アオイの過去2
土方殿に認められた拙者はまず、この人の付き人である小姓になる事になったでござる!
これで新選組に葵光剣も貢献出来るでござるよ!
やったでござる!!!
「では、拙者にも天然理心流を教えて頂けるでござるな! やったでござるよ!」
これで拙者も新選組の主流派になれる!
必死に努力し、絶対に新選組に貢献してみせるでござるよ!
「阿呆が。貴様など特別ではない」
すると、土方殿の声が拙者の喜びを壊す。
拙者を特別視しないと言う土方殿は言う。
「甘ったれるな。貴様に天然理心流を教える気などは無い」
「教える気がない?」
それは困る。
天然理心流とは新選組局長の流派であり、新選組の主流である。
なので拙者は天然理心流を学ばなければ、ならないのだが……。
「何故拙者には天然理心流を教えていただけぬ? 理由を知りたいでござる」
「残念ながら俺の天然理心流基本の型のみだ。実戦では気組みで押し、相手の気を萎縮させるぐらいしか使わない。実戦において、俺はどんな方法だろうが勝つ事しか考えていないからな。だから俺は天然理心流を教える事は出来ない」
「……」
拙者は、この人からは天然理心流を教えてもらえない……。
ならばどうする? 他の人に教えてもらうのか、他の流派を習うのか……!
すると、目の前の土方殿は怜悧な瞳で言うでござる。
「ただし、貴様は俺の流儀を教えてやる」
土方殿の戦いを見て、自分の戦いを編み出す。
それが土方歳三流を教わるという事らしい。
そして、拙者は土方歳三流を習う事になったでござる。
……と、さっきから近くで猫と戯れる赤い着物の女性が騒がしいでござるな。新選組の食事担当の仕事をしている人らしいが……ちと、やばそうでござるよ。まぁ、食事時にしか関わらぬから話す事もなかろう。
すると、土方殿は何やら気難しい顔を更に気難しくさせて言う。
「まずはこの女を紹介する。おい、そこで猫と戯れている女。早く来い」
「にゃにゃ! あーしの名前は桔梗だよ! ちゃーんと名前で呼んでね!」
すると、猫と戯れていた桔梗と呼ばれる赤い着物姿で、肩までの髪がちょっと乱れた摩訶不思議な女性がニャー!という格好を取り現れたでござる。
……何なのだろうこの女性は?
美人ではあるが、これは男は苦手でござろう。男だらけの新選組内部でも美人だが性格や行動を見て誰も手を出さなそうな女性である。
まさか、拙者はこの人と新選組の食事担当からでござるか?
土方殿はその桔梗という女性を拙者に紹介するでござる。
ニャー!という姿の桔梗殿に苛立ちを隠さない土方殿は言う。
「この女は実戦向きで面白い流派だ。飯炊きとして使っているが、実際は新選組の闇の武」
「闇の武……?」
どうやらこの桔梗という女性はとある流派の武芸者らしい。
こんな猫と戯れていた女性が……?
