スザク王国を襲う百鬼夜行
新選組隊士は浅葱色のダンダラ羽織を揺らし、スザク王国に転移したでござる。
突然の新選組隊士の出現に、スザク王国の城下街は騒然とした。
本来、ワープなどの転移は出来ないはずのこの魔法王国に転移出来たのは、以前に奇襲した際に設置した特殊なゲートによるものでござった。隊士達は一様に目が赤く充血し、妖気が異様に満ちだしていた。その殺人集団の総帥である土方殿は、白と黒のダンダラ羽織姿で先頭に立ち、愛刀である和泉守兼定を天にかざし言う。
「百鬼夜行だ! 大義の為にまかり通る!」
百鬼夜行――。
それは百の妖怪の群れの行列では無く、新選組隊士が鬼となり進む鬼人の群れだった。死んだ妖怪の妖気を体内に宿し、妖怪の生き血を吸う事によって鬼と化す。その強大な力で、全てを蹴散らし進む死を貪る行列――それが百鬼夜行の正体でござった。
無言の鬼達は住民を虐殺しつつ、スザク城へ向かう。
そして、その死の群れに対抗するべく訓練していたスザク王国魔法騎士団は飛ぶが如く動く。
前回の奇襲時のように一気には攻められず、防戦のみを意識するスザク王国は鬼となる新選組隊士には簡単には倒されないでござるな。しかし、時間が経てばこの防御陣形も崩れ去るでござろう。その瞬間、青白い光と共に拙者とミツバはスザク王国に転移したでござる。
「着いた! 百鬼夜行は始まっているでござる! 急ぐでござるよ!」
「結構ハデにやってくれてるわね! 行くわよ!」
その戦いが起こる最前線に拙者とミツバは向かう。
美しい城下街が酷く破壊され、火が上がり黒煙が空間の視界を消し状況は更に混乱する。
城に居るカツラ国王は戦況を眺めているでござる。
ならば、まだ城内への浸入は無いか……。
「百鬼夜行……恐ろしいものででござるな……」
恐るべき死を恐れぬ妖怪の行軍・百鬼夜行。
本来ならば妖怪が行う事を霊体である新選組が行っている。これは人と妖怪が混じった力が出ているので、かなり異質な力を発揮しているでござるな……ハッキリ言って、このスザク王国の魔法騎士団ではどうにもなるまい……しかし、戦わねばこの国は滅びる。
「ミツバ! 翔ぶが如く駆けるでござる! この国の平和に貢献する為には、拙者が新選組総帥・土方歳三を倒すしかない!」
「オッケー! じゃあ、あの大混乱の渦の中に飛び込みましょー! フォー!」
「その気持ちで行くでござるよ!」
新選組は統率の取れた動きを無駄なくしているでござる。
土方殿の部隊が左、永倉殿の部隊が右ときて正面。そして沖田殿の部隊が背後をつき駆逐する――。
この縦横無尽の動きは蝦夷地にて官軍が散々悩まされた戦法。冷静に、現れた敵を駆逐すればそれが囮であって本隊では無いとわかるが、生き死のかかる戦場で死に物狂いで来られると狼狽し、どうにもならない。
くわえて、無言で攻めて来る為に声を出している時より敵の戦力を計る事が出来ず、やがて現れる本隊に潰される人の性質を見抜いた鬼の戦法。京都時代から人間とは臆病ですぐに楽な方へ逃げるという事を知り抜いて考えた局中法度を考案した人物だからこそとれる戦の仕方でござった。
百鬼の力の相手では、スザク魔法騎士団でもどうにもならぬか……。
新選組は前回の城攻めとは違い、無言で攻めている。
これは百鬼夜行の力のせいでは無く、戦術の鬼才戦法でござる。
実際にそれをやった拙者は幕末の蝦夷地での戦いを思い出す。
「これは蝦夷地で官軍をさんざん悩ませた拙者がよく行った無言奇襲……逆にやられるとこうも何も出来なくなるとは」
今度は沖田殿の部隊の勢いで消えていた土方隊が左から現れた。
しかし、冷静に対処すればいいがそうもいかないでござる。
「本当に……敵にはしたくない男でござるよ」
