新選組二番隊組長・永倉新八との死闘
数度の剣をぶつけ合い、拙者は永倉殿の額を斬る。
その際、微かに斬られた頬の血をペロリ……と舐めて言う。
「これは、これはガム新殿。これから拙者はクリスタルを探しに行くでござるよ。そこをどいてもらいたい」
「これだけ殺し合ってて、クソみてーな芝居してんじゃねーぞアオイ。土方さんがクリスタルを探してるんだ。邪魔をするなよ」
「すでに新選組は存在しない。もう、拙者を縛るものは無く、自由でござる。拙者この世界に貢献する為に働く。今の新選組のやろうとしている事はかつてのような私利私欲の無い大義あるものではない。そこに誠は無いでござるよ」
「言ってくれるじゃねぇかアオイ。ならば話しは早い。斬り合うしかねぇな」
スッ……とくわえている草を噛みつつ、永倉殿は刀を構える。
それに呼応するように拙者も刀を青眼に構えた。
相手の状態は後、半日は途切れぬであろう鬼の妖気を引き出す百鬼夜行の状態。
霊体である新選組は今、ほぼ生身である為、絶対に倒さねば前には進めない。
まだ、どこにいるかわからぬ沖田殿や土方殿の事を考えると、これからは決死の三連戦になるでござる。
「出し惜しみはしてられぬな……」
拙者はこのミツバの居ない状況が来る事を考えて、一つの依頼をしていた。
それはミツバ無しで血ートになれる事。
魔法のカプセルにミツバの濃縮した血液を入れ、それを飲み込む。生き血を首から吸うのとは違い、完全な血ート剣客モードにはなれぬが、それでも五割ほどのパワーは出る。ミツバには何度か注射をして、血を抜いて貰わねばならぬので痛い思いをさせてしまうが心苦しいが、この世界の平和の為に拙者の頼れる相棒として協力してもらうでござるよ。
そして、血のカプセルである〈ブラッドカプセル〉を懐から取り出す。
不審な顔をする、永倉殿は、
「何だそれは? 爆弾……にしては小さいな」
「これはブラッドカプセル。拙者の相棒、ミツバの血が濃縮された魔法のカプセルでござる」
パクッ! と拙者はそれを飲み込んだ。
瞬間、永倉殿は一気に迫る。
「ガアアアアアムッ!」
キンキンキンッ! と青い髪のままの拙者は応対した。嵐のような斬撃の後、スッ……と拙者の髪が赤くなり、くわえていた草を斬られた永倉殿は飛び下がる。血ート剣客モードになる拙者は言う。
「永倉さん。随分と焦って攻撃してきたんじゃないか? 自分の百鬼夜行モードがこの血ート剣客モードに勝てる自信が無いのか? それとも、俺を……アオイ・コウケンを恐れてるのか?」
ベッと唾を吐く永倉さんは言う。
「だいぶ口が達者になったなアオイ。この世界に来て浮かれてるんじゃねぇのか?」
「そうかもな。俺は強くなり過ぎて浮かれてるのかも知れん。今なら、一人で元の時代の官軍の全てを壊滅させられそうだからな」
「言うねぇ。確かに、この世界の魔法や妖術は大砲や鉄砲以上のものを感じる。これを元々の剣技に加えると、さらなる力を得られる優れものだ……」
「……!?」
これは……この構えは、北辰一刀流・鶺鴒の尾。
しかし、この前の戦いで鶺鴒の尾はあらかた見抜いた。
ならばあれはフェイクである……なら! こちらから攻めるのみ!
