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ぱんでみっ!  作者: 陽碧鮮
第壱章 始まる生活 終わる日常
13/34

あいどる☆こうりん

         ☆


 もはや恒例となった忍田との昼休み。俺の方は特段筆頭するような話題は無いが、クリス先輩の方はというとあれから段々と筆談に慣れてきたらしく友達ができたと嬉しそうに語って──元い書いていた。


「なあ」


 俺は前から少し気になっていたことを聞いてみる。


「何でござるか?」


「お前の能力ってなんだっけ」


 確か自己紹介のときに言ってたはずだが、俺の頭からはすっぽりの抜け落ちていた。俺がどうでもいいと思いながら聞いていた証拠だろう。


「『隠密(ハイド)』。拙者自身に隠蔽効果を付与する能力でござるが、藪から棒にどうしたので?」


「あー、参考にな」


「──?」


 姫野にも能力はあった方が良いって言われてるし、そろそろ考えないと。強すぎると却下されるらしいけど、逆に弱すぎるのもなぁ。ならば中間、と言葉にするのは簡単なのだが、うーん……。


「というか隠蔽効果なんて微妙な能力、使い所なんてあるのか?」


「何を言うでござるか。使い所なんて幾らでもあるでござるよ!」


 でも、隠蔽効果なんていっても他の人は忍田に『気づいていない』ふりをするだけだろ? それじゃあ大胆なことはできないし、大事なところで使い物にならない。

 まあ、忍田が考えそうなことといえば──


「遅刻したとき、とか?」


「な、ななな何を言ってるでござるか。拙者がそんなセコいことに使う訳がないでござろう。うむ」


 そういえばこの前忍田が遅刻したとき、堂々と教室に入ってきて馬鹿かと思ったがそういうタネだったか。謎が一つ解けた。まあ先生はおろか生徒全員にも見られてたけどな。



『パンパカパーンッ!』



 流れてきたのは、今では当たり前のようになった奇抜な校内放送音。最初に聴いたときは一体何の演出かと思ったよ。慣れほど怖いものはないな。


 そんな効果音に続いて生徒と思われる声が聴こえてくる。


『こんにちはぁ♫ 一年生のみんなは初めまして、二年生と三年生のみんなは久しぶりっ☆ みんなのアイドル、偶像(たましょう)(まな)でぇーす♡』


 甘ったるい声。これが俗に言うアニメ声というやつだろうか。周りの奴らも会話を中断して放送に耳を傾け始めた。


『ちょっと違いますよ⁉︎ 偶像先輩は放送委員長です! しっかり自己紹介して──』


『ふーん、だって愛は学園のアイドルだしぃ♫ 別に間違ったことは言ってないしぃ☆ ジャーマネは黙ってて欲しいしぃ♡』


『マネージャーじゃなく副委員長ですっ!』


 ……なるほど。千埜(あの)先輩の仲間か。この僅か二言でキャラの濃さがこれ以上にないくらい伝わってきた。


『今日は一年生のみんなに委員会の良さをわかってもらう為の放送でぇーす♫ というワケでこの学園の委員長全員がこの放送室に集結していますっ☆ 委員会紹介や委員長とのトークなどを予定しているので楽しんでいってねー♡』


「へぇ。面白そうだな」


 司会者は兎も角、委員長たちには少し興味がある。忍田も興味津々という表情をしているし、委員会に所属する気はないが話だけでも聞いてみるか。


『じゃあまずはこの私♫ 名前はさっき言った通り偶像愛でぇーすっ☆ スリーサイズはヒ・ミ・ツ♡』


 うぜぇ。こいつの中のアイドル像どうなってんだ。


『誕生日はぁ7月7日♫ 能力は『蕩ける声音(マジカル☆ボイス)』って言って愛が声に出したお願い、命令は全部強制力を持つんだよっ☆ でもでも、誰かを傷つけるような命令はできないから安心してねー♡』


