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セシルが午後の授業に出ずに家に帰ると、姉のアナイスに捕まった。
姉のアナイスは嫁いで家を出たはずなのだが、よく家に帰って来ている。
本来ならアナイスがジラン子爵家を継ぐ婿を取るはずだったのだが、男爵家の跡取りと結婚したので嫁に行ったのだ。
男爵家は裕福ではないらしく、よく実家に帰ってきては物をねだることも多かった。
嫁いだくせに実家のお金を当てにするなんて。
とセシルは姉のことを悪く思っていた。
「セシル、丁度良かったわ。要らない服を貰いに来たのよ。今度、男爵家の親族が学園に入るんだけど、新しく服を用意する余裕がないらしくて。年頃の女の子だし、流行の服の1着や2着くらい着せてあげたいじゃない?」
アナイスの婚家の男爵家のことなどセシルには関係ない。
関係などないのだが、年頃の娘が流行りの服を着られずに学園で悲しい思いをするのは今のセシルには気になるところだ。
何故ならセシルは流行遅れの服を着ている令嬢達を散々馬鹿にして悪点稼ぎをしてきたのだから。
罪悪感もあり、セシルは姉を自分の部屋に入れた。
ここ数年の流行は派手な色の服だ。
濃い色を着るのが人気で、淡い色合いはあまり人気は無かった。
セシルの衣装部屋も濃い色の服で埋めつくされていた。
「あら、こんなにあるの?セシルはどうせもう卒業だし、全部貰っていっても大丈夫よね」
姉は容赦なくセシルの衣装部屋から服を持ち出した。
たくさんあったはずの服がごっそりと無くなり、セシルは驚き過ぎて何も言えなかった。
これでは明日からの残り2ヶ月、セシルが着る服に困りそうだ。
これも人の服を馬鹿にしてきた自分への罰なのか、と涙目で衣装部屋を見ていると、姉が残った服から淡い色の物をセシルの体に合わせてきた。
「流行りではないけれど、やっぱりセシルには濃い色より薄い色の方が似合うわね」
アナイスに言われて鏡に映る自分の姿を見てみる。
そこには疲れた顔をした残念な自分の姿。
セシルは薄い色の服が似合うかどうかの前に自分の顔にぎょっとした。
(なんて酷い顔してるの)
流行の濃い色の服に合わせた濃い目の化粧でも誤魔化しきれていない。
そして、セシルは自分にどんな服が似合うかなどを、今まで考えたことがなかった事に気付いた。
(流行の濃い色の服より薄い色の方が似合う?)
アナイスの言葉に首を傾げてみる。
自分ではよく分からない。
似合うと言われたら似合うような気もしてくる。
「この服、前はよく着てたじゃない。似合っていたのに着ないなんてもったいないわ。あら?セシルもしかして痩せた?」
最近着ていない服をセシルに合わせたアナイスは、服のサイズと今のセシルの体型を見て首を傾げた。
セシルは何も言えなかった。アナイスがいつ頃と比べて痩せたと思ったのかが謎だったからだ。
母親とアナイスはどうやらセシルは子供の頃の『ぽっちゃりさん』から変わっていないと思っている節がある。
セシルがぽっちゃりしていたと思われるのは8歳頃までで、その後は標準的な体型のはずなのだが『セシルはぽっちゃりさん』からなかなか記憶が更新されないのだ。
子供の頃のままぽっちゃりだと思い込んでいるセシルが太っていないとやっと気付いたのか。
それか数年前と比べて痩せたと思ったのか。
それともここ数日でやつれたようなセシルの顔に気付いたのか。
いつの頃と比べて痩せたと思われたのか。
いずれにしても今のセシルの酷い顔色には気付かないような人なのだ。
(明日には私のことを痩せたと言ったことすら忘れているに違いないわ。でも、あら?)
セシルは妹の顔色の悪さにも気付かないアナイスを冷たい気持ちで見ていたが、服を持つアナイスの荒れた手に気付いて思考が逸れた。
(お姉様の手、荒れてる?)
セシルがじっとアナイスの手を見ていると、アナイスもセシルの視線が自分の手に向いているのに気付いた。
「水仕事もするから手が荒れちゃうのよね。領地に帰る前に手荒れ用のクリームをたくさん買い込んでおかないと」
そういえば、アナイスの婚家は裕福ではないので使用人も少なく、アナイスも家のことをやっているという話をセシルは思い出した。
それでも水仕事までやっているとは。
(ほとんど平民に近い生活だとは聞いたことがあったけど、そこまで酷いの?)
ジラン子爵家に残っていたらそんな大変な目に遭うこともなかっただろうに。
(馬鹿なお姉様)
セシルは心の中でいつものように嘲笑していたのだが、姉の様子を見て違和感を覚えた。
(大変そうなのに、私よりずっと元気そうだわ)
家のことを自分でしなければならないはずのアナイスは、それでもセシルよりずっと顔色が良く、大変そうな雰囲気は感じなかった。