『うおおおおおおおおおおおっ!!!』
拙者と長倉殿は嵐のように剣をぶつけ合う。
とうとう永倉とのラストバトルでござるな。
赤い妖気を増幅させる永倉殿は自身の血を蒸発させるように激しく動く。
「流石は百鬼夜行の力! この前とは明らかに違うでござるな!」
「たりめーだアオイ! お前が守りたい国王とクリスタルまでは、俺達を倒さないとならねぇぜ。この先には沖田が居る。つまり、俺を倒してもまだ地獄は続くんだぜ?」
「そんな事は知っている! だが! それすら楽しいのは貴方も知ってるはずだ!」
「そーだな戦闘狂!」
激烈としか言いようの無い互いの剣。
異世界だからか、ぶつかり合う剣から暴風が発生し王の間がギシギシという音を立てて軋み、細かい石の破片が転がる。そして、互いの突きが互いの肩に炸裂し、背後の壁に同時に激突した。それでも笑っている永倉さんは言う。
「お前との最後の大戦は鳥羽伏見だったか……」
「そうだな。あそこが貴方との最後の戦歴だ」
「鳥羽伏見の戦い……あれは凄かったな。お前も俺の決死隊に居て大活躍した。お互い、あの時はよく生きていたもんだぜ。銃弾に突っ込んで行く事で敵を牽制して倒してたからな……あれはもうしたくねーぜ」
「確かにそうだな。あの時は凄かった……。まさか刀槍が中心の戦いが大砲と鉄砲主体になるとは思わなかったからな。戦国の世は鉄砲が主体の戦が多くあったようだが、刀と槍の出番が消える事は無かった。しかし……鳥羽伏見の戦いからは鉄砲が進化し、鉄砲さえあれば十分な戦いが出来るようになってしまった。時代の変革……というやつがあの場所から発生し、幕軍の敗走が始まった……」
互いは、元の世界の過去の話で盛り上がる。
そして永倉さんは、
「土方さんぐらいだったな。次はこっちも最新式の鉄砲でやってやるさ! と笑っていた人間は」
「そうだな。こっちは笑えなかったが……いや、俺だけではなく幕軍のほぼ全ての人間がな。全ての常識を壊された戦が鳥羽伏見の戦いだった。敵は洋服で鉄砲。こっちは和服に刀と槍。攘夷、攘夷と外人を相手にしてたのに、いつの間にか同じ国の人間が洋服にザンギリ頭だ。不思議なもんだったぜ」
「土方さんはあの後、すぐに髪を外人のようにし、洋服に衣装を改めて銃を腰に持つようになった。あの人は、利益と見ればすぐに受け入れる許容力があるから恐ろしい。俺にはどうてい無理な話だったから、よく馬鹿にされたものだ」
「ははっ! そうだったのか。江戸で別れて以降は細かい事は知らんからな。昔語りは面白い……だが!」
ズゴンッ! と地面の床を切り裂く永倉さんは言う。
「今は殺し合いの最中だ。殺すぞアオイ」
「死ぬのは貴方だ。永倉新八」
ハハハッ! と笑う永倉さんは妖気を全快にし、
「なら、俺のこの世界で得た大地の力を見せてやるよ!」
「!?」
「地雷閃!」
ズゴオオオッ! と地面が割れ、俺の足元に迫る。
バッ! と横に移動し、それを回避すると、
「地雷奈落!」
シュワ! とその地面を伝う衝撃波が真上に飛び、天井を崩落させた。
その岩の群れに、妖気を流し込みそれは俺に襲いかかる。
「うおおおおっ! 清流鬼神流・無明朝夜」
スウウウッ……と俺は流水のような滑らかさでその岩の群れを回避する。
「回避先は俺の読み通りだなアオイ」
「!? ぐっ!」
ズバッ! と胸を斬られる。
そして永倉さんは地面の石を妖気の力で剣に纏わせた。
真っ赤に目が充血する悪鬼の一撃は最後の審判かのように放たれた!
「ガムガムガアァァァム!」
コンクリートを纏う剣が嵐のような斬激として迫る!
(――これは全て斬るしかあるまい!)
全快の力で、俺もその嵐に真正面から対抗する。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
ズバババババババッ! と千手観音ですら驚くような幾重もの剣がぶつかり合い、空間に鼓膜が破れるほどの金属音が響く。互いに相手を始末する事しか考えぬ、至高の状態にある戦いの行方は――。
「俺の勝ちだーーー! アオイーーーっ!」
「勝ちは譲れん! 俺は異世界血ート剣客だからな!」
ズバッ! と刃が一閃し血が吹き出る。
一手……たった一手を先に決めた俺は、永倉さんに勝った。
腹部を斬られ、口から血を吹き出す永倉さんは、
「お前……あえて冷静にならずに手数をかけていたな?」
「あぁ、永倉さんはガムシャラな打ち合いで負ければ完全に負けを認めてくれないだろうからな」
「それはどうかな?」
すでに敗北である致命傷を負う永倉さんは動いた。
その瞬間、俺はすでに技を発動させていた。
「清流鬼神流・華厳の刺龍!」
必殺の突き技で完全にとどめを刺そうとした。
しかし、永倉さんは止める。
「へっ……突きは軌道が読みやすいんだよ」
その言葉に返答しない俺は、一言呟く。
「……烈破!」
華厳の刺龍からのドリルのような回転での烈破で永倉さんを倒した。
胸に風穴が空く永倉さんは目の赤みが消え出す。
「これで完全に勝ったな。ガムシャラさでも」
「へっ、いい答えだぜ。この打ち合いで負けた以上、俺はもう戦わん……」
バタ……と永倉さんは倒れた。
その顔は、百鬼夜行モードから解放され、安らかだった。
身体はサアアアアッ……と霊体となり消える。
「さて、先を急ぐか」
俺はクリスタルがあるであろう王宮の奥へ進む。