そして新選組の闇を司る闇の武に属しているらしい。
それは、新選組監察方の更に上を行く、全ての断罪を闇から処罰する仕置人。
土方殿の言葉一つで、翌日には隊士の誰かが始末されている闇の中の闇。
そして土方殿は言う。
「この桔梗の流派は戦国時代以前からあるらしい古流剣術・清流鬼神流。清流鬼神流とは、清流の如く心を研ぎ澄まし、刹那の瞬間に鬼神となり敵を打ち破る。同時に滅びの剣でもある」
「滅びの剣……」
「清流鬼神が滅びの剣と言うのは、一人の師が幾人かの才能ある剣士に伝承し、それは流れる水の如くたえず変化、枝分かれし、鬼神のような無数の使い手により様々な技が生まれては消える。常に死地にあり伝承者が消えれば終わる、完全なまでの滅びの剣。伝承者は数多くいても、その大半は戦闘における日々で死亡するからな」
「……」
ふと、拙者は思う。
「何故、土方殿が説明するでござる? 土方殿の流派ではないのに……」
「あの女は説明が苦手だからな。大体の事は自分で察しろ。あの姿を見ればわかるだろう?」
「……確かに」
拙者はまた猫と戯れる桔梗殿を見て全てを察した。この人が師匠になるならば、この人以上の野生を身に付けなければならない。そして、その猫と戯れる桔梗殿は赤猫を自分の胸元に入れて言う。
「土方君。そんな事を教えていいの? あーしは一人で十分なんだけど?」
「いいのさ。使えなければ斬ればいい。新選組の闇の武を知った以上葵の命は敵を殺し、生き残り続けなければならん。せいぜい励む事だな」
そうだ……。
新選組には鉄の掟がある。
隊規は一から五条まであり、第一条である〈士道に背くまじき事〉という法度は広い意味で使える為に死にゆく隊士は多い。そして、戦場で臆して後方に居て生き残っても、屯所にて刀の検分をされ働きが無いとして始末される。戦場に出たら、一にも二にも相手を殺し続けるしかない。それが新選組が最強の武士集団である証。
「……」
拙者は一つの覚悟をもう一度改めてし、桔梗という女性に言う。
「桔梗師匠。拙者は新選組最強の武士を目指す男。厳しく、時に優しく指導ご鞭撻願うでござる」
「にゃにゃ! 厳しく、時に優しく……か面白い事言うねあーた」
ニカッ! とキキョウ師匠は言う。
そして、一匹の赤猫を追いかけ走り去る。
溜息をつく土方殿は言う。
「追わなくていいのか? あの女は神出鬼没だぞ?」
「今の時間だと昼食の時間。なのにここにいるのは新選組の食事はすでに出来ているという事。あの様子ならおそらく猫の餌場にいるでござるよ」
「フン、奴を監察して推理したか。その洞察力を大事にしろ」
「はい。そして土方殿には聞きたい事があるでござる」
「何だ?」
土方殿の瞳が殺気立つ。
拙者の言葉をまるで読んでいたかのようでござる。
これは拙者の覚悟が気迫になって伝わったようでござるな。
「貴方を超えるには貴方より強くなれねばならぬ。故に貴方の技を知る必要があるでござるよ」
半年後、闇の武として一人前になり、生きていたらを問う。この人を越えねば、この生かされた命で貢献した事にはならなそうでござるからな。この土方歳三という男は、刺激過敏症であり、常に自分の計画を破壊する強者を求めている。それが戦術の鬼才の楽しみでもあるようだった。
「……貴様が生きていたらか。そうだな……」
考える土方殿は全身を脱力し瞳を閉じる。
腰を沈め、愛刀である和泉守兼定を一閃した。
拙者は瞬きも出来ず、口を開けたまま立ち尽くす。右の首筋に、和泉守兼定の刃が触れているでござる……。
その身動きの出来ぬ拙者を嘲笑うかのように、熱き氷の男は言う。
「俺の必殺の居合を教えてやる」
それを屋根の上から桔梗殿は眺めていたらしく、美しい顔で微笑んでいた。
まずは土方殿の身の回りの世話をする小姓になり、監察方見習いになった。
監察になれば、隊士の実情も把握出来るし町の情報も自分で調べられる事が出来て一石二鳥でござるよ。しかし、これはかなり忙しいでござるな!
「二つの仕事。これはかなりしんどいでござるな」
「忙しいなら寝るな。敵を始末し仕事を早く済ませればいいだけ」
と、土方殿は簡単に言う。
これは肉体勝負と精神勝負になるでござる。
この試練を乗り越えた先に、拙者の未来が待ち構えている。これに臆する事は出来ぬ!
そして、拙者は観察見習いとして山崎丞隊士の相棒になったでござる。この山崎丞……とても皮肉屋で口が悪く、拙者の天敵でござった。ほーほー……。