拙者は総大将などになれる才は無く、沖田総司殿のように自分の剣のみを強くする一介の兵。どんなに足掻いてもあの人のように戦術などの作戦事では勝てない。だからこそ、最強の敵を倒してこの戦を終わらせるしかないでござる。そして鬼の群れはスザク魔法騎士団の中央を突破しだす。
『……!!!』
『うわあああっ!』
次々に魔法王国騎士団は崩れ去る。
その部隊の頭であるロコは何とか持ち堪えさせる。
拙者はスザク王国城下街の騒乱を民家の屋根の上から一望する。
「到着……したでござる」
「行くわよアオイ!」
「おうでござる!」
拙者とミツバは両軍入り乱れる戦場へ介入する。恐るべき妖気を放つ百鬼夜行モードの新選組隊士を倒すが、中々倒れない。ミツバはすでにまともな魔法では倒せないと気付き、城へ進行する足止めをする為に爆発系魔法で足を狙い足止めをしているでござる。
城門前で崩れるスザク魔法騎士団を指揮をするロコは叫ぶ。新選組の百鬼夜行の勢いは凄まじく、あれから覚悟がついた人間達でも気圧される勢いが新選組にはあったでござる。やはり、絶対的な存在に統率され訓練された集団の力は、百万の軍勢に匹敵するでござるな。
「うおおおおおおおっ!」
ロコに迫る敵を倒し、拙者は更に襲いかかる新選組隊士を華厳の刺龍で突き刺し言う。
「ロコ! 攻めるでござる! 城の一部が占拠されても敵の数は多くは無い! とにかく数の力で押して、押して、押しまくれ! これ以上防戦になったら新選組の思うツボでござる!」
魔法攻撃が炸裂するが、新選組隊士は死に物狂いで駆ける。
やはり鳥羽伏見の戦いを思い出すでござるな……その時は拙者はあちら側だったが……。
すると、ミツバが氷結魔法で壁を作り、一時的に新選組隊士の進行を妨害するでござる。
「アオイ! 先に行って! アレがあれば最悪なんとかなるでしょ? こっちもそれなりに盛り返したらすぐに駆けつけるわ!」
「ミツバ……すまぬ」
「なーに、ミツバちゃんはアオイの相棒だかんね。こんな所じゃ死なないよ!」
「当然でござる。ミツバも、スザク魔法騎士団も弱くは無い。ここは任せる!」
『オオーーー!』
拙者の任せる! の一言で士気が上がったようでござる。
そしてロコとミツバの決死隊が新選組隊士と激突する。双方激しい戦いになるが、確実に数人の隊士は城へ進行してしまっている者がいるでござる。これは急いでカツラ国王に会い、魔力秘宝クリスタルを守らねばならぬ。城門を潜り抜け、城の内部に入ろうとすると、一人の巨漢な新選組隊士が拙者を待ち構えていたでござる。それは新選組の中でも最高の肉体と、腕力を備えた相撲取りをも凌ぐ豪胆な伍長。新選組創設から蝦夷地までの黄金期から消滅まで、新選組の栄光と挫折を知る数少ない隊士――。
「これは、これは島田殿。貴方も転生していたか」
「あぁ、俺は伍長として別働隊だったからな。一応、初めの出会いで後ろの方にいたんだぞ?」
「それは失礼。にしても、相変わらずの巨漢でござるな。その肉を斬るのは骨が折れそうでござる」
「アオイ。お前と俺ならお前の方が強いのはわかる。しかし、時間稼ぎならこの自慢の肉体で倒れなければ時間稼ぎは出来る。全ては土方総帥がクリスタルを手に入れ、この霊体から人間の肉体を手に入れ、この世界を支配する為に俺はここに居る。地獄の門番との一騎打ちを楽しもうではないかアオイ」
「ほーほー。新選組に支配は似合わぬ。正気に戻ってもらうでござるよ島田殿」
拙者と島田魁殿の戦いが始まった。
その島田殿の剣は巨漢を活かした力押しの斬撃。動きが鈍いかと初見では思うが、京都時代から蝦夷地までの死闘を生き残って来た百戦錬磨の男。拙者のスピードには翻弄されぬようでござる。
そして動き回る拙者に、島田殿は腰を捻りながら刃を繰り出した。
「死ねアオイ!」
「力押しには乗らぬ」
ググッ……と互いは力押しになった。
ここで引いて、次の攻撃に出るのは読まれているでござる。
ならば……!
