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ぱんでみっ!  作者: 陽碧鮮
第壱章 始まる生活 終わる日常
25/34

姐さん願望

         ☆


「迷惑をかけた」

「は?」

「すいませんでした」

 姫野の前で土下座する——正確には、させられている男。有無を言わせない姫野の声は、男を脅えさせるのには充分だった。

 まだ男の素性どころか名前すら知らない俺たちは問い質す。

「取り敢えず名前やクラスとか、一通りのことを教えてくれないか?」

「人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るのが礼儀だろう」

「御託はいいから」

「すいません」

 姫野に睨まれ縮こまる。(はた)から見るといつもあんな感じなのかなぁ、俺たちって。

 少しの沈黙が場を支配した後、やがてポツリと話し始めた。

「俺様の名前は白谷龍也。一年四組所属で能力は『真剣勝負(フェアマッチ)』。俺が直接間接問わず、関与する勝負事で一切の不正を禁止する能力だ」

 中々に面白い能力だが、アニメの世界で登場人物が突然今までと全く異なる能力を使い始めることがないように、中二病患者たちは自身の能力において一切のズルになるような行為を行わない。あくまで自身の能力を使える範囲で使う。それは誇りから来るのか、はたまたウイルスが関係しているか、それを知るのは神のみぞ知るところだ。

 話が少し逸れたので戻すが、白谷の持つ能力は言ってしまえば能力とは一切関係のないゲームなどでしか効力を発揮しないということだ。まあ、それでも充分使える能力ではあるのだが。

 白谷の自己紹介はまだ終わっていなかったようで、真剣な表情で続きを語り始める。

「——とここまでは表向きの話」

「——は?」

 思わずそんな声が漏れる。白谷はそんな声には全く気にしていないようで続けた。

「俺様は『ある組織』によって偶然生み出され、幼少期からあらゆる戦闘訓練や能力開発を受けた生物兵器。訳あって本当の能力は封印している。だが、『世界の終末(ラグナロク)』が始まる頃には…おおっと! これ以上は一般人には教えられないな。まあ、色々とあって今は組織から抜け、それを手引きしてくれた仲間が用意してくれたこの秘密教育機関で真名と身元を偽って身を潜めている——」

「ねえ白谷だっけ?」

「ああ、真名は教えられないぜ? 真名を知られれば——」

「うるさい」

「…すいません」

 着々と姫野の調教——元い教育が進めれているようだ。俺も一歩間違えれば…いや、考えるのはよそう。

「して、お前らはここで一体何をしているんだ? …まさか、禁じられた儀式に手を染めて⁉︎」

 この妄想野郎を相手するのが面倒になった俺は、こいつが妄想世界へとトリップしている間にソファに横になる。見ると、クリス先輩が俺とバトンタッチする形で白谷の元に向かっていた。俺はなんとなく二人の様子をじっと見つめる。

『ここはね、みんなで仲良く毎日過ごす場所なんだ。確か…五人集めて部活にするんだとか』

「ほう…流石は女神様。物知りだな」

『それならそこにいる舞姫も女神様になっちゃうよー』

「そ…うだな」

 今の間を俺は聞き逃さなかったぞ。その姫野はホワイトボードを見ていなかったので何の話かわからなかったようだ。

「というか、女神様はどうしてさっきから筆談なんだ? …まてよ、もしや声が美しすぎて聞く人間の心を操ってしまうとか…」

 またトリップしてる。

『そんな大層な話じゃないよ。日本語が話せないだけ。それよりも——その女神様っていうのやめてくれないかな? その…恥ずかしくて』

 見ると、確かに先輩の耳元が仄かに赤く染まっていた。

「いやしかし、貴女は女神という名前に決して名前負けしていないと思うぞ」

 なんか急に語り始めた。それは異世界式の告白か? 進んでるな。

『恥ずかしいものは恥ずかしいの!』

 当然の反応だ。一体どこの誰があだ名を女神様にされて喜ぶのだろうか。

「じゃあ呼んでほしい呼称とかあるか?」

 そう言われたクリス先輩は、少し悩んだ後、ホワイトボードにデカデカと三文字の言葉を書き出した。

『姐さん』

 …………キツイなぁ。年上女性扱いされたいという願望が、この三文字からこれ以上ないくらいに伝わってくる。

「姐さん…これでいいか?」

「るぱっ!」

 見るからに嬉しそうな表情で微笑む先輩。まあ、俺も名前の後に先輩って付けてるから大丈夫だろう。

 二人の間には、妙な連帯感が生まれたようで白谷の話を楽しそうに微笑みながら相槌をうつクリス先輩。

「俺様の身体には組織の手によって世界をも一瞬で滅ぼす存在が封印されている。うっ! …だからたまにこうやって暴れるのさ。俺様の身体から出たいってな。ぐぅぅう! このままだと不味い‼︎」

『大丈夫⁉︎ 救急車呼ばないと!』

「だっ大丈夫だ‼︎ 最早治療などで抑え込める代物じゃない。それに、俺様が病院に行けば組織のやつらに勘付かれるかもしれないしな…」

『じゃあどうすればいいの⁈』

「ええ⁉︎ いや、気を落ち着けていれば問題ない」

『でもさっきまずいって』

「大丈夫になったんだ! 俺様が更にパワーアップしたお陰でな!」

『良かった〜』

 純粋すぎるって言うのも考えものだな。俺の時も一切疑わずに男子寮まで付いてきたし。しっかりその辺りは教えておかないと不審者とかに…。でもその純粋さがクリス先輩の良いところでもあるんだけどな。美点と欠点は表裏一体なんて、よく言ったものだ。

