スザク王国を奇襲する新選組
闇夜を駆ける剣士の群れにスザク城の城下町が新選組に攻められるでござる。
ババババッ! とスザク王国の城下町に浅葱色のダンダラ羽織の剣士が躍動し、スザク王国騎士団を駆逐して行く。
『オオオオオオッ!』
魔法王国騎士団は対抗するが蹴散らされる。
魔法と剣を駆使し戦っても、魔法を使う隙をつき一気に飛鳥の如く敵の懐に入り斬る。鉄砲を相手にする戦い方を幕末の戊辰戦争で熟知している新選組には剣なら剣、魔法なら魔法とどちらか一方にして攻撃しなければどの局面においても勝てぬであろう。
土方、沖田、永倉殿を組長として動いているであろう三組の少数精鋭のダンダラ羽織の群れは鮮やかに血の虹を描いて行く。
「拙者の近くにいる者は魔法に集中するでござる! 白兵では殺人専門家の新選組には勝ちようが無い!」
魔法剣士達を三列に分け、織田信長が実戦にて多大な功績を上げたとされる魔法版の三段撃ちを仕掛ける。前方にいた剣士達は爆発魔法で新選組を牽制しつつ全て城の前まで戻させ、その全員に盾を構えさせ守りを厚くする。
「敵とて不死身ではない! 集中して攻撃すれば必ず倒せるでござる! 怯まずに攻撃せよ!」
「そうロコ! 魔法隊、撃てーーーっ!」
勢いを取り戻した魔法騎士団はロコの合図で火炎魔法を撃つ。
新選組隊士達は激しい炎中で散る。
そこに遅れて来たミツバも駆けつけ、魔法の攻撃は更に激しさを増す。
「ミツバ、魔法隊は任せるでござる。もう少し落ち着いたら拙者はここを離れる」
「オッケー! 一気に行くわよ! フォーーー!」
ズバババッ! とミツバのマグマドラグーンがスザク王国城下街を飛翔した。
その中で、拙者は感じるものがあったでござる。
「……元の世界での官軍との戦いを思い出すでござるな。まさか拙者が白兵の側にいないとは……」
幕末の戦場を思い出し、拙者は歯軋りした。
こういう状況は皮肉でござるな。
そして、拙者は魔法騎士団団長・ろくろ首のロコにその場を任せ、移動する。
「ロコ! ここは任せたでござる!」
「わかったロコ!」
「頼むロコ! ……口癖が移った……ロコ?」
そんな口癖をマズイと思いつつ、拙者は国王がいるであろう国王の間を目指す。
相手の攻める隙を消し、一気に駆逐する魔法三段撃ちをくらい足止めを受けていた新選組も勢いを取り戻し、スザク城門前の攻防は膠着状態になる。それを沖田殿が永倉殿の横でこう言っていた。
「フフフ、ここで足止めですか。時間も無いのに」
「沖田、俺達だけで斬り込むか? 国王の首を取ればいいだけだろ?」
「いえ、とある鬼がもう前進してますよ」
「ほう、流石だな。鬼が空を飛ぶとは不思議なものだ。局長にも見せてやりたいぜ」
「フフフ。確かに、鬼が空を飛ぶのは異様ですね。近藤さんがいれば、このスザク城など一刀両断にしていたでしょうねぇ」
と、沖田殿と永倉殿は視線を空に送り笑った。
そこには、新選組総帥の熱き氷の男が躍動していた――。
「フン、その魔法を足場にしてやる」
土方殿は火炎魔法を氷付けにし、トトトッ! と蹴って魔法騎士団の上空を前進し、魔法王国城内に浸入した。そのまま疾風のように駆け、近衛兵を斬り伏せて国王の間に進入した。そこにはカツラ国王が目をハートマークにしながら金髪の髪をとかし立っているでござる。そして、愛刀の和泉守兼定の二代目・之定を肩に担ぐ土方殿は言う。
「さて、国王の首を貰おうか」
「それは拙者を倒してからにして貰おうか」
「フン、来たかアオイ」
拙者はかつての恩人である新選組総帥・土方歳三殿の前に立った。
騒ぐカツラ国王を無視するように、拙者と土方殿は対峙する。
この男と真剣を交えるのははっきり言って楽しい戦いになるでござろう。
拙者の体内を巡る血が、悪鬼のように沸騰しそうでござる。
そして、冷たい息を吐く土方殿は言う。
「貴様で相手になるのかアオイ?」
「相手になるでござるよ。拙者の強さは元の世界の時より更に増しているでござるからな」
「フン。ならば――」
キィン! と二人の剣はぶつかる。
それを隠れて見ていたカツラ国王はキャーキャー! と騒いでいる。
はっきり言って邪魔でござるな。
この国王は自分の命を狙われているのを自覚しているのでござろうか?
「カツラちゃん! 早く逃げるでござるよ!」
「うぴょーん! 逃げてもアオイが勝つなら問題無いし、いいじゃない!」
「確かに。そうでござるな――はあああああっ!」
互いに剣圧で身体が倒れ、拙者は即座に足を振り抜く。
「はあっ!」
「フン」
ガスッ! と右と右の足がぶつかり合う。
この足癖の悪さはお互いの戦い方が似てるという嫌な敵でござる。
まぁ、この人の戦い方は実戦ではすこぶる強いから真似る事が多かったでござるからな。
その土方殿は和泉守兼定を構えつつ、
「まともにやり合っても無駄なようだな。俺の技で行くしかないか……」
「……!」
ここで必殺の居合いである鬼神光を……?
