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ぱんでみっ!  作者: 陽碧鮮
第壱章 始まる生活 終わる日常
12/34

宇宙人?との邂逅

          ☆


「全く、あんな目に遭うなんて」


 周囲の目が気にならないところまで逃げていた俺は思わずそう呟く。

 この状況をなるように仕向けたのは……。この学園の委員長って本当に大丈夫なのか? 他の委員長もあんな感じな気がしてならないんだけど。


 ……気を取り直して本来の目的を果たそう。


「物理…シュレーディンガーの猫ねぇ……。俺にはさっぱりなんだがこれは本当に高一で習う内容なのか?」


 名前がどこかカッコイイから授業に組み込んでみた……ではないと信じたい。


 ……『け』……『こ』……『さ』….あそこか。どうやら先客がいたようだ。


「んやっ…ていっ!」


 中学生、いや下手したら小学生に間違われるのではないかというほどの小柄な体型。自身より、はるか上方にある本を取ろうと必死になってジャンプを繰り返しているが一向に届く気配を見せず、腰をも隠す勢いの長髪は黄金(こがね)色に煌き、文字通り踊っていた。


 少女の目線を見るに、取ろうと躍起(やっき)になっているのは『これで安心 死神とさえ心通わす十の方法』だろう。それは俺ですら取れるギリギリの高さに置いてある。近くに脚立(きゃたつ)らしきものは見当たらない。こんな本を読みたがるくらいだから誰かに頼る、なんてこともできないのかもしれないな。


 ここは俺の出番、一肌脱ぐとしようか。少女の隣へと寄って行くと目的のものであろう本を取って手渡す。


「はい、どうぞ」


 当然スマイルも忘れずに。

 姫野の暴虐無人な性格や千埜先輩のようにあらぬ疑いをかけられるかもしれないという女子に対する恐怖がこの俺のスマイルに現れていた。


 触らぬ神に祟りなしというが今回はそうもいかないので、とりあえず女子には下手に出る。


 ……自分で思って悲しくなってくる。


 少女は少しの間きょとんとしていたが、それが自分に対して行われたことだと理解すると人懐こい笑顔を作り──口を開いた。


「∈▼%⊿♯$★」


「へ?」


 上手く聞き取れなかった──訳ではない。ただ単純に彼女が何を言っているのかわからないのだ。少なくとも英語ではない。

 そんな戸惑う中、ふと、俺の脳内に昼間の忍田の言葉が再生された。



『──独逸(ドイツ)人の女子生徒だそうでござるよ──名前はクリスティーネ・ハーシェル──言葉が通じないから意思疎通ができないのでござる。先生曰く、『独逸(ドイツ)語でも英語でも伊太利亜(イタリア)語でも西班牙(スペイン)語でもない──』