 この時点でこの学園の全ての生徒は偶像先輩の命令を断れなくなったわけだ。そう考えると恐ろしい能力だな。


『じゃあ早速愛からみんなにお願い♫ 今日の放送、最後まで聴いていってねっ☆ 分かったひとはおててを挙げて返事ぃ♡』


「「「「「はーい!」」」」」


 このクラス、いや学園中が一瞬にして狂気色に染まった瞬間だった。


 ちゃっかり姫野も手を挙げてる。思い返してみれば俺みたいに反応できないなんてこともなかったし、常に周囲に『眼』を配って他と違うことをしないようにしてるんだな。


『愛はね、ペットを飼ってるんだけどね♫ 名前はまなまなって言うんだけど──』


『先輩! 予定にないこと言わないで次に行って下さい。九人もいるんですから無駄話に付き合ってる時間はないんです』


『まなまなの話は無駄話じゃないもんっ!♫ 前川は相変わらず頭が固いなぁ☆』


『余計なお世話です!』


 これ大丈夫なのか? 危ういってレベルじゃないんだが。


『それではぁ……最初のゲストはこの方♫』


『こんにちは、学園の情報屋こと千埜淡です』


『千埜先輩は図書委員長ですよね⁉︎ うちの偶像先輩のネタに乗っかからなくてもいいですから!』


 うわぁ……。初っ端が千埜先輩か。どうなることやら。


『はーい♫ それでは愛から淡ちゃんを簡単に紹介するねっ☆ 淡ちゃんの能力は『嘘つきは死の始まり(オネスト)』♡ 淡ちゃんに対して一切の嘘がつけなくなる能力だよっ★ 役職は図書委員長で誕生日は4月1日♩』


『No…情報屋の私からすれば50点といったところですかね』


『淡ちゃん辛口ぃ♫』


 千埜先輩の情報少なくね⁉︎ 結局新しく分かったのって誕生日だけじゃん。


『それでは質問の方に移らせていただきまぁす♫』


『先輩、委員会の説明忘れてますよ!』


『だってぇ図書委員会の説明なんてしなくてもみんな分かってるでしょ♫ 本の貸出したり本の整理するだけだよぉ☆』


『屁理屈を……』


 なんだか険悪な空気になってきたな。というか偶像先輩の補佐役っぽい人がこの学園では珍しく真面目で驚いてる。


『気をとりなおして一つめの質問♫ ズバリ、最近驚いたことはっ?☆』


『ふむ……』


 あのロボットみたいな人でも驚くことがあるのだろうか。

 心当たりがあったのか千埜先輩はあまり時間をかけずに口を開く。


『一週間前くらいでしょうか。個人情報なので実名は控えさせてもらいますが男子生徒が図書室を訪れたんです』


『ふむふむ♫』


 ちょうど俺がクリス先輩と図書室で出会った頃だ。


『その男子生徒は図書室に入ってくるなり、私に寄ってきて……その……』


『それでそれで?♫』


『唐突にスリーサイズを教えて欲しいって叫んだんです』


 ……うん?


『だから私は、臓器と交換なら……とお伝えしたら悔しそうに再び叫んで図書室の奥へ消えて行きました』


 うん?


『うわぁ♫ それセクハラですよっ☆』


『私も最初驚いてしまって。面え…男子生徒はそれっきり図書室に来ないですし』


「言ってねぇからな⁉︎」


 なに話捏造してんだ。学園中に流れてんだぞ⁉︎


『ちなみに愛のサイン入りTシャツとスリーサイズの情報は交換できる?♫』


『No。百万着積まれても足元にも及ばないかと』


 ばっさり。千埜先輩に真面目に質問なんて可哀想に。


『……生々しい話ありがとうございました…♫ 続いての質問に移りますねっ☆』


 よかった。偶像先輩はまだ落ち込んでいないようだ。どうか折れないで最後まで進行して欲しい。


『二つ目の質問♫ 淡ちゃんは図書委員長ということですが、最近読んだオススメの本を教えて下さいっ☆』


 さっきまでなら普通の質問だと思っただろうが、あの回答を聴いた後ではそんな気持ちは持てない。平然と拷問書とか言いそうだ。


『ふむ。少しばかり難解かもしれないのですが読んでいて深く考えさせられる本がありました』


『おお♫ その題名はっ?☆』


『『君がいなくなってから』という本です』


 その本って確か今大ヒットしている恋愛小説じゃなかったっけ? 彼氏が交通事故で亡くなってからの彼女の心の葛藤や苦しみ、新たな恋へと向かっていく彼女の気持ちの変化が繊細に書かれているってテレビでやってた。

