新選組総帥・土方歳三2
そしてまた土方さんと俺の刀が激突する。
普通はここで力比べになるが、俺達はどうにもそうはいかないらしい。
べっ! と吐く土方さんのツバを回避し、俺は股間を蹴り上げる。しかし、上げた右足で防がれ、俺はそのまま体勢を崩すフリをして足首を狙う――と、見せかけてツバメ返しをくらわせる。
「つえぁ!」
「くっ!」
頬を斬り、血が飛ぶ。
しかし、伸びきった俺の身体にスキが生まれる。
「これを待っていた」
「ぐは!」
アゴに一撃入れられ、脳が揺れて意識が一瞬飛ぶ。
同時に、無数の斬撃を浴びた――が、素手でそれを白刃取りし、土方さんの腹を斬る。
互いに互いの刃を持つ二人は右と左の足で蹴り合い、最後にツバを飛ばして距離を取る。
「戦い方が邪道だなアオイ。一体、誰に仕込まれた?」
「これだけ同じ動きをしててどの口がそれを言う。生きる為に生まれた鬼の剣。まさになりふり構わぬ全身全霊の鬼に相応しき戦闘術」
「術とは大層なものだな。さて、そろそろ終幕に入るぞ」
「そうね。貴方達、新選組の終幕だわね!」
いきなり戦闘に介入してきたミツバは言う。
「ミツバちゃんは初っ端からいつでもクライマックスよ!」
「ミツバ! この戦いは一人で戦う。でなければ意味の無い戦いだ」
「向こうは今日はほとんど疲れてないし、人間の姿を手に入れてパワーアップしてる。こっちは連戦続きで疲労困憊。ならもう一回血を飲むしかないわよ」
「だが、それではミツバの命にかかわるかもしれん……」
そのミツバの提案に俺は迷う。
しかし土方さんは言う。
「いいぞ、飲め。その血を吸って真の血ート剣客になった貴様を倒す。それがこの国の民を支配するにあたり大きな影響を及ぼすだろう」
「アオイ。吸いなさい。勝つ為に」
そのミツバの覚悟を受け入れ、俺は再度血を飲んだ。
そして、異様な興奮と共に清流刀を構える。
意識を失うミツバをカツラ国王に任せ、俺は相棒に目の前の男に勝つ! と心で宣言した。
熱き氷と血ート剣客の最終幕が始まる。
凄まじい俺の刃を受けた土方さんは刀を胸の前で止め、切っ先を上に向けて構え瞳を閉じる。
「魔鏡封絶陣」
シュウィィィィン! と全方位を氷の鏡の空間にされた。
(一体、どれが本物でどれが氷の反射……)
完全に周囲は俺を無数に映し出す氷の鏡でしかない。
全ての方角から来る殺気に、どこから土方さんが来るかわからなくなる。
「ぐっ! ぐはっ!」
氷鏡を抜けるように、シャ!シャ!と入れ替わり立ち代り土方さんが俺を襲う。
(本体さえ見極めれば……)
その攻撃を受け、流し、致命傷にならぬ攻撃だけ受けながら必殺のカウンターを狙う。しかし、氷鏡の空間を支配する熱き氷の男の声が俺を絶望に誘うようにこだまする。
「どれが本体だか見極めてるのか? 迂闊だな! どれも本物だ!」
「!?」
氷鏡に写る土方さんは全方位から飛び出し、攻撃を行った!
数多の刃を受け、俺は膾斬りにされる。
「まだ死なんか。血ート剣客とはタフなものだな」
「俺は血を流せば流すほど強くなる血ート剣客。死ぬのは貴方だ土方歳三!」
「言うではないか。貴様の力にも限界はあるはず。そこまで持つかな?」
「その前に殺る!」
その刹那――土方さんの瞳が怪しく輝く。
「貴様の死角は、全て見える」
キキキキキキッ! と何本もの氷柱が、俺の周囲に突き刺さる。
その俺の死角に刺さる氷柱は的を得ていて、俺はそれに絶句した。
「フン、その程度で思考が止まるか。鈍ったなアオイ」
悪鬼の如く、土方さんは俺に迫る――。
それに、反射的に刃を繰り出した。
死角を突かれて一瞬、遅れはしたが斬撃を浴びるまでにはいかない。
スパッ! と死の刀の振り抜きが土方さんを斬った!
横一文字になる土方さんの顔が、ガラスのようにヒビが入る……。
「な! 何故だ!? 俺の刃は反応が遅れただけで、互いの刃がぶつかる結果になるはず……それが何故ー」
「言ったろう? 鈍ったなアオイ……と」
「!?」
本物の土方さんは俺の背後に現れた。
目の前の土方さんは写し鏡になる氷のガラス板だった。
ザシュ! と背中を斬られ、俺は吹き飛んだ。
周囲の冷気が妖気として土方さんの和泉守兼定に収束する。
「……全く、貴方は裏の裏をかくから戦いずらくて仕方ない。沖田さんや永倉さんのように正攻法で来てくれると助かるのだがな」
「背を斬られた言い訳にしてはつまらんな。士道不覚悟だぞアオイ」
「もう新選組は無い。俺にあるのは心の底に秘めた誠のみ。隊規を持ち出すのはお門違いだ」
「新選組はある。この異世界バクーフにて復活する。貴様とてその新選組の羽織を着て戦っているではないか」
土方さんは俺が決戦の時にのみ着る浅葱色のダンダラ羽織について言う。
……確かにそうかもしれない。
どこかで新選組が復活し、まだ任務をこなしたいと言う気持ちはある。
不条理な世界で生き抜く力を与えられ、俺を成長させてくれたのは他ならぬ新選組だから……。
しかし、俺は異世界血ート剣客。
このバクーフ大陸の争い事を解決し、貢献する最強の男。組織ではなく個人としての大義で、誠で動いている。
それに新しい仲間や相棒もいる。
この絆は過去の栄光の為に捨てるわけにはいかない!
