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ぱんでみっ!  作者: 陽碧鮮
第壱章 始まる生活 終わる日常
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学園の十傑

         ☆


「ここのところ、学園内で持ちきりの話があるのでござるが──」


 最近は忍田と食事を共にすることが多くなった。

 未だにこのクラスで話せるやつと言ったら忍田と姫野くらいしかいないんだけど、その姫野は学園にいるときは猫を被ってるから話しかけても無視するし。便所飯はこの前のようなリスクがあるし、必然的にこうなった。

 決して寂しくなってこうなった訳では断じて無い。


「面駅殿……面駅殿! 話をちゃんと聞いくれでござる」


「ん? ああ、悪い悪い。で、話っていうのは?」


「全く、しっかりして欲しいでござるよ」


 ぶつぶつと愚痴をこぼす。俺からすれば忍田の話なんて十割がどうでもいい話なので聞いても聞かなくても問題ない。

 忍田はわざとらしく一度咳払いをして雰囲気を作ろうとする。もしこれでどうでもいい話だったら一回しばこう。


「話、というのは近頃よく学園で耳にする『とある生徒』の話なのでござる」


「へぇ……少なくとも俺は初めて聞くな」


 この学校の生徒たちの話題に挙がるなんて相当の『異端者(中二病)』なんだろう。出来れば俺が関わりたくないレベルの。


「面駅殿は友人が少ないから話を聞く機会が……って痛っ! どうして急にデコピンを……」


「ムカついたからだ」


 唐突に人のライフを削りやがって。結構気にしてるんだぞ。


「で、その『とある生徒』がどうしたんだ?」


 忍田は大きく間を開けると、やがて口を開いた。


「どうやら……宇宙人らしいのでござる」


 ふーん……。宇宙人ね。宇宙人、宇宙人……。


「はぁ?」


 宇宙人って宇宙からやって来るあれだよな?


 ユーマ、未確認生物。勿論俺は実際に見たことはないが、二十一世紀の半分を過ぎた現在でも、相変わらずにその手の番組は放送されている。いや、中二病が世界に蔓延したからこそその手の、眉唾物ものの人気に火が付いたという感じか。


「馬鹿らし。いや、真面目に取り合った俺が馬鹿だった」


 昼食の購買で買ったメロンパンを口に詰め込んだ俺は席を立とうとするが忍田に腕を掴まれて引き止められた。お前に付き合っている暇はない。


「まっ、待つでござる! 戯言(ざれごと)ではないでござるよっ」


「どーだか。まずそいつが宇宙人だって証拠があるのかよ。ないだろ?」


 おっと。少しばかり大人気(おとなげ)なかったかな。でもこれで──


「ふっふっふ……。拙者が何の根拠もなしに言うとでも?」


「うん」


 忍田はおもむろに制服の内ポケットから手帳を取り出すとページを捲り何かを探し始める。

 こいつは将来、ギャルゲーでいう主人公の親友キャラの立ち位置にでも就きたいのだろうか。絶対に頼りたくはないが。ろくな情報持ってなさそうだし。


「拙者の広大な交友関係から成る情報によると……だから痛いでござる! 何か不満でも?」


「その友達多いですアピールやめろ」


 言葉というのは時に無意識に他人の心を抉るのだ。忍田は少し思案気な表情をした後にやれやれといった感じで口を開いた。


「つまり拙者が面駅殿の思っている以上に交友関係を広げていて寂しくなったのでござろう? 大丈夫、面駅殿は初めての友人。拙者にとっては他の友人よりも少しばかり特別な存在でござる」


 そういう意味で言ったつもりはないのだが。でもそう言われて悪い気はしない。いつの間にか俺も忍田(こいつ)のことを友人だと思っていたんだな。…ほんの少しだけな。ほんの、少し。


 そんな俺の気など知る由もない忍田は咳をしてから、らしくもない真面目な表情を作った。


「気を取り直して……拙者の情報によると名前はクリスティーネ・ハーシェル。表向きには(、、、、、)生粋の独逸(ドイツ)人の女子生徒だそうでござる。立場上は二年なのでござるが交換留学によって今年からこの学園に来た故、この学園の在籍日数は一年の拙者らと変わらないのでござるよ」


 外人か。そりゃあ生徒たちの目に止まるわけだ。中二病患者からすれば外人ってだけで『他にはない特別なステータス』の一つになりうるわけだし。ただ──


「宇宙人と外国人はな、全くの別物なんだぞ?」


「そんな可哀想なものを見る目でこちらを見ないで欲しい……ていうか拙者はそこまで阿呆じゃないでござるよ!」


 無自覚のやつほど怖いものはないな。特にこの前、昼休みに教室で納豆ご飯を食べ始めたときはどうしようかと思ったぞ。


「まあ、以上がクリスティーネという生徒についてわかっていることなのでござる」


「なんだよ、そいつについての情報全然ないじゃん」


 その気になればすぐに手に入るような情報だけ。たかがこんな情報のために時間を割いたのかと思うと何だかやるせない気持ちになってくる。だから、


「宇宙人だからでござるよ」


 そんな得意げな顔で話すな。


「要領を得ないな。何でそいつが宇宙人だと情報を得られないんだ?」


 情報規制がなされている、とか? いいや、それは余りにも突拍子のない話だ。

 少し考えるために斜め上へと向けていた視線を忍田に戻すと事情を語りだした。


「言葉が通じないから意思疎通ができないのでござる。先生曰く、『独逸(ドイツ)語でも英語でも伊太利亜(イタリア)語でも西班牙(スペイン)語でもない。ちゃんとしたところで調べてもらったところ、そもそも地球上に存在する言語ではないようでな。我々もこんなことは初めてだ』だ、そうで」