 明らかに日本人とは思えない顔立ち。艶やく金色の髪。


 ははは、ま、まさかな。……まさかな。

 ……いやもうこれビンゴだ。


宇宙人、なんて忍田は呼んでいたから、てっきり先入観でそれらしい風貌だと想像していたのだが、猫箱を開けてみればかなりの美人だった。美人というよりは可愛い、かな。

 外人特有の美しい顔立ちに幼さ故の可愛さが加わって、そういう性癖の方(ロリコン)じゃなくてもクラっときてしまいそうだ。


「俺の言葉、理解できますか?」


 少女はその小さな頭をこくん、と前に揺らす。


 なるほど、こっちから一方的には伝わるのか。まあ、そんなことがわかったところで彼女が日本語を話すことが出来なければ意思疎通もできる訳もない。


「☆▼⚫︎◉↑」


 彼女は必死に何かを伝えようとしているが、その意味は全くわからない。

 よし、ここで俺が取り得る最善手は──


「お、お役に立てて良かったです。俺はこれから予定があるので失礼します」


 逃亡だった。

 ごめん、俺だって突然部屋に乗り込まれて理不尽な要求を受けたり、外見詐欺の空気が読めないやつに話しかけられても相手をしてるんだ。──意思疎通さえできれば。


 無理だろ。意思疎通できないやつとどうやって話せばいいんだよ。今回ばかりはどうしようもない。

 そう自分に言い聞かせてその場を離れようとする。そこで俺は、


「あっ……」


 少女の顔が少しだけ歪んだのがわかった。見えてしまった。


 でも、どうしようもない。無理だ。無理無理無理無理無理無理──


「──誰かと話せるようになりたいですか?」


 どうしてだろう。自分はお節介焼きだと思ったこともないし、聖人ぶるつもりもない。

 意志とは関係なく、気づけば勝手に零れていた。


「っ!」


 今度の表情は驚きに満ちたものとなる。当たり前だ。会話ができなくていなくなったと思ったら突然こんなことを言われるのだから。

 勝手に言葉が出てしまったのだからしょうがない。こうなればヤケだ、と続ける。


「他の人と話せるようになりたいですか?」


 先ほどとは打って変わって、何度も大きく頭を前に揺らす。そりゃそうだよな。となればやることは一つ。


「そうですか、なら──」


         ☆


「それで連れてきたってワケ?」


「ここは俺の部屋なんだから俺が何をしようが勝手だろ?」


 なぜかピリピリしている姫野にそう言い聞かせる。


「困っている人を助けるという善行、感服しました」


「そんなんじゃないわよ。どうせ道端に捨てられてる子犬が可哀想で放っておけなくなった、みたいなものと似たような考えよ。自己満足よ、自己満足」


 俺は兎も角、連れてきた彼女の前でそんなに堂々と言い切らないでほしい。


「名前は確か──クリスティーネ、だったかな。一応俺たちの先輩だぞ」


「はぁっ!?」


 気持ちは分からなくもない。これだけ小さいとな。高校二年生、じゃなくて中学二年生でも信じられるかどうか……。


「◉#&〒♢」


 このやりとりに彼女が何かを伝えようとする。が──


「こ、これは……」


「お話通り、何を喋っているのか見当もつきませんね」


 二人は驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべる。俺もこんな表情をしていたのだろうか?


