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ぱんでみっ!  作者: 陽碧鮮
第壱章 始まる生活 終わる日常
21/34

二度あることは

         ☆


「ひゃっほー、でござるー!」

「走っていくなよ、まったく…。ってん?」

 スイーツバイキングへと向かう途中、待ちきれないとばかりに走り出した忍田を追いかけて、俺も走ろうとする。すると、

「ちょっと! 私を置いていこうってわけ?」

「いや、そういうわけではなくてだな…」

 お前も走ればいいじゃないか、なんて言えるはずもなく。姫野に睨まれては、俺なんて蛇に睨まれた蛙同然だ。しかし、忍田はそんな状況を知ってか知らずか、更に催促してくる。

「面駅殿〜! 急ぐでござるよ〜!」

「まさか、行く気じゃないでしょうね?」

 同時に受ける攻撃。どうするべきか迷いに迷った俺がとった選択は——

「ほら、行くぞ!」

「えっ? ちょっと!」

 ——姫野の手を取って走り出すことだった。手からはクリス先輩とは違った、少しだけ大きな、でも決して大きすぎない、柔らかな肌の感触が伝わる。

 やがて、バイキング場入り口へと着き、俺たちを見た忍田が口を膨らませた。

「随分仲がよろしいようでござるなぁ」

 いつもの忍田とは少しだけ様子が違う。まるで俺たちを面白くないような目で見る。

「…いつまで繋いでるつもり?」

「え? あ、ごめん。」

 そんな考えに耽っていた俺は姫野の声によって無理矢理引き戻される。ちょっと今日の二人はいつもよりキツイんじゃないですかね? いや、姫野は平常運行か。

「じゃあ入るか」

「いよいよでござるー!」

「楽しみね」

 俺たちは受付を済ませようと、げっ、当たり前だけどまたあの店員だ。一日に三回も通うなんて、絶対に変なやつだと思われてるだろう。

 俺はなるべく平常心を保って話し掛ける。

「すいません、大人三名で」

「あらあら…三名ですね」

 やはりと言うべきか、意味深な表情を浮かべて微笑む。

「ほら、鼻の下伸ばしてないでさっさと済ませなさいよ」

 と、話しているとうちのお姫様がそろそろ退屈しているようだ。その様子を見て、店員は口元に手を当てて笑う。

「ふふふ、お邪魔してしまったようで。ごゆっくりとお楽しみください」

 どっちがお姫様なのか、わかったもんじゃないな。今まではよく見てなかったが、制服に付けられた名札には『有栖』と書かれている。いよいよ本当にどこかのお嬢様なんじゃないだろうか、なんて。

 これ以上ここに留まると、本当に姫野が不機嫌になりそうだったので早々に中へと向かう。

「うわぁ…!」

「一度テレビで見たけれど、本当にスイーツで埋め尽くされているのね」

 三度目の俺からすれば、何の感想もないのだが、二人からすれば新鮮な光景なのだ。先ほどまでの不機嫌な表情も、すっかり払拭されていた。

「じゃあ、俺は先に座って——」

 そこまで口にして、二人がいなくなっていることに気がつく。見るとすでにそれぞれ思い思いにスイーツを選んでいるようで、俺のことなどどうでもいいようだ。

 俺は先に席に着き、ぼんやりとしながら二人が来るのを待った。もちろんスイーツは要らない。

 少し経つと姫野がトレーを持ってこちらへと歩いてきた。

「あんたは要らないの?」

 まあそうなるよな。これじゃあ一体何のためにお金を払って入ったのかわからない。

「ああ、遠慮なんてしなくていいぞ」

 だが、あいにく今は気分じゃないんだ。

「遠慮なんてするわけないじゃない」

 姫野らしい返答、そして席へ着くと美味しそうにケーキを食べ始めた。

「ん〜っ! やっぱり美味しいわね!」

 初々しい反応。姫野が頬を押さえているのを見て、俺も最初はあんな反応だったのかと感慨にふける。

 そういえば、と中々忍田が来ないことを不思議に思った俺は姫野へと聞くと、

「ああ、あいつならさっきトレーにスイーツを山積みにしてるとこを見たわよ」

 という返事が返ってきた。…いや待て待て。なんだか既視感というか、危機感というか。

「おーい! どこでござるかー?」

 そんな不安が大きくなっていく中、忍田が見えた。いや、スイーツの山が。

 そこそこに重い山に、身体を何度かふらつかせながらもこちらへ着実に向かってくる。こんなにも来てほしくない女子が未だかつていただろうか。

「遅くなったでござるよ」

 余裕綽々といった表情の忍田。それがいつ苦痛に変わるのか楽しみだ。

「…あんた、どんだけ食べるつもりなのよ…」

 流石の姫野もこれには引いている。今日忍田と付き合うだけで俺の苦労が十分の一でも分かってもらえるだろう。

「せっかくだから、ここにあるスイーツを制覇しようと思っている所存でござる」

 馬鹿だ、馬鹿がいる。自分の胃袋を買いかぶりずきだ。

「いただきまーす!」

 その言葉と共に、口一杯に羊羹を頬張る。まるでハムスターだ。こうして口を塞ぐと愛嬌もあるのだが、いかんせんいつもがなぁ。

うぉいういえうぉはう(美味しいでござる)!」

 ——どうしたらこいつの口を黙らせることができるのだろうか。

「ねえ、喉乾いた」

 忍田の方を見ていると、それを遮るようにコップが差し出された。いつもは早乙女の役目なんだけどな、まあ、しょうがない。

「コーヒーでいいか?」

「ブラックで」

 その答えが背伸びなのか、本当なのか。中二病じゃないにしても、姫野ってそういうところがあるからなぁ。

「…何か失礼なこと考えてない」

「淹れてくる」

 俺は逃げるようにしてその場から立ち去った。


         ☆


「戻ったぞ。ってああ…」

 コーヒーを持ちながら二人の元へと戻ると、予想通り山が少しだけ崩された程度で、忍田が机に突っ伏していた。

「面駅殿ぉー! 助けてほしいでござるぅ!」

 俺は無言で姫野の方を見遣る。すると、ふっ、と目を逸らして一言、

「…頑張りなさい」

 そう口にした。

 姫野、私は関係ないオーラ出しても無駄だぞ。この山の処理は三人の連帯責任だ。一人たりとも逃すつもりはない。だから俺は、

「姫野、諦めろ」

 そう一言返した。

「嫌よ!自業自得じゃない!」

 その通りなんだが、俺は無言で忍田のトレーからスイーツを取り分ける。若干俺の分だけ多くして。

 そこで観念したのか、姫野はやけくそ気味にオレンジを掴む。

「太ったらダイエット付き合ってもらうわよ」

「ああ、多分三人でな」

 ひたすらの無言。響くのはたまにコップを置く音だけ。

 結局食べ終わったのは、時間ギリギリ。俺たちはノロノロと店を出る。そこで、

「いやー、また行きたいでござるなぁ!」

 俺はもうバイキングには行かないと心に誓った。

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