「俺は異世界血ート剣客アオイ・コウケン! 俺の誠によってこの異世界バクーフを混乱に陥れる新選組を倒す!」
その俺の名乗りに、土方さんは笑いながら言う。
「ハーッハッハ! いい返事だ。そう、貴様は貴様の誠を通せ。もうあの徳川幕府終焉の時代では無い……好きに生きろアオイ!」
「……!」
どうやら、土方さんは俺の誠を試していたのか……。本当に鬼の副長は人が悪く出来ている。他人の心をどうにかして垣間見る術を知っている。故に、俺はこの人を越えなければならない。
「土方さん。これから俺の全てを迷い無く貴方にぶつける。そして、俺はここで元の世界での約束通り貴方を超える」
「来いアオイ! 貴様の心を、身体を、全てを斬ってやる!」
その土方さんは魔鏡封絶陣を全快にして襲いかかってこようとする。
魔鏡封絶陣の本質を見切った俺は言う。
「氷の剣や肉体は実体としてあっても、そのどれかは本体だ。言葉だけには惑わされん。これが俺の血ート剣客としての技――」
この閉鎖された空間の全てを薙ぎ払う空間奥義。
多勢に無勢とて吹き飛ばす、俺のオリジナルの清流鬼神流――。
それに鬼は驚く。
「血の……桜だと?」
サアァァァァ……と赤い血の桜が氷鏡の空間を包む。
その血桜は俺の刀の振りと共に土方さんに注がれる。
カッ! と目を見開き上空に舞い上がる俺は叫ぶ!
「清流鬼神流・血桜雪月花!」
血を桜に変える全方位攻撃が決まった。
魔鏡封絶陣は全て砕け、土方さんは倒れた。
俺は血ート剣客モードから元に戻り、髪が赤から青になる。
その新選組総帥は、呼吸困難になりながらも言う。
この百鬼夜行を起こした理由を。
「……大人と言うのは、少しずつ夢を削りながら前に進んでいるが、夢の途中での死は辛いだろう……俺は、転生した事でかつて思っていた国を支配したいという欲にとりつかれた……それがこの百鬼夜行の全てだ」
「そうでござるか……。転生した時の衝撃が欲を暴走させた。やはり転生を行っている人物の罠……」
「かもしれんな」
瞬時に、悪鬼になる土方殿は拙者の背後にいた。
それに気を失っていたミツバは反応するでござる。
「アオイ! 後ろ!」
「くっ!」
ギリギリの所で攻撃を回避するが、清流刀を手放してしまう。
そして土方殿の捨て身の一撃が迫る――。
瞬間、桃色の天使の声が、拙者を包み込む。
「アオイ! 退魔の剣――」
「そうか! うおおおおおおっ!」
腰にあるミツバから貰っていた退魔の剣をつかむ。
すると土方殿は――。
「何やら嫌な反応はその刀か――だが勝つのは俺だ!」
「隙を生じぬ二段構えは貴方から教わった事だ! 消えろーーーーっ!」
拙者は新選組の霊体に対する対処法として渡されていた長ドスである、退魔の剣による一撃を叩き込んだ!これにより、土方殿の最後の一撃は不発に終わるでござる。そして拙者は言う。
「霊体に頼るという事は、人間の身体に戻ったのは一時的でござるな。おそらく、クリスタルの力を使えたのは一時的だけだった」
「一つだけのクリスタルでは、完璧な人間にはなれんのか!? ……強くなったなアオイ。俺の負けだ」
「恐ろしい敵とは、強き者ではない。心の折れぬ弱者だ」
「……」
「と、昔の土方殿は言っていたでござるよ」
フッ……と土方殿は笑い、戦いは完全に終わった。
そして、拙者は新選組を転生させ、その欲を暴走させるキッカケを与えた人物などについて話す。
「おそらく復活は出来るはず。拙者には出来ないが、誰かはやろうとしていたわけだから……」
おそらく犯人は拙者をこのバクーフ大陸に転生させた人物。その人物を探すのは困難だろうが、おそらくはいずれ尻尾を出すでごさろう。唯一、成功した転生者である拙者をどこかで見ているはずだから……。
「……貴様が変わって無くて安心した。俺達を輪廻転生させた奴を見つけ出し、早々に始末しろ。でないと、この異世界バクーフは終わる」
「わかったでござる。これにて、新選組・百鬼夜行の解決でござるな。ほーほー」
ミツバに抱きつかれ、拙者は張り詰めていた気を解放したでござる。
そして、土方殿は粒子となり消える。
これにて新選組百鬼夜行は終わりでござる。
ほーほー。