いや、鬼神光は拙者にも出来る。
これはおそらく土方殿のこの世界で目覚めた技。
刃紋が美しく乱れる和泉守兼定に冷気が収束し、技が発動する。
「氷柱舞」
「!?」
チャキィン! と地面から一本の氷のトゲが生み出され拙者の腹部を貫いた。
すぐさまそれを折り、地面から出現する氷のトゲから逃げる。
「どうだその氷は? これが熱き氷と呼ばれた俺の力」
「貴方には鬼というアダ名もあったはず。確かに氷のトゲ自体は鋭く貫通力もあるでござる。しかし氷とは脆いもの。それに拙者は血を流せば流すほど強くなるでござるよ」
「ほう、ならば一撃で倒さないとならんな」
氷柱舞を見て、うぴょーん! と奇声を上げるカツラ国王を黙らせるように土方殿は言う。
「氷結大津波」
ズザアァァァ! と氷の津波が拙者を襲う。
足元を氷柱舞の残りで固定されていた拙者は反応が遅れ、その氷の津波に呑まれた。
「ア、アオイー!」
というカツラ国王は叫ぶ。
ふう……と息を吐く土方殿は刀を鞘に収め言う。
「死んではいないだろう? こっちも本調子ではない。時間の無駄だ。早く出て来い」
「望み通りに――」
「!?」
拙者は背後から突きで土方殿の背中を狙う。
その刀の切っ先は血を舞わせた。
それを土方殿は褒めた。
「……敵の不意をつく良い一撃だ」
「防御して回避したでござるか?」
「しきれていないから、俺の頬から血が出てる」
拙者の突きを、自分の刀の鞘を抑えつけ鞘尻で弾き、拙者の刀の切っ先をそらせたようだ。
だが、そんな事は想定内でござる。
「新選組の突きは一度では終わらぬ!」
スパッ! と土方殿の背を横一文字に切り裂く。
新選組の突きは刀を平にして突き、外れれば即座に横凪ぎに攻撃を変換し相手を始末する。
パッ……と先程より多くの血が舞い、拙者は唖然とする。
土方殿は背ではなく腹部を斬られる覚悟で反転していた。
「……背を斬ったはずが前を? そこまでして背は斬られたくないでござるか!」
「背は守らねばなるまい。新選組の誰よりもな」
「それは……何故?」
「俺の法度で……死んだ隊士の為にもな」
その土方殿の覚悟に、拙者はこの人は昔と変わっていないと直感するでござる。
それが本当に、このスザク王国を支配しバクーフ大陸を支配する人物になるのだろうか?
ふと、気になる拙者は聞く。
「土方殿の本心は本当にこの大陸を支配する事にあるのか? 本当は何か別の事情があり……」
「俺の目的はスザク王国乗っ取りだけではない」
「だけではない……だと?」
「そうだ。俺達はまだ完全に転生していない霊体。故に活動の限界がある。それを解消するのがこの国の魔力秘宝・クリスタルだ」
そのクリスタルという言葉に、拙者は頭が混乱する。
魔力秘宝クリスタル。
それは一体何なのか? と思いカツラ国王を見るが、カツラ国王は金髪で顔を隠し聞こえないフリをしているでござる。ほーほー……。
しかし、土方殿はその魔力秘宝クリスタルについて説明してくれた。
「バクーフ大陸には四つの魔力の秘宝であるクリスタルがある。それを、まずこのスザク王国から戴く。それが、完全に俺達新選組を人間体へと転生させ、継続して百鬼夜行を生み出す魔の力となるのだ」
「それがクリスタルの力……」
拙者は初めて、バクーフ大陸の秘宝であるクリスタルの存在を知った。
恐らく、ミツバも知らぬであろう秘宝は途方も無い魔力を秘めているらしく、用途次第では最悪の事態を招く諸刃の剣の秘宝のようでござる。カツラ国王め……今度は寝たフリをしてるでござる!
ほーほーと拙者は頭をかきながら言う。
「クリスタルは渡さぬ。争いを起こす目的がある以上、新選組の完全転生をさせるわけにはいかぬ!」
シュン! と一気に拙者は斬り込む。
腰を捻り、拙者は叫んだ――。
「清流鬼神流・螺旋斬!」
キインッ! とその一撃は右に持つ刀の峰を左腕で抑え防御した土方殿に防がれたでござる――が、肩を蹴り上空に舞い上がり流星となる拙者はカッ! と目を開く。
「清流鬼神流・流星斬!」
シュパァ! と流星の一撃が、土方殿の額から腹部までを斬り裂く。
ぐらっ……とよろける土方殿は身体が粒子状になっているでござる。
そろそろ活動限界なのでござろうか?
「楽しかったぞアオイ。次は態勢を万全にし、百鬼夜行にてこの国を落とす。せいぜいもがく事だな。では、さらばだ。アオイ・コウケン」
そして、土方殿は霊体の粒子化という能力を使い、風と共に消えた。
同時にスザク城の門前に居た新選組隊士達も姿を消した。
そしてカツラ国王は寝たフリから起き上がり騒ぎ出す。
「あれ? 土方さん達はもうお帰り? 凄くカッコ良かったわね! うぴょーん!」
「……カツラ国王。頼むから隠れているでござるよ。貴方の首が取られたらこの国は敗北でござる」
「メンゴメンゴ! また来るって言ってたから楽しみだね!」
「拙者は楽し……いと言えば否定出来ぬが、今は国の一大事でござるよ」
「そう! 今は一大事なんだよアオイ! 大変、大変、変体!」
と、カツラ国王は無意味に拙者に抱きついて来る。
そんなこんなで、新選組奇襲事件は幕を閉じたでござる。
次の戦いは百鬼夜行という恐怖を感じつつ、拙者は自分の血が新選組との戦いで熱く燃えているのを隠せずに朝まで鋭利な刃のような三日月を眺めていた。




