。
アナイスのことを悪く思うことが当たり前になっていた。
でも、アナイスが幸せだと言うのなら、セシルが余計なことを言う必要などないのだ。
セシルはその事に、何だかとってもほっとした。
それが何故なのかはセシルにも分からなかったのだけど。
お茶の後の夕食も姉はそのまま取っていった。
家族が揃う夕食は久し振りだったのだけど、お茶の時にお菓子を少し食べたセシルの前にはサラダだけしか用意されなかった。
太りやすいセシルが太らないように。
茶会などで菓子を食べたセシルの夕食がサラダだけなのはいつものことだ。
家族全員がちゃんとした夕食を食べているのに自分だけがサラダしか食べられないというのは、家族から虐げられているのかとセシルに思わせた事もあった。
だけど茶会がなかった時はちゃんとした夕食を用意されるので、家族にセシルを虐げているつもりはないのだ。
ただ、家族全員がお肉を食べているのに自分だけがサラダをもそもそと食べているというのはどこか物悲しくなる。
自分だけ違うものを食べないといけないなら部屋で1人で食べたいものだが、家族が揃っているなら一緒に食べることがジラン子爵家のルールだった。
「家族でしばらく領地に帰るわ。その方が子供ものびのび育てられそうだし。王都の家は親戚の子が学園に通う間住むことになったの。ねえ、だからお父様、私お土産たくさん欲しいわ」
アナイスは娘に甘い父親に領地に持っていくお土産をねだっていた。
それまでのセシルならなんてがめつい姉だろう、と思っていただろう。
だけど、今はアナイスは婚家に負担をかけない方法をアナイスなりにとっているだけなのだと考えさせた。
アナイスは服をねだることもあったが、最近は流行のデザインではなく、昔からあるスタンダードなデザインのものを選ぶことの方が多かった。
それはリアが婿を取った後に生家に頼れないことを考えた上で、長く着られる服を求めたのだろう。
これまでのセシルならこんな考え方をすることはなかった。
セシルは、自分の中の何かが変わった気がした。
「お姉様?セシルお姉様、何だか顔色が悪いわ」
リアの声でセシルは思考を現実に戻した。
リアが心配そうにセシルの顔を覗き込んでいた。
「ねえ、お母様。お姉様の顔色が悪いのは血が足りないのではないかしら?こんなお野菜ばかりでは力がでないのよ」
リアの言葉に母親は渋い顔をした。
太ってエミールに捨てられたらどうするのだ、と顔が言っている。
「セシルは少し痩せすぎよ。むしろもっと食べた方がいいわよ」
アナイスの言葉に母親はセシルの方をまじまじと見てきた。
「そうかもしれないわね?セシルにも他の料理を用意してあげて」
今まで『ぽっちゃり』だと思い込んでいたはずなのにどうしたことか。
母親はあっさり意見を翻して使用人にセシルの料理を用意させた。
一体どうしたというのか。
セシルは自分の前に並べられた料理を見ながら、複雑な心境になっていた。
今までならとても嬉しく思ったはずだ。
そのはずなのに、今はあまり食欲もないのでありがた迷惑という感じだった。
それでもセシルは無理やり食べた。
ここで食べないとまた今までのように1人だけサラダの夕食の日々が続くことを怖れたからだ。
(お姉様も、リアも、お母様も一体何があったっていうのよ)
セシルは必死で料理を腹の中に納め、その後は気分が悪くなって早々にベッドの中に潜った。