「そういえば、仲間を探しているんだって?」

 クリス先輩との会話に一区切りつくと、そんなことを言う白谷。よくもそんなことを覚えていたな。

「おい、俺様もこの秘密団体へと加入してやろう! 喜ぶが良い!」

 どういう風の吹き回しだろう。まあ、助けてくれた恩…という線はないだろう。

「その心は?」

「姐さんと一緒にいたい」

 ああなるほど。ここを——クリス先輩を盾に、あの怨霊から逃げようって魂胆か。

 まあ、白谷がどんなことを考えて言ったのかは知らないが、クリス先輩も楽しそうだし、部員が増えることを考えれば充分歓迎する。姫野もそんな考えだろう。

「だってさ。姫野」

 だから俺は、そう姫野に声をかける。

 だが、そう言われた姫野はあたかも当然とばかりに平然と口を開いた。

「え? 嫌よ。なんか偉そうだし」

「「は?」」

 これから一週間、白谷は幼馴染みの目をかいくぐりながら姫野に尽くすことで、なんとか首を縦に振らせることに成功した。


         ☆


「遂に…」

「遂に…」

「「部活発足だぁぁぁ!」」

「許可できません」

 部活発足に必要な人数が集まったので、浮かれながら生徒会室を訪れた俺と姫野に言い渡されたのは、そんな非常な言葉だった。

 姫野がわーわー言って役員を困らせなければいいのだが…。ってこの綺麗な人、どこかで…。

 俺の視線に気づいたのか、生徒会長は男なら誰でも虜にしてしまいそうな微笑みで話し始めた。

「お久しぶりです、面駅さん」

「あ…」

 思い出した。学園に入学した頃に一度だけ会ったことのある、確か…、

「お久しぶりです、神宮寺先輩!」

 俺がそう返すとクスッと笑う。やはり、一挙一動が全て様になるというか。

「私のことを覚えていらっしゃったんですね。嬉しいです」

「貴方みたいな綺麗な人はそうそう忘れませんよ」

 なんか口説いてるみたいだ。それに…若干忘れかけてたことは黙っておこう。

「ぎゃっ⁉︎」

「? どうかしましたか?」

「い、いえ。お構いなく…」

 俺の爪先に姫野のかかとが直撃、否、踏まれ、思わずそんな声が漏れる。机越しに話す神宮寺先輩には気づかれなかったようだが。

 痛がる俺をよそに、姫野は神宮寺先輩と話し始めた。

「それで、部活動が発足できないってどういうことですか?」

 ズバズバ切り込んでいくなぁ。そう言われた神宮寺先輩は、若干苦笑いながら説明を始める。

「言いにくいことですが、部活動の数は有限ではないので」

 正論すぎて困る。簡単に言えば神宮寺先輩は『活動内容不明の部活動を部活動として認めるほど枠は余っていない』ということを口にしたのだ。

「ほら姫野、諦めて帰るぞ」

 そう言って姫野の肩を叩く。だが姫野は俯くばかりで反応がない。やがて、

「…………やだ」

「やだってお前。子供じゃねえんだから」

「嫌なものは嫌なの!」

 そこまで部活動に執着する理由はなんだろう。意地になっているとか。

「…なんで?」

 そう聞くと小さな声で少しずつ姫野は語り始める。

「…この前、クラスメイトに言われたの。あんたと一緒に部屋に入っていくのを見たんだけど、そういう関係なのかって。…そんな………そんな訳ないでしょうがぁ‼︎ もうそんな誤解を生むのは願い下げよ‼︎」

 …心が痛かった。部活動を作りたい理由がそれって私欲以外の何物でもない。それを生徒会長の前で堂々と。

「ふふっ」

 だが、意外にも神宮寺先輩は楽しそうに笑う。そして少し黙り込んだ後、こんな提案した。

「じゃあ生徒会と戦ってみます? 私たちに勝つことができたなら他の生徒は何も言わないでしょう」

「受けて立ちます」

 売り言葉に買い言葉。俺をよそにどんどんと話が決まっていく。

「それでは一週間後の日曜日、再びここで五vs五の勝負を。勝負内容は順を追ってお伝えしましょう」

 そこで姫野が噛み付く。

「待って、そっちが内容を決めるのってこちらの不利じゃないですか?」

「ならこちらから委員長たちにお願いしてみます。ちょうど今年の委員長は、発案好きと実況好きがいますので」

 姫野はそれに文句はないようで、

「じゃあ勝負は来週の日曜日! 覚えててくださいね!」

 そう言い放つ。ああ、上級生に、それも生徒会に俺たちが喧嘩を吹っかけたような展開になってしまった。そうして部屋を出て行く姫野を俺は生徒会長に一礼してから追いかけた。

「いいですか? そんな約束をしてしまって」

 俺たちが出て行った後、今まで傍観を決め込んでいた生徒会役員の一人がそう訪ねた。

「勿論、余興に決まってるでしょう。馬鹿な子たち。私たちに勝てる訳ないのに」

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