 でも千埜先輩が恋愛小説を読むなんて、人は見かけによらないな。


『それって今人気の恋愛小説ですよね?♫ 読んでみての感想なんかいただけますかっ?☆』


 全校生徒の前で物語のレビューをするなんて宣伝効果が凄いことになりそうだ。千埜先輩は図書委員長なんだからそういうのも上手そうだし。

 周りのクラスメートたちも興味満々のようだ。千埜先輩は快く了承し、やがて口を語り始めた。


『これは物語の冒頭から興味深い内容で、まず彼氏を失った彼女が塞ぎ込むんです。それに食事が喉を通らなくなったとも書いてありましたね。彼氏が亡くなって塞ぎ込むなんて非合理的ですよね、理解に苦しみます。それに彼氏の死と食事が喉を通らなくなることは何か関係があるのでしょうか? 実に興味深い』


『へ、へぇ〜♫ そうなんだぁ…☆』


『その後も──』


『ス、ストップ! ほら、その小説まだ読んでない人もいるしね?☆ 続きは読んでからのお楽しみってコトで♡』


『そうですね』


 いや、もう遅いと思うぞ。少なくとも俺は読む気が失せた。これで読みたいと言うやつがいたらそいつは感性が人類とは異なる新人類(ニュータイプ)とかだ。


『それでは淡ちゃん、ありがとうございましたぁ♫』


『ありがとうございました』


 やっと一人終わった。長く感じた時間も実際には数分しか経っていない。


『それでは続きましてぇ♫』


 放送から聴こえてくる偶像先輩の声には疲れの色は一切見えない。プロだな。


『二人目のゲストはこの方でぇーす♫』


『……こんにちは』


 次に聴こえてきたのはえらく不機嫌そうな声。まるでどこかの国の王女様のようだ。


(みこと)ちゃーん♫ なんだか不機嫌だねぇ☆』


『……そうね』


『な、何かあったの?♫』


 偶像先輩やりにくそうだ。この委員長も相変わらず一筋縄ではいかなそうな感じがする。


『貴方たちの催しのせいで友達と遊べなくなったの』


 入り込む余地のないくらいむき出しの敵意。この先輩はここに何しに来たのだろうか?


『ごめんねーっ♫ 急に決まったことらしくて私もついさっき知ったんだっ☆』


『貴方…それが人に謝る態度なの?』


『ご、ごめんなさい……』


 不憫すぎるだろ。むしろ偶像先輩がこの催しで最も被害を受けた人物だろうに。


『えーと、それでは愛から簡単な紹介をさせてもらうねっ♫ 飼育委員長の双頭(そうず)(みこと)ちゃんでぇーすっ☆能力は『獣たちの庭(フレンズ・フィールド)』で、あらゆる動物を呼び出せる能力なんだ♡』


 どれだけ獣に飢えてるんだよ。その能力使っても動物は召喚できないからな? 見えたら幻覚だぞ。


『えーと、まだまだ情報は用意したんだけど時間が押してるので割愛しまぁーす♫』


 双頭先輩が駄々こねてた時間分だな。結局双頭先輩もやばい人だということしかわからなかった。大丈夫か、この学園の委員長たち。


『次に委員会説明をするね♫ って言っても図書委員会と同じでみんな分かると思うんだけど飼育委員会の主な仕事は動物の世話でぇーすっ☆』


『聞き捨てならないわね』


『え?♫』


 双頭先輩は更に敵意を発しながら偶像先輩の説明をぶった切った。

 何だ? 他に仕事でもあるのか?