 そいつが本当に宇宙人だということはないだろう。全くのゼロではないにしてもそんな確率は天文学的すぎる。


 ……ということはまさか。いやありえないだろう。でも、宇宙人だと言われるよりはよっぽど可能性はある。俺の脳内に一つの答えが確かな輪郭を型どった。


 そう、もしも彼女が──


「存在しない言語を一から作り上げるほどの中二病だったなら……」


 言葉にしてみると、やはり突拍子がなさすぎる。


「言語を? 急に何を言い出すかと思えば、言葉というのは最初からあるものであって人に作れるものではないでござるよ」


「………………」


 俺はその後もその生徒のことが頭から離れず、あっという間に昼休みが過ぎていった。


         ☆


「面駅殿帰るで……ってそっちに昇降口はないでござるよ?」


 昇降口へ通じる廊下を歩いていく忍田は俺が真逆の方向へと進もうとしているのを見て不思議そうにそう聞いてくる。


「ああ、授業で分からないところがあったから少し図書室で調べ物をしてから帰ろうと思ってな」


 それを聞いた忍田は不満気な顔をする。全く、寂しがり屋はどっちだか。


「また明日でござる」


「じゃあな」


 忍田と別れた後、俺は図書室へと向かった。小さく図書室と書かれた標識を確認した俺は扉を開ける。


「何度見ても凄いな」


 目の前には左右、更には上にも本、本、本。見渡す限りに存在する膨大な本の数。

 普通の図書室の数倍はあろうかというこの秘密結社学園の図書室はその圧倒的な冊数の本に加え、ライトノベルから黒魔術の本という幅広い種類の本を内包している大規模な作りとなっている。


 当初は国がこの学園の生徒たちの勉強離れに対する対策の一環として本を読ませようと援助したのが始まりなのだが、国は金だけを援助してそれ以外を学園側に一任してしまったらしい。その結果、ここまでのジャンルの偏りを生んでしまったというわけだ。

 まあ、ここでしか読めない本もあるから俺はこの図書室に別段不満はない。


 ホームルームが終わってからすぐに向かったはずなのだが、やはりこの部屋は中二病患者たちにとって魅力的な場所のようで少なくない数の生徒が見受けられる。


「こんにちは」


「うわっ、って千埜(ちの)先輩でしたか」


「Yes」


 突然、覇気のない平坦な声で喋りかけてきたのは三年の千埜(ちの)(あわい)先輩。見た目は眼鏡に三つ編みというザ・文学少女だが、その正体はこの学園の中でも生徒会役員の次に発言力を持つ秘密結社学園委員長の一角、図書委員長だそうだ。


 正直なところ凄さはあまり伝わらないのだが、どの委員長も漫画やラノベの物語にいれば主人公、ヒロインになれるほどキャラが濃いことは間違いないだろう。


 閑話休題(それはさておき)


「今日はどんなご要件でしょうか? 知りたい情報があるなら教えますが」


 そう、今の問いかけ通り彼女は知りたい情報があれば何でも答えてくれる、さしずめ人間大辞典といったところか。だが、図書委員長にまで上り詰めた彼女の本領はこんなもではない。


「次のテストの山ですか? それとも好きな女の子の好みですか?」


 彼女が言う『情報』にはこの学園のことも入っている。それは生徒たちの誕生日から好きな食べ物、好きな人まで。挙句の果てには住所や家族構成まで知ってるらしいのだが、流石にそれは漏らさないだろう。

 そして、ここまでの情報量を彼女が得られたのは(ひとえ)に彼女の能力、『嘘つきは死の始まり(オネスト)』の力にほかならない。


 『嘘つきは死の始まり(オネスト)』。


 能力を最も単純に分けるとするならば『戦闘系』と『非戦闘系』の二つ。そうした場合彼女の能力はこの学園の非戦闘系能力者の中で五本の指に入るだろう。


 なにせ彼女の能力は『千埜淡に対して一切の嘘がつけなくなる』というものなのだから。


 知り合って間もない頃の俺は彼女がロボットを彷彿(ほうふつ)させるほど感情の起伏が少なかった為、能力もてっきり『冷徹(クールビューティー)』とか『精密動作(ディテール)』あたりじゃないかと思っていたのだが聞いてみたら全然違った。まだまだ勉強不足だということだ。


「今回はただ本を借りに来ただけです」


「そうですか、残念です」


 そう伝えると、残念、なんて微塵(みじん)も感じていなさそうな無表情でそう口にする。確かに忍田から聞いた留学生についての話を聞くという選択肢もあった。けれど、それをしなかったのは──


「対価、が必要なんですよね?」


「Yes、何かしらの情報が得たいのであればそれに見合った対価が必要になります」


 彼女にとって『情報』とはそれだけ重きを置くものなのだろう。忍田のように聞いてもいないのにどんどん喋るのは三流ということか。


「私のスリーサイズが知りたいのでしたら対価は臓器、またはそれと同価値のものです」


「教える気ないですよね⁉︎」


 ……別に対価が軽かったら教えてもらいたかったとか考えてないけどね。


「コホン、教えて欲しかったのはわかりますが図書室ではお静かに」


 千埜先輩は相変わらずの無表情だけど周囲の目が痛い。俺は逃げるように本を探しにいった。

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