その島田殿の声に拙者は微笑む。
「力押しには乗らぬと言いつつ、力押しで来る。やはり異世界においてもアオイはアオイか」
「それを言うならば、異世界においても新選組は新選組でござろう?」
「……それは、総帥に聞いてくれ。ではさらばだ……」
「あぁ、そうさせてもらうでござる」
身体を風車のように回転させる島田殿は凄まじい妖気を放つ。
そしてそれは渦となり、一気に迫って来たでござる!
「巨漢爆重!・島田大車輪!」
「清流鬼神流・鋼鉄岩壁!」
巨大な風車と地面の岩が激突し、二人は距離を取る。
そして拙者はこの百鬼を行う為の妖気を得る為に殺した妖怪の事を思い、聞く。
「この百鬼夜光を行う為にどこの妖怪を殺したでござる?」
「殺したのは人間に謀反を起こそうとしていたぬらりひょんの仲間。死んでも都合がいいだろう?」
「そういう問題ではござらん!」
拙者は高速で斬り込む。
それに島田殿は刀を凪ぎ言う。
「家畜のように扱ってやるわ!」
「そうでござるか」
ズバッ……という斬撃で拙者は斬られる――が、それは残像でござる。
しかし島田殿は目で本体を追っていた。
「背後かアオイ――」
そして背後に突きが繰り出される。
その島田殿の背後に立つ拙者は言う。
「それは残像でござる」
「バカめ――俺も残像だ!」
「!? 何!?」
何と! 頭上から、島田大車輪が迫ってきていたでござる!
カッ! と目を見開く拙者は腰を捻る。
『オオオオオオッ!』
二人の気迫の声が重なり――。
「巨漢爆重!・島田大車輪!」
「清流鬼神流・螺旋斬!」
ズガガガガガッ! と拙者も遠心力のついた車輪のように回転し、島田殿を螺旋斬の力押しで倒したでござる。仰向けに倒れる島田殿は言う。
「アオイ……やはりお前は、不思議な男だ」
「島田伍長。御勤めご苦労様でござる。貴方が残像を出すとは思いもしなかったでござる。この先の新選組は、拙者に任せるでござるよ」
「あぁ……頼む」
島田殿はサアアアッ……と粒子となり消滅した。
そして拙者はスザク城内部に進入した。
すでに新選組隊士はスザク城内部にも進入し、城の内部を物色しているでござるな。
ここまで手引きしたのはおそらくザキヤマ。
もう戦う力は無いでござろうが、監察方としての責務は果たしたか……やはりあの男は好かぬ奴でござるな。
「つえぁ! はああああっ! せいっ!」
待ち受ける新選組隊士を倒し、王の間の奥に辿り着いたでござる。
そこには新選組二番隊組長・永倉新八殿が居た。
「すでに、沖田と土方総帥はクリスタルがあるというこの奥の間に向かった。行きたければ俺を倒さねばならん。この前の決着をつけるぞアオイ」
「当然でござる。このアオイ・コウケン。誰にも負けるつもりは無い」
チャキ……と清流刀を構え、拙者は新選組二番隊組長・永倉新八殿との死闘に入った。