「それで一度話したと思うが、この状態からなんとか人と話せる状態にまでしたい。二人も手伝ってくれ」

「まあ、いいわよ。暇つぶしとでも思えば」

「面駅様のご命令とあらば」

 よし、二人の同意は得られた。だが、ここからが問題だ。まだ俺には何の案も浮かんでいないのだから。そしてそれは姫野と早乙女も同じ。

「手伝う、って言ったって。具体的にはどんなことをすればいいのよ」

「思いついた案をどんどん言ってってくれ」

 三人寄れば文殊の知恵、なんて言うし。なんとかなる…はずだ。

「うーん…。案と言われてもねぇ」

「やっぱりそう簡単には思いつかないよなぁ」

 今から言語を解読するって言ったって、それは無理な話だし。他に何か良い案は…。

「手話なんてどうかしら?」

 なるほど、そう来たか。確かにそれなら言葉を理解しなくても会話ができるだろう。でも——

「俺たちは手話なんて出来ないし、何より学園の奴ら全員に手話を覚えてもらうっていうのかよ」

 俺たちだけならその案でも良かっただろう。だが、俺たちが目指しているのはクリスティーネ先輩が学園内の誰とでも会話ができることだ。

 よって手話案は却下。

「じゃあ他にどんな案があるっていうのよ!」

「まだ思いつかないけど、手話は却下だ」

「…良いわよね、案の一つも出せないのに偉そうに出来て。あんたはそこにいる可愛い可愛い先輩とでも遊んでれば?」

 やはり今日の姫野はいつもよりも機嫌が悪い。まったく、こんな日に限って…。

 だが姫野の言うことも一理ある。ここは一つ、俺からも意見を出してみようじゃないか。…手話——そうだ。

「手話ができなくても簡単なジェスチャーなら理解できるんじゃないか?」

「ジェスチャーねぇ」

「やってみる価値はありそうです」

「よし、じゃあクリスティーネ先輩。今から何でもいいですからジェスチャーをしてみてください。それを俺たちが当てるんで」

 クリスティーネ先輩が頷いたところでスタート。

 最初の問題は——両手に何かも持って———口へと運ぶ。そして——頬を抑えて笑顔。

 ……さっぱりわからん。いいやよく考えろ、何かを食べて——笑顔?つまりは——

「美味しい?」

「⬆︎↑▶︎◉◼︎!」

 言葉の意味はわからないが、頷いていることからして正解だろう。初めてイエス、ノー以外の意思疎通が出来た。

「この調子で次のやつを頼む」

「るぱっ!」

 前後関係からみるに「はいっ!」という意味だろうか。まあ、それの確認のしようもないのだが。

 次にクリスティーネがとったジェスチャーは——空中に大きな円を手で描いて——取り出したハンカチで額を拭う。

「わかった! 暑い、ね!」

 自信満々に姫野が答えるが、クリスティーネ先輩は首を横に振る。『暑い』じゃないとすると——わからない。

 姫野も考えているようだが、答えはわからないようで、俺同様に唸っている。すると、隣から一つの答えが上がった。

「太陽、ではないでしょうか?」

「るぱっ!」

 早乙女の答えにクリスティーネ先輩は首を縦に振った。つまりは正解。流石は二年生だ。

「あー! 早く次の問題出しなさいよ! 次こそは絶対に当ててやるんだから!」

 はあ、姫野がムキになってしまった。面倒くさいことこの上ない。いつの間にか普通のジェスチャーゲームになってるし。

「じゃあ最後の問題な。クリスティーネ先輩、頼みます」

「問題ないわよ、私が最後に答えて終わるんだから」

 その圧倒的な自信は一体どこからやってくるのだろうか。

 クリスティーネはジェスチャーを始める。

 まず、何かを抱えて——左右に揺らす。今度は片方の腕で何かを抱えたまま、もう片方の手で何かを持ってリズムよく振り始めた。

 今回のは難問だ。さっぱりわからない。

「俺は降参」

(わたくし)も…参りました」

 俺と早乙女はリタイア。だが、姫野は必死に頭を働かせているようで目を閉じてブツブツと呟いている。もはや意地だな。

 しかし長考の末、答えが出ないと諦めたのか、降参のポーズを挙げた。

「駄目ね、わからないわ。答えは何だったの?」

「⚪︎◉◻︎♦︎❤︎」

「「結局わからないじゃん!」」

 どうしようもない欠点を見つけたのでこの案も却下された。当たり前だ。

「お飲物を御用意させていただきました。これで一度心を落ち着かせてみてはどうでしょう」

 気を利かせた早乙女が用意してくれたようだ。これは…ハーブティーか。

「サンキュー」

「ふん!」

 早乙女の淹れてくれたハーブティーを飲んで休憩——一度場を仕切り直す。

「お嬢様もいかがですか?」

「×↓▶︎⚪︎◎」

 ちゃっかりクリスティーネ先輩にも渡してる。流石自称執事だ。

「早乙女、あんたって私の執事なんじゃなかったっけ? まあいいわよ、その先輩に乗り換えても。男なんてみんなロリコンなんだから」

 その激しく間違った偏見は一度置いておいて。先ほどの言葉から鑑みるに、姫野の不機嫌の原因はどうやらクリスティーネ先輩にあるらしい。うーん、なぜだ?

 まるで自分の縄張りを侵された獣のようだ。って、こんなことは口が裂けても姫野に言えないな。

 そして案の方だが、完全に煮詰まった。姫野の方も同様のようだ。うーん、ここは一つ、早乙女にも聞いてみるか。

「早乙女は何かないか?」

 頼みの綱はお前しかいない。万能執事に期待する。すると早乙女は既に案を考えていたらしく、すぐに口を開いた。

「イラストにして伝えるというのは如何でしょうか?」

 なるほど、イラストか。これならジェスチャーよりも確実に伝えることができる。下手じゃなければ、という条件付きだけど。

「良いんじゃない? どこかのジェスチャー案より全然マシよ」

「誰かさんの手話案よりもな」

「言うようになったじゃない」

「それではこれを」

 俺と姫野が言い争うすぐ横で早乙女が色ペン、マーカー、クレヨン、そして紙を取り出した。いつ見てもまるで魔法使いの如く、俺には何処から取り出したのか全くわからない。

早乙女はクリスティーネ先輩に取り出したものを手渡すと今度はお菓子の順備を取り掛かりに台所へと消えていく。

「じゃあ早速描いてみましょう」

「るぱっ!」

 そう返事したクリスティーネ先輩は他の物には脇目も振らずにクレヨンを掴むと真っ白な紙の上に色を置き始めた。

「〜♫ 〜♫」

 鼻歌を歌いながら絵を描くその姿はどこからどう見ても楽しそうな小学生にしか見えない。この前出会った神宮寺先輩が梅や金木犀を彷彿とさせる笑顔なら、クリスティーネ先輩の笑顔はさしずめ向日葵だろう。

 五分ほど経っただろうか。早乙女が戻ってきた頃、先輩も描き終えたようで、その紙を両手で持つと描かれた面が俺たちに見えるように向けた。

「へぇ…案外上手じゃない」

「お上手です」

 そこには可愛く描かれた動物たち。それぞれの動物の近くには『いぬ』、『ねこ』、『とり』などの文字が分かりやすいように添えられている。

「でもこれじゃあ時間が掛かりすぎよ。」

「そうだよなぁ」

 たった一分程度で済む会話でも、これでは何分掛かるか分かったものじゃない。

「あと一歩ってところなんだけどなぁ」

 何かを見落としている気がする。それも重要な何かを。それさえわかれば――

「▼▽♯!」

「ん?」

 クリスティーネ先輩の方を見ると簡略化された彼女が旗を振っている絵と、『ワタシも一緒に考える』と書かれた紙を持っていた。なんて良い子なんだ…うちのお姫様とは天と地ほどの差と言っても過言じゃない。

「ありがとうございます。一緒に考えましょう、クリスティーネ先輩」

 俺は先輩の頭を撫でる、って外見に惑わされて思わずやってしまった、一応は先輩なのに!

「すいません!」

「——?」

「先輩なのに頭撫でてしまって…」

 それを聞いた先輩は持っていた紙の裏にペンを走らせた。

『ぜんぜん大丈夫だよ。むしろもっとなでて欲しいかも』

 俺が見たことを確認した先輩は更にペンを走らせる。

『あと、クリスティーネって長いでしょ? クリスって呼んで』

「わかりました…クリス先輩」

『うん!』

「痛っ!」

 クリス先輩が笑う——と同時に頭に衝撃が走った。後ろを振り返ると姫野のバッグ。どうやら俺に当たったのはこのバッグのようだ。そしてその先には姫野の姿が。見るからに怒ってる。

「いちゃいちゃするなら他所(よそ)でやってくれない?」

「別にいちゃいちゃなんて…」

「してるから言ってるんでしょ! そんなことしてる暇があったら早く他の案考えたらどうなの」

「それが思いつかないから困ってんじゃねえか!」

 再び喧嘩になった俺たちを止めたのは、またしても早乙女だった。

「あの…お二人方」

「何?私たち今忙しいんだけど」

 早乙女はクリス先輩が先程まで持っていた紙を持って、こう言った。

「文字は書けるようですが…筆談(・・)では駄目なのでしょうか?」

「「あ…」」

『もんだい解決しちゃったね』

 その後、クリス先輩には持ち運びのできるホワイトボードが与えられ、更には仮部活のメンバー入りを果たした。


         ☆


        秀勝へ


 ワタシを部活へ誘ってくれてありがとう。秀勝のおかげでワタシはたくさんの『楽しい』を知ることができたよ。ワタシが一人のとき——』


◇●(違う)☆$%▽**(これじゃあ秀勝に)◎○▽●■(感謝の思いが)◎▽▼(伝わらないよ)…」

 少女はまた一つ、納得がいかず丸めた便箋をゴミ箱の中へ積み上げていく。

◆△(どうして)…」

 クシャ。

○▼(こんなにも)

 クシャ。

○▽〆+¥♡(感謝してるのに)…」

 ビリビリ…クシャ。

 一つ、また一つと次第にゴミ箱に収まりきらなくなった想いを綴った手紙は、やがて少女の部屋へ散乱し始めるが、それでも少女は書く手を休めない。

 少女の脳裏にあるのは浮かんでは消えていく沢山の追憶。

 困惑する教師やクラスメイト。次第に自分から離れていく人々。そして——一人。


○◎○▼(また来ちゃった)(でも)□▲▽▽(本を読んでいれば)◆▲(一人でも)——」

 ——少しは気を紛らすことができる。

「『◆○■(これで安心) ◇■◎○▼(死神とさえ心通わす)◎▽▽(十の方法)』?」

 ふふ、こんな本に興味を持つなんて、まだ未練があるのかな? 『友達(トモダチ)』に。伝わるはずないのに…。

 少し高いところにあるなぁ。誰かに手伝ってもらうこともできないし…跳べば取れるかな?

「んやっ…ていっ!」

 後少し、もうちょっと。

 そうやって本と格闘していると、隣へ一年生と思われる男子生徒が寄ってきた。

 またみんなみたいに、あの困った顔をされるからなるべく話さないようにしなきゃ。

 そう思った矢先、その少年はワタシに向き直った。一体何の用だろう。

 ワタシも顔を見ないように少年の方へと向き直ると自然と手元が目に入った。

 そこにあったのはワタシがついさっきまで格闘していた本。なんだ、先に取られちゃったな。

 この少年もワタシのように友達(トモダチ)がいないのかな? なんて失礼だよね。

 そんなことを考えたせいか頭が上がり、自然と少年と目が合う。

 そこにあった顔は笑顔。え? どういうこと? …もしかして、ワタシに本を取ってくれたの? そっか、優しい人なんだね。こういうときは笑顔を忘れずにお礼をしなきゃ。

 ワタシは精一杯の笑顔を作って口を開く。

∈▼%⊿♯$★(どうもありがとう)

「へ?」

 最初に見せた表情は、どこか間の抜けた顔。そしていつものようにあの困惑した表情へと変わっていった。

 ワタシを助けてくれたからって期待、なんてしていなかったけど、やっぱりキツいなぁ。

 いっそここから逃げ出そうとまで考えていると再び少年に話しかけられた。

「俺の言葉、理解できますか?」

 ワタシは頷く。このようなやりとりだけでも随分懐かしく感じる。

☆▼⚫︎◉↑(理解できます)

 案の定言葉は伝わらなかったが頷いたお陰か、肯定だということは伝えられたようだ。

 このままいけば、仲良くなれるかも。

 そんな淡い期待は次の彼の言葉によって崩れ去った。

「お、お役に立てて良かったです! 俺はこれから予定があるので失礼します!」

「あ…」

 しょうがない、ワタシだってもしも言葉が通じない人に出会ったらこうするに決まってる。しょうがない、ことなんだ。

 そう自分自身に言い聞かせて顔が歪むのを必死で堪える。でも——少しだけ、この少年と仲良くなりたかったな。

 早く本を借りてまた自分だけの世界へ帰ろう。

「——誰かと話せるようになりたいですか?」

「っ⁉︎」

 もう話すことはないと思っていたのに。どうして?そんなワタシの考えなど知らずに、少年は続ける。

「他の人と話せるようになりたいですか?」

 どうして君はここまでワタシに優しくしてくれるの? どうしてワタシの気持ちをここまで汲んでくれるの?

 突然見えた一筋の光にワタシは縋ってみたいと何度も何度も、伝わるように首を振る。

「そうですか、なら——」


()

 そこまで思い出して少女は書く手を止めた。

*◆(別に文字に)◎▲□(起こさなくても)▽▼◎(秀勝なら)◆○◆○(わかってくれる)

 だって、例え言葉が伝わらなくとも、少年は少女の心を読み取ることができたのだから。

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