『飼育委員会は友達と触れ合う委員会よ!』


 さっき言ってた友達って動物のこと? あの性格じゃあ人間の友達は少なそうだけど。


『ごめ──って痛いよ! 何これ鶏⁉︎』


『私の友達に『これ』って酷いんじゃない?』


 何で放送室に鶏持ち込んでんの? お前飼育委員だろ、しっかり管理してくれ。


『ごめん、ごめんなさい! だから鶏さん離れてーっ!』


鶏子(とりこ)ちゃんに言葉は通じないから能力は通じないわよ? クスクス』


 完全にこの状況を楽しんでるな。八つ当たりもいいところだ。


『そんなこと言ってないで早く助──って……へ…び……?』


『その子は私の親友の蛇子。チャームポイントの身長は貴方よりも長いのよ。ああ、毒は抜いてあるから安心しなさい』


 何匹持ってきてんだ。人間より大きい蛇はどう見てもアウトだろ。


『う…ぁ……』


『聞こえてないみたい。誰か助けてあげれば?』


 鬼だ。鬼がいる。

 やはり獣たちを従えるには鬼くらいじゃないと駄目なのか、とかどうでもいいことを片隅で考えつつ、心の中で偶像先輩に手を合わせる。


『はいはーい! 僕が助けてあげる! 何が出るかな♪ 何が出るかな♪ この状況を打破できそうな能力来ーい! ……『視界を覆う暗雲(アンチフィールド)』! 能力は……この場にいる全員の能力を一時的に封印だね!』


『何でこんなときにそんな能力引き当てるのよ』


『というか、『一か八かの(ギャンブル)選挙(エレクション)』の能力使う意味あったか?』


 新たな委員長が加わって更に状況が混沌とした。もう既に収集がつかなくなってきてるような……。


『あったよ! 例えば『統率者(リーダー)』とか『一致団結(ユニティ)』とか引ければ!』


『助け…てぇ……』


 助ける対象のはずの偶像先輩の声はもはややりたい放題の委員長たちちは届かず、完全に蚊帳(かや)の外の存在となっている。


『助けてぇ……駿(しゅん)くぅん……』


『校則に違反しているわけじゃないからね。僕も蛇が苦手だし、申し訳ないけど出る幕じゃないかな』


 能力封印の所為(せい)で今の偶像先輩の発言に強制力はないのか。俺は心の中から声援を送ることしかできない。


『なんでぇ…誰かぁ…』


『おいで、蛇子』


『……ふぇ?』


『別に助けなくても良かったんだけど、流石に可哀想になっちゃった』


『…………ぐすん』


 あ、これ──


『ふええええぇぇんっ! 前川ぁ! 怖かったよぉっ!』


 やばい、と思うとほぼ同時、大声で泣き始める偶像先輩。

 ……どうすんのこれ。


『はいはい、大丈夫ですよ。私がついていますから泣き止んで下さい』


『……ひっく……うん』


 いかにも偶像先輩の扱いになれてそうな対応で泣き止ませる補佐役の人。

 確か──前川さんだっけ? 苦労してそうだなぁ。一度、会って話してみたい。


『えー……放送委員会副委員長の前川です。大変心苦しいのですが、今回の放送はこれにて終了とさせていただきます。次回の放送は現在のところ未定となっていますので今回の放送を聴いて委員会活動に興味を持った方がおりましたら直接各委員会の活動室まで足を運ぶことをお勧めします。では、また次の機会にお会いしましょう』


 前川さんはそんな言葉を残した後、ブツリ、という音を最後にスピーカーからは何も聴こえなくなった。


「「「「「………………」」」」」


 ……うん。

 最後に上手く纏めた感が出てるけど駄目だったからね? あれって放送事故だからね?


 流石にクラスメイトたちもこれには許容できなかったのだろう。教室中に何とも言えない空気が流れる──ただ一人を除いて。


「次回の放送が楽しみでござるなぁ!」


 このときだけ、俺はこいつのことを心から凄いと思